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51.最後の竜(4)


「ひいいいいえええええええ!! 落ちるぅうううううううううう」


 空を駆ける速さにおののきながら私は叫んだ。


 空に飛び上がった飛び馬たちは凄い速さで低空を疾走する。疾走、というよりもジャンプしながら進むと言った方が近いかも知れない。なるほどこれなら20分もせずに湖沼地方へ到着するだろう。


 当然、高さも落下も強烈な訳で、もともとジェットコースター嫌いの私はすぐに飛び降りたくなった。


「どうにかならないんですかこれええええ」

『我慢しなよ! それでもまだ僕はマシなんだから!』


 言いながら神様がニヤッと笑う。私は逆に真顔になった。


「……神様、知ってたんですか。エドガーのこと」


 神様は答えない。私の中で怒りが弾けた。


「酷いですね、私たちを見て笑ってたんだ」

『笑ってはいないよ。でも面白いと思っていた』

「人の生き死にを面白いとか……こっちは必死なんですよ!」

『だから面白いんじゃん。言ったよね、前に。君こそ勘違いしてる。僕は神だよ?』


 神様の声はあくまで冷静だ。私は頭を落ち着けようと思った。気を緩めると涙が出そうになる。だめだ、しっかりしろ。今は考えなきゃ。何か、何か良い方法はないのか。


 でもさあ、と神様は暢気な声を出す。


『不思議だよね。最初は君も断罪ルートへ行こうと思った訳じゃん? それが流されてっていうか、魔法で言うこと聞かされて、なし崩しに王子ルートに乗せられて。なのに必死になるんだねえ』

「えっ、魔法で言うことを聞かされてって、どういう……」

『あれ、気付いてなかったの? あの先生、2回も君に魔法を掛けていたよ』

「二回!?」


 うん、と神様は頷く。


『1回目は、大雨の日。あの雨と、君を道に迷わせたのがまず一つ目の魔法。もうひとつが、舞踏会の夜。君が前後不覚に陥って愛を宣言したの……あの先生の魔法だよ?』


 ぐらりと足下が揺らぐ気がした。


「どういう、どういうこと……」

『君は王子との近づきも、その告白も仕組まれていたってことだよ』


 嘘だ。

 そう否定したいけれど、なんだかストンと納得する自分もいる。


 おかしいと思ったのだ。特に舞踏会の夜は。酔うほどお酒を飲んでいないし、先生に会ってから急に心がぼやけたから……。

 いくら流されやすい性格だからって、あれだけ悩んでいたことをあんなに素直に切り替えられる訳がない。


「それ、本当なんですよね?」

『僕は手助けはしないけど嘘もつかないからね。しかしこの件に関してはごめん、知ってると思ってバラしちゃったのは悪かった。でもバレバレだったじゃん、あんな……』


 ああ、と私は飛び馬の首筋に突っ伏した。

 出会いも、告白も、すべて仕組まれたことだった。自分の行動では無かった。


 じゃあ王子への気持ちも、偽りなの?


 ……いや、違う。

 違う、と私の中の何かが強く告げる。


 脳裏に蘇るのはこの二ヶ月のこと。


 王子と近付いて、思い切り甘えて、甘えられて。お菓子みたいなキスを交わして、おしゃべりをして。見つめ合って、触れあって。海辺で語り合って。

 その前に18年間の歴史もある。あまり触れ合えなかったけれど、お互いに同じ時間をすごし、風景を共有した。


 その全ては真実のはずだ。


 たとえ経緯が偽りであっても、関係ない。

 今の気持ち、私が王子を愛していること。それだけが確かな事実なのだから。


「……いえ、大丈夫。関係ないです。今、私が王子を愛している気持ちは本物だから!」


 神様が飛び跳ねながら、おや、というようにこちらを見た。


『言い切るね」

「当たり前です。悩む間もないです」

『王子もまた、流されているかも知れないよ』

「別にそれでも構いません。私は十分に愛情を受け取っていますから」


 私はきっぱりと顔を上げ、青い空を見つめた。もう迷いはない。

 ほう、と声を上げて神様は楽しげに飛び跳ねる。


『なんとまあ人間の強いこと! 君たちに特別な力なんて無いくせにさ!』

「うるさいですね、信じる力はあるんですよ! それに私にはひとつだけ、神様の……」


 ハッとした。


 ひとつだけ、特別な力が、ある。

 そうだ。もらえるのだ。


 私の頭には起死回生の一手が、本当に最後の一手が閃きつつあった。



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