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49.最後の竜(2)


 理解が追いつかない。私の頭はパニックだ。

 どうして、どうして……エドガーが、なぜ竜に!?

 パリスが弱々しく目を開き、ああ、と悲痛な声を上げる。


「え、エドガー王子、もう、竜に……!」

「……って、パリス、何か知っているの!?」


 頷くパリスの横からクロムウェル先生が手を伸ばし、ユイカを引きずり上げた。ユイカが抵抗する素振りを見せたのも一瞬、先生が何かを唱えるとがくりと力を失ってしまう。パリスはうっすら目を開けたが、伸ばした手は空を切った。


「もう少し、長持ちしてくれれば良かったのですが。呪いの不安定さだけは最後まで制御できませんでしたね」


 クロムウェル先生は顔を上げ、竜を、エドガーの方を見る。


「王子、聞こえますか。かねての手配通り、決めてある場所へ」


 竜は素直に頷き、それから赤い目で私を見た。


 ――グロリア。


 その声はもう、エドガーのものじゃない。腹の底から響くような、地の唸りのような。

 それでも、込められた感情にはエドガーの名残がある。良く見ればその眼差しも、雰囲気も。

 呆然としていた私の頭が少しだけ動き出す。


「エド、ガー……」


 ――すまない、グロリア。詳しくは、パリスか……私の日記を……。


 苦しげに顔を歪め、押し出すように一言。


 ――愛していた。ありがとう……。


 バサリと轟音が響いて巨竜が翼を広げる。更なる風圧に私もパリスも今度こそ吹き飛びそうになった。

 竜が空中に飛び上がるのと同時にクロムウェル先生の姿も光に包まれ、浮き上がる。片手にはユイカを抱えたままだ。


「待って、エドガーッ……! 先生も……!」


 一瞬、風が強まって吹き過ぎる。言葉がもぎ取られ、だがすぐに風は落ち着いた。

 見れば空の高いところを黒い竜巻が飛んでいく。あの中に竜が、エドガーがいるのか。こうして外側からは確かに、竜巻にしか見えなかった。


「兄上ッ、グロリア嬢、ご無事ですか!? ……これは一体!?」


 空を見上げたままの私にセドリック、それに衛兵達が駆け寄ってくる。地上に目を戻せば庭の木々は根こそぎ倒され、廊下の一部が吹き飛んで室内がむき出しになっていた。思っていたよりも酷い風圧だったようだ。


「パリス、パリスもどうしてここに! グロリア嬢、しっかり! 何があったのです!」


 セドリックに揺さぶられて私の理性が戻ってくる。ああ、と声を上げて私はセドリックにすがりついた。


「エドガーが、エドガーが竜に! それに、クロムウェル先生が、ユイカちゃんを連れて……!」

「り、竜!? 向こうの近衛宿舎からは黒い竜巻しか見えませんでしたが!?」


 やはり外側から竜の姿は見えていなかったのか。説明したくても私の頭も混乱したままだ。一体何から話したら。エドガーが、先生が、ユイカちゃんが。


「ぼ、僕からご説明します」


 よろめきながらパリスが身体を起こす。服はズタボロ、顔は腫れていて、セドリックは悲鳴に似た声を上げた。 


「パリス、一体その姿は……!」

「その前に……大鷲か何か、早い乗り物を……用意してください……飛び馬でもいいです……」

「だが、しかし……」

「セドリック、頼む、早くしてほしい……間に合わなくなる……!」


 パリスの声に、低い、別な声が応えた。


「すべては私から説明しよう……衛兵、はやく飛び馬の手配を。国境警備隊の飛び馬を使用して良い。騎乗用の鞍も人数分だけ」

「国王陛下……!」


 庭の向こうから歩いてくるのは確かに大柄な国王だった。その言葉を受けて衛兵が敬礼し、慌てて走って行く。王国軍では緊急連絡用に魔法で大きく育てた鷲を飼っているとは聞いていたが、まさか乗れるものとは知らなかった。

 彼は小さく笑うと、疲れたように息を吐いた。


「すまない、グロリア。あなたを最大限に守る算段を付けていたが……こんなに早く事が起こるとは」

「どういうことなのですか……? まさか、陛下も知って……」


 国王は重々しく頷く。


「ウィリウス師に口止めされ、禁忌の魔術も掛けられていたから、言葉として語ることはできなかった。だがこうして魔法が解除されたところをみると、もはや我らの沈黙も不要になったのだろう」


 すまなかった、と彼は悲しい顔をした。


「エドガーのこと、真実を貴方に隠していてすまなかった。あの子は……初代のエルナード国王から続く呪い『竜の呪い』を受け継いでいる」

「りゅうの、のろい……?」


 私は言葉だけを繰り返す。だがセドリックは表情を引き締めた。


「陛下、もしや、先代の王弟陛下が亡くなられたのも……」

「ああ、彼の急死も呪いが原因だ。竜巻災害で、とされていたな」

「教えてください、呪いとはいったい」

  

 国王はセドリックを、それから私を見つめた。


「端的に言えば、王族に受け継がれる死に至る呪いだ。その呪いを継いだものは、いつか滲み出した呪いに身体を蝕まれ、周囲を害し、そうして最後には『竜』の身体に変化して毒をまき散らす」

「竜に、変化? 毒を!?」


 私はただ、呆然と聞くことしか出来なかった。竜、呪い、なんですって? 

 セドリックがぶるりと戦慄する。


「で、では兄上は、このまま……!」


 国王は重く、悲しげに頷いた。


「呪いが溢れれば最後だ。逃げることはできない、死の呪いだ……」


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