47.王子の日記(3)
もしかしたら、最後になるかもしれない記録に。
私はいま、深夜の静けさの中でこれを描いている。
まずは運命の神に感謝を。
グロリアと出会わせてくれたこと。
彼女と共に10年を静かに過ごせたこと。
そして最後の数ヶ月にぎこちないながらも愛を交わせたことを感謝したい。
今日の昼、ついに恐れていたことが起きた。薬で抑えていた『呪い』が沁みだしてきたのだ。
魔法薬でも押さえられなくなったらもう終わりが近いと先生にも言われている。あと2週間、もう少し……それくらいの時間しか残されていないだろう。
だから父上にも時間をかけて話をした。王族の全員が、成人になるときに『竜の呪い』について先生の話を聞いている。私が生まれたときにも話があったそうだ。だから父上は予想以上に驚かなかったが、少しだけ、肩を落としていた。申し訳ない気持ちになった。
この後のことは先生がやってくれるだろう。これまでの、代々の呪いの継承者と同じように。
幸いなのは、私がこの『呪い』を引き継ぐ最後になるだろうということだ。先生がそうはっきりと言っていたから信じて良いだろう。
だからこそ、死ぬまでに多くの力を発散しなければならないそうで……10歳の頃から呪いが滲んでしまったのもそのためということだった。
思えば、先生がアンゲリス王の最期に立ち会ってからは400年、こうして『呪い』を受け着いだ王族を幾人も人知れず処理してきた。先生も言っていたが、この原因となる初代を攻めるつもりはない。乱れに乱れていたその頃、貧しい我が国には他に方法は無かったのだ。この地を安定させるために、私も先祖たちに倣うべきだろう。それでこそエルナードとこの地域の平和は約束される。
ただ、心に残るのはグロリアのこと。
グロリア、これを君が読んでいる時には、もう私はこの世にはいないと思う。
初代より続く『竜の呪い』のこと、その処理のこと、先生や父上に聞いていることだろう。
最初は君と一緒に居たいと思った。
だが成長するにつれ、母と同じように失うのが怖くなった。(身近で世話をした母が私の呪いを受けていたこと、先生から聞くといい)
それで君を遠ざけようか、迷いを持ったが……君の気持ち、愛情を受けて私も勇気をもらった。たとえ短い間でも良い、君を愛して生きられるなら構わないと決意した。
残す君のことも父上に託した。一度王族となった君は生涯に渡り王家の保護を受ける。これからのことは心配しなくて良い。もっとも、君の幸せなご一家なら心配もいらないと思うが。
もしも私以外に愛する人ができたら、喜んで王家は祝福し、血縁者として送り出すだろう。そうでなければ一生王族の暮らしを送れば良い。その後の人生には何も心配はいらない。
君と一緒になれたこと、ただその奇跡を、私は神に感謝したい。
君を悲しませることになってすまない。
だが君と愛し合えた日々が私にはすべてだった。一瞬なのに永遠にも思えた。
愛している、グロリア。心から愛している。
私亡き後にも、君にすべての幸いがあらんことを。




