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36.王宮暮らしは楽すぎる(4)


 黒猫は、ふん、と鼻を鳴らして表情を改めた。


『でも君、よく見てみたらこっちルートでも面白い運命なんだよね。だからちょっと許す。がんばって走り抜けてみてよ。まあご褒美はないけど』

「えっ、神様なにか見えてるんですか!? こわ」


 私の怯えに、ニヤア……と不気味に笑う。


『そりゃ見えてるよ。こう見えても神だしね。情報の断片から、そこに続く全ての情報を引きずり出すのなんて簡単さ。普段はあまりにデータが膨大すぎるから見てないけど、この2ヶ月ヒマだったし、いろいろ見ちゃった。フフッ』

「何が見えてるんですか、教えてくださいよ。未来知りたいし」

『言うわけないじゃん、こんな面白いこと! それにキャラが選ぶ『選択肢』は無限に見えるんだけど、どれを選ぶかはまだ未確定なので……僕が何か言って運命が変わると困るしね。人間が何かを悩みながら選択する様を見るのが僕の生きがい、唯一の娯楽だから、最大限に苦しんで欲しい!』

「あ、ハイ……がんばります……」


 子供じみたやりとりに、だが私はハッとした。


「神様、さっき情報が引きずり出せるって言ってましたよね? 私の未来はひとまず良いとしても、ユイカちゃんや、パリスくんの今の情報って見られますか?」

『ああ、君の友達ね。たしか舞踏会の日に出て行ったよね。あれから音沙汰ないわけ?』

「いや、なんとなくは聞いているし、絵はがきとかも届いているんですけど……」


 あの舞踏会の次の日。ユイカはパリスと一緒に彼の故郷である隣国・アルマ大公国へ行くことになったと連絡は受けた。舞踏会に来ていた使節団と共に帰国するとのことで、一報をもらったときにはすでに国境へ向けて出発していた。


 もともとアルマ大公国とエルナードは小国の隣同士、こじんまりとして首都も近い。元の世界の感覚でいえば北海道と本州くらいの感じか。事実、パリスたちは馬車で丸一日ほどで向こうの首都へ着いたそうで、その後、ユイカからも手紙がきた。いまはひとまず円満に隣国で暮しているという。


 パリスが隣国の王子様ってのは知らなかったけれど、エドガーや国王様は彼の素性も知っていたらしい。二国は古くから同盟関係にあり、王族が行き来するのも良くあることだったとか。事実、王立学院を卒業したあとは、セドリックが向こうへ留学する手はずだそうだ。


 正直なところ、聖女はかなりイレギュラーな存在、しかもユイカの言動が激しすぎるので、向こうでも対応を迷ったらしい。だが国王やエドガー、パリスも熱心に説得し、結局受け入れてくれたのだと。


 確かに、ゲームの中でも聖女を受け入れる国、追い求める国、迫害する国、色々だったもんね……。

 二国とも尊重してくれる国でよかった。私が彼女のご希望に添えなかったのは申し訳なかったけど、友達だと思っていることに変わりはない。

 

 黒猫は遠くを見るように、首をカーテンの方へと伸ばす。


『実際に暮している様子を見たいってことかな……どれどれ。聖女ってさ、君と同じ異世界から来てるんだよね。君みたいに死んで来ているわけではなく、ゲームにログインしてるって形なんだけど。この世界の人じゃないから全情報は見れないけど、覗くくらいは……』


 おっ、と声をあげて目を見開く。


『見えた! ああ、2人とも元気そうだよ。窓辺で寛いでる。和やかに笑ってるから楽しい話でもしているのかも』


 私はホッと息をついた。あのユイカのことだし、パリスもいるから大丈夫とは思っていたが、実際に確認できると安心する。


「ユイカちゃんともまた会いたいなあ。パリス君とも」


 記憶のある私が2人と暮したのは短い間だった。でも短いけれどとても楽しい時間だったのだ。この世界で出来た親友達と呼んでもいい。こちらの勝手な思いだけど……。


「そうだ、手紙でも書こう!」

『そうそう、書ける内にいっぱい書いときなよ』


 黒猫があくびをしながら寝転がる。なんだか不穏だが、いまツッコんでもどうせ教えてくれないだろう。


 ユイカは攻め込んでくる、とか言っていたけれど、できれば諦めて欲しい。仲良く暮したい。そして本当にできるなら、私たちの結婚式には来て欲しいと思っているのだ。

 私は便せんを取り出すと、丁寧にペンを走らせた。拝啓、ユイカちゃん……。







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