32.王子の日記2
まずは事実から記したい。
今日、王宮では成人舞踏会が行われた。その席でグロリアと私は正式に婚約者同士となった。
神よ、この奇跡に感謝します。
ユイカが介入してきた騒動については詳しく書くまい。あの子は聖女であり、古来から聖女とは自由な者。常識で推し量る方が難しいからだ。私もそう思い、尊重しつつ、妹のように思い親しくしてきた。
しかし彼女が騒ぎを起こした際、グロリアは予想外の反応を見せてくれた。そちらの方が私には重要だ。
私への愛を、私よりも先にはっきりと示してくれたのだ。
彼女の勇気ある行為に胸打たれると同時に、私は自分の迷いが吹っ切れるのも感じた。彼女を想うあまりこの秘めた感情を伝えないように、心を交わさないようにしてきたが、もうそれも止めようと決意した。自分の弱さを、迷いを捨てるときが来たのだ。だから彼女に愛していることを伝え、口づけを交わした。その柔らかさ、可愛らしさ、愛おしさ。素晴らしい感覚だった。
私はこの先も、グロリアを愛し、共に過ごしたい。ふれあい、慈しみたい。
たとえそれが短い間だとしても……。
先ほど夜遅く、私の部屋に『先生』がやってきた。
いつもの薬を打ち、呪いを押さえ込んだのを確認してから、私は打ち明けた。完全に呪いを抑える魔術薬を使いたいと。
先生はとても驚かれたが、納得されたようだった。
「グロリアと相思相愛だと分かったいま、愛のある生活を送りたいのですね。分かります、でも……副作用も分かっているのでしょう? いま打っているような数日ごとの薬ではなく、長期間を完全に押さえ込む薬です。投与し、効果が切れれば……」
私は、分かっています、と答えた。どのみち、この生活が長く続かない事は分かっている。だったら、身体から滲み出す呪いなど気にせず、愛するグロリアをはっきりと見たい、触れたい、心ゆくまで抱きしめたい。
先生は深く頷いてくれた。
「君の決意に敬意を表します。その苦しい、悲しい決断が王国の平和を保つのです。先代も、そのまた先代の継承者もそうして誇らしい決意をしてきたことを私は王国民として嬉しく思います。明日、その薬を持ってきましょう。そうしたら明日からは思い切り彼女と触れあって大丈夫ですよ」
「抱きしめても……口づけも?」
「ええ。短くしようと気にしなくても、大丈夫です」
私は神に喜ばなければならない。この最後の日々、そのような薬で思うように暮らせることは幸福だと。
最後に私は先生に尋ねた。
その薬を使えば、私の寿命はあとどれくらいになるのかと。
先生は悲しげに目を落とし、長くて半年、短くて3ヶ月だと言った。




