31.運命の日(6)
「さーて、どうしよっかなー」
ユイカは1人、学院のベンチに腰掛けて花火を眺めていた。
先ほど、大広間で啖呵を切ってから30分ほど。中央王宮から学院までは通り2、3本挟んだ距離であり、ユイカの転移能力なら2回も連続転移すれば着く距離だ。
花火の広がる空は華やかだが、週末の学院内はしんとしている。しかも王宮舞踏会の夜なのだ。寮の子たちもみな遊びに行くか、手伝いに出ているはずで、人気がないのは当然だった。
けれどユイカに寂しいという気持ちはない。
逆にわくわくしていた。これはゲーム。私は異世界からログインした主役。だから自由にしていい。どこの国に行こうがどこの海に船出しようが、私の自由なのだ。
そしてあの2人、王子もセンパイも、どちらも恋人にしたいというのも自由だ。あんなに綺麗で面白い2人、いままで会ったことがなかったから。自分のこの感情が恋愛なのかと聞かれると分からないけれど、とにかく側に居たいし触れあいたいっていうのは素直な気持ちだと思う。
この国は平和すぎる、とユイカは最初から思っていた。王宮もほんわか、学院もまったり、楽しいけれどこう、刺激が足りない。もっとわくわく、ビックリするようなことが起きて欲しい。
だからひとまず、どこかの国へ旅したい。できれば近くて綺麗で海もあってびっくりサプライズが起きるような……。
「ユイカさん、やっぱりここでしたか!」
顔を上げたユイカは驚いた。
「パリス、どうしたの!?」
「ユイカさんが心配で抜け出してきたんですよ。お手伝い要員も潤沢にいて人が余っているようだったので……よかった、思った通りの場所にいてくれて助かりました。一晩中探すところでしたよ」
ニコニコするパリスの顔は美少年だ。長いまつげ、白い肌には少しだけそばかす。青い特徴的な髪を撫でつけているから普段とはまるで違う。そう、王子様みたいな。
「パリスって優しいのね。流浪民のときもまっさきに乗り込んで言ってくれたし」
「い、いや、そういうわけでもないですけ……ユイカさんのことなら、そりゃあ心配にもなりますよ。あんなこと言っちゃって、これからどうするのかなって」
「そう、それを今悩んでいたところなの。あんな風に言っちゃったし、そもそもこの国は刺激が足りないのよね、平和で。ちょっと外国にでも行こうかなって……」
「では、私の国に来ませんか」
凜とした声にユイカは目をぱちくりとさせた。
「えっ、パリス? 何の冗談? 私の国って……」
「申し遅れました。私の名前はパリス・アルスキュルではありません。……パリスティア・アンブローズ・アルマ。エルナードの隣国、アルマ大公国の公子です」
パリスはすらすらと答え、深く一礼する。その姿にはいつもの引っ込み思案な青年の姿はない。ぴしっとした綺麗なお辞儀に、ユイカも慌てて背筋を伸ばした。
「パリスたん、本気? 冗談……言うような性格でもないよね?」
「当然です。私は正真正銘の隣国の王子なのです。……実は国王陛下や学院の先生達はご存知なんですよ。 友好国の王子である僕を学院に招いてくださったのはその方々なので」
「なんで隠してたわけ? はっきり言ったらモテモテだったじゃん!」
「い、いや、恥ずかしいし……それに虐められそうだし……」
そういう姿はいつものパリスだ。ユイカは安堵してくすっと笑った。
「さきほど、国王陛下や側近の方にも、ユイカさんが行きたいと言えば国外旅行できる許可を取ってきました。ユイカさんはここの正式な国民という訳ではないので、厳密には出国制限とかできないらしいですけれどね。聖女ってそういうカテゴリーなんですね」
「まあ実質的に空から落ちてきた流浪民だしね! 無国籍市民よ!」
「それはそうですけれど」
面白がったユイカの言い方にパリスが口元をほころばせる。
「実はクロムウェル先生にもユイカさんを頼まれているんですよ。破天荒だし、心配だから様子を見ていて欲しいって。この場所にいるんじゃないか、って教えてくれたのも先生で」
「ああ、クロムウェル先生優しいし、私たちをよく知ってるもんね! 学生みんなのことを心配しているんだわ」
「そう、ですね……」
パリスは一瞬、思慮深い表情をしたが、すぐに明るい顔に戻した。ユイカに向けて恭しく腕を差し出す。
「ではユイカ姫、参りましょう。私の馬車でご案内します。今日はどうします? 寮に戻られますか? それとも我が国の使節団が宿泊している離宮に?」
「とりあえず……パリスに任せるわ!」
「では離宮で少し遅い晩餐などどうですか?」
わくわくした顔でユイカはパリスの腕に手を絡める。新しい何かが始まりそうな、そんな嬉しい気持ちで夜の広場を歩き出した。




