28.運命の日(3)
「センパイ、遅い! もうじき入場よ!? 迎えに行こうかと思っていたんだから!」
控え室に戻った私に、ユイカが怒ったような、焦ったような声を浴びせる。
周囲を見回せば新成人達はすでにペアで腕を組み、一列に並び終えている。先導するユイカたちの後ろ、大扉のすぐ前にエドガー王子が立っていた。白い軍服、撫でつけた金髪。胸には白いアムネリスの花を指している。私の姿を認めると、彼は固く微笑んだ。
「待っていた、グロリア」
「遅くなりまして申し訳ございません」
私の口から丁寧な言葉が流れる。王子の側に行くと私の体は勝手に彼へと腕を絡めた。王子が驚いたように見下ろす。その顔を見上げ、私はにっこりと微笑んだ。
「婚約者として、エドガー王子とご一緒できるのを嬉しく存じます」
「グロリア……」
王子の表情は穏やかだ。ぼんやりした頭で私は嬉しく思う。ああ、王子とこうしていられてとてもしあわせ。それ以外の感情は、よく考えられない。
やがてファンファーレのような音楽が鳴り響き、厳かに扉が開かれた。
大広間の明かりが王子と私を包む。そのまぶしさに思わず目を細める。
「さあ、共に行こう」
王子が歩き出し、私も静かに続いた。
大広間の中は人で満ちていた。王族、友好国の来賓、政治的役職のある人々。貴族も市民も、獣人の姿もちらほら見える。全員が正装を纏い、天井のシャンデリアが勲章や宝飾品を星のように煌めかせていた。
広間の最奥には高座があり、そこに玉座が置かれている。座っているのはエドガー王子の父上、現エルナード国王アラン陛下だ。私たちはしずしずとその壇の手前まで進み、足を止めた。
「それではこれより、新成人の国王謁見を行います! ヴィクトリア嬢グロリア、前へ!」
呼ばれた私は軽く一礼し、王子に手を取られて壇上へ。低めに作られた階段は合わせて20段、この国の歴代の王の数を表わしているらしい。
国王は立上がって私たちを迎えてくれる。息子であるエドガーとは対照的に厳つい体躯の国王だが、微笑む顔はとても優しかった。
「ヴィクトリア家息女グロリア。ここに国王アラン・エルナード5世が、我が王国の新たなる成人国民としてそなたを認める。代々の王と運命の神の加護のあらんことを」
国王の手の動きに合わせて私たちは膝を突き、深々と一礼をする。周囲に拍手が沸き起こり、私たちは顔を上げて階段を降りる。
広間の列は次々と国王への段を上っていく。パリスやセドリック、ユイカはまだ成人に満たないので、賓客達と同じ列で成人を見守っていた。
私は彼らを見ながら、半ばぼうっとしていた。不思議な感覚だ。音はあるのに、聞こえていないような。どこか世界から切り離されたような。
「グロリア、どうかしたか?」
王子が小声で聞いてくれる。私の体がすぐに反応して、きっぱりと首を振る。
「いえ、何も問題はありません」
声も自動で出てくる。おかしい、と思う間もなく思考もぼやける。王子は、そうか、と答えて同じように前を向いた。
長い文言で祝福されるのは最初の一組だけ、あとは名前を読み上げ短い祝福で終わる。人数は多いが一組ずつの謁見の時間は短いため、100組を超える祝福でもあっという間だ。
やがて最後の一組が終わり、国王が立ち上がった。魔方陣が起動する音。
「祝福を受けたすべての新成人に幸あらんことを。合わせてここに、第一王子エドガー・ジャスティス・エルナードの婚約を正式に発表する。エドガー、ならびにグロリア・ヴィクトリア、壇上へ」
国王の言葉に、段の下に立っていたお父様がホロリと泣きそうな顔をする。私と王子が手を取り合い、再び壇上へを登ろうとしたその時。
「お待ちください!」
ユイカの声が響き渡った。




