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23.グロリアの夢


 コツコツ、コツコツ。

 足音が響く。


 どこか、広い場所を1人で歩いている。

 ずいぶん天上が高い。いや、自分の背が低いのか。

 廊下のようだが、やけに豪華だ。ところどころに置かれた小さなテーブルごとに違った花が飾ってある。

 その先から、咳をする音。


 やがて廊下の一番奥に扉が現れた。

 わずかに開いた扉を覗くと、中には天蓋のある大きなベッド。

 その上には少年が寝ていた。


 私は近付いて、目を瞬かせる。

 なんて綺麗な子だろう。金髪で、色が白くて。熱が出ているのか、頬が赤い。うっすらと立ち上っている赤い煙は病気のせいだろうか。

 少年がうっすらと目を開け、こちらを見た。


「きみは、だれ?」


 私? 私はグロリア・ヴィクトリアよ。


「何をしに来た、早くここから出ないと!」


 離宮で草むしりをしていたら、あなたを見つけたの。病気だもの、放っておけない。

 お熱、出しましたの? 私が看病いたしますわ。


「だめだ、君も病気になってしまう、母上みたいに……!」


 私は首を傾げた。

 でも、病気の方をおいていけませんもの。


 少年は驚いたように目を丸くし、それから大きな息を吐いた。

 その間に私は傍らにあったボウルから水に濡れたタオルを取り出し、絞って、少年の頭に乗せる。自分が熱を出したとき、お母様はよくこうしてくれた。こうすると楽になるのだ。


 しかし少年は泣き出した。

 どうしたの? お身体痛いの? 私は彼の手を握ってあげた。細い手。赤く光ってる……。


「ありがとう……君の名前は?」


 言われて私は嬉しくなった。

 私はグロリア・ヴィクトリア、貴族です。

 安心して、わたし、あなたを助けるわ!






 また次の場面。

 私はその子の隣に座っている。お父様と、王様が仲良くお話をしている。


「お告げのような夢を見たのだよ。君のところのお嬢さんとなら、王子も仲良く出来るだろうと」


 隣の子は王子様らしい。私はこわごわと目を上げる。凄く綺麗な、人形みたいな王子様。あのとき熱で寝ていた子だ。

 怒ったような表情も仕方ないんだって。お母様を亡くされたばかりなんだって……。

 これから、この子が私の「こんやくしゃ」になるのだと言われた。将来、私はこの子のお嫁さんになるらしい。じゃあせめて仲良くしないと。でもちょっと怖いな。

 王子は赤い目で、睨むようにこちらを見た。私は慌てて微笑む。


「これから……よろしくおねがいいたしますね」


 王子は何も言わず、悲しげに、でも少し嬉しげに頷いた。






 それから、断続的な場面が紙芝居のように脳裏に蘇った。


 王子に睨まれている私。

 乗馬の時も遠くから見ている王子。

 王子はいつでも私を睨んでくる。でもこちらが見返すと、すぐに目を逸らしてしまう。

 何を考えているの? 分からない。一緒にいたいけれど、忙しくて時間はない。

 せめて贈り物をするし、向こうからもお花などを返してくれる。でもお手紙とか、それ以上はない。ちょっと寂しいけど、仕方がない。そういう子もいる。


 あれはいつだったろう。


 私が上げたハンカチを握りしめ、王子が震えている。

 模様が嫌いだったのかな?


「無理して使わなくていいのですよ?」


 そう言ったとき……。

 彼は私の手を握った。


「すべて取っておく。君からもらったものは、私の最後まで大事にしたいから……」


 そこで初めて、私は王子の微笑む顔を見たのだ。

 



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