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21.悪役令嬢、道に迷う


「うわー、これはすごい雨だなー」


 私はひとり、小走りで帰路を急いでいた。


 進むにつれ雨も雷も激しくなっていく。この分だと雨上がりを待っていなくて正解だったな。いつ止むか分からない。まあ慣れた道だしすぐそこだ。がんばろう、自分。


 それにしても、先生に相談して良かったと思う。あんなに優しい声で、優しくアドバイスされて。ごちゃついた心がすべて解決した訳では無かったけれど、整理はされたし、なにしろ安心した。相談を聞いてくれる人が居るって言うのは大事なことだ。


 ただ、断罪ルートを選ぶなら、そのすべてをぶっちぎることになるんだよね……。


 なんというか、この一日でいろいろな事を学んで、知ってしまった気がする。

 ユイカのこと、セドリックとパリスのこと、王子のこと。先生の優しさだって……。


 ゲームなら、簡単だった。 

 攻略対象の王子だけ気にしていればいいし、回りのキャラがこちらの行動で変化することは少ない。決まり切った感情を向けてきて、こちらはそれを読むだけでいい。


 でも現実は違う。そう、全然違うんだなあ……。

 異世界転生なんて簡単なはずだったのに。どうしてこんなモヤモヤする羽目に。

 

 考えごとをしながらも、分かれ道を校舎の方へ曲り、また少しして道を選び……そのとき、雷がひときわ大きく鳴り響いた。


「わっ」


 足下の何かに躓き、私は派手に転んだ。

 濡れた地面に傘と一緒に転がり、慌てて身体を起こしす。いてて……。

 見れば大きめの枝がでん、と転がっている。雷に気を取られて気付かなかった。立上がってみると足に違和感がある。目をやった私はうわあと声を上げた。


「つ、つま先……壊れた!?」


 年季の入った革靴のつま先がばっくり開いている。中の靴下はすでに泥だらけだ。古かったから仕方がないが、これじゃあ早くは走れない。ついてないなあ。

 しょぼくれた私は傘を拾い、周囲を見て愕然とした。


 あれ……ここ、どこ?


 雨に濡れた森は視界が悪い。だがそれでも、ここが校舎の近くではない、ということは分かる。かろうじて煉瓦の小径は続いているが、回りは深い森だ。人の声も気配もない。


 幾度か曲がっているうちに迷ったのだろう。雨が降っていて、考え事もしていたから道を間違えたか。まあ道を辿っていけば表示板も出てくるだろう。そう思って再び歩き出した。靴がパカパカ言っているからもう走れない。本当についてない。


 だが少しも行かないうちに今日の運の悪さを実感することになる。


 完全に道に迷った……。


 進んでも進んでも深い森。

 こういう一句があったよね、うん。


 周囲は土砂降りだし、道もいつの間にか煉瓦から土に変わっている。暗くて深くて今にも動物が出てきそう。そういえばこの世界にも熊だのライオンがいるんだっけ。震え上がって私は近くの木の陰に身を寄せた。

 さてどうしよう。


 迷っている間にも雷は光るし、雨も降り続ける。さっき転んだせいで服はぐちゃぐちゃ、スカートは中までびっしょりだ。きっと顔も泥だらけのはず。この格好でみんなの前に出たら断罪ルートが近付くかもしれない。 


 さらに夕方が近付いたせいか、ひどく寒くなってきた。靴も壊れているし本当に最悪の状況だ。

 ひとまず木の下に居れば少しは雨風がしのげる。木の根元にはちょっとした倒木がベンチみたいに転がっていて、私はそこに腰掛けた。お尻がびっしょりだけどもう仕方ない。


 あーあ……人生に迷った上に道にまで迷ってしまった。笑えない。

 こんな時こそ神様じゃない? 助けてくれないとは思うけど、寂しさは紛れるはず。


「……神様、います? そのへんにいないですか? 助けなくてもいいですから、ちょっと話でも……おーい」


 返事はない。こういう時に限って神様もいないのよね、とほほ。


 私は身体を丸めて木に寄りかかる。

 ひとりぼっちで濡れて寒かったらそりゃあ誰だって心細くなる。

 この感情、懐かしいな。どこかで。


 ああ、そうか。

 前世で死ぬときと似た気持ちだ……。


 足も痛いし、ここでちょっとだけ休んでから道を探そう。歩いていればどこかにはつくだろうし。森の奥なら逆に歩き、繰り返すうちにきっと校舎につく。こんな時こそ前向きに、明るく。


 息をつくとドッと疲れが出てきた。ダンスもしたし、流浪民騒ぎもあったんだもんね。今日はクタクタだ。

 それにしてもこんな状況なのに眠くなるとは。自分、思ったよりも図太いな、と感慨に浸る間もなく、徐々に意識が薄れていった。 



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