表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/61

プロローグ


 ――報われたい、と思っていた。

 がんばったらその分だけ幸せに。条件をクリアしたらハッピーエンド。

 決められたルートに乗れば必ず幸せな結末が待っている……そんな人生だったらよかったのに。

 そう、王道乙女ゲームのように。






 死ぬかもしれない。


 というか死ぬんだわ、これ。

 仰向きに倒れたまま、私はぼんやりと落ちてくる雪を眺めていた。


 車道にちょこんと座っていた黒猫。迫るトラック。とっさに庇ったけれど、その顔を上げる間もなく私が轢かれてしまった。ついさっきのことだ。

 流れた血も感じず、救急車の音も聞こえない。心臓の音だけがやけに大きいから、たぶん、もう身体がダメになっているんだろう。


 思い返せばごく普通の人生だった。

 二十代後半のしがないOLで、彼氏ナシ、貯金ナシ。ついでに残業と持ち帰り仕事で休日もほとんどナシ。お人好しで世話好きだとはよく言われたが、あまり報われたことはなかった。

 その挙げ句が猫を庇っての轢死。笑えない事態だけどちょっと笑える。私ってこんなにドジでダメだったのね。笑って吹っ切れようとしたが上手くいかず、ぼんやりした寂しさに包まれるのを感じた。


『おひとよしだね』


 不思議な声がして、ひょこひょこと歩いてきたのは黒猫だ。すぐ脇に座り、ひょいと私の顔を覗き込む。艶やかな毛並みと綺麗な金色の目。さっきの猫、助かったのね……良かった。

 いやちょっと待って。この猫、喋ってない?

 私の疑問を肯定するように黒猫は、ふむ、と目を細めた。


『徹底しておひとよし、おまけにドジでダメでポンコツ。面白いな。このままだと死んじゃうけど……どうする、転生する?』


 なんかすごいディスられた気がする。私、あなたを助けたんですけど……。

 まあ死ぬ前の夢なんだろうな。猫が話すわけないし、転生するフラグとかあるわけない。本当にできるならしたいけど、するとしてもどこの異世界へ?


 私はふと、猫の足下に自分のスマートフォンが転がっているのを見た。

 画面に映っているのは絶賛ハマり中の恋愛乙女系ソシャゲ『うん★こい 王子とあなたの100万の運命の恋』。

 そういや新イベント、今日からだったんだよね。すごく気になった王子様がいて、絶対に攻略してガチャでSSR★5引いてアイテム揃えて最終変化イラストまで見ようと思ってた。好感度マックスボルテージにしてその先に進んでもいいかもと思ったんだっけ。

 そういう世界なら、転生もいいかなあ……。


『そう、そのソシャゲの世界に転生するよ』


 えっ? ほんとですか?


『きみ、本音では報われたいって思ってたでしょ? 恋愛ゲームみたいに、条件をクリアして、ルートに乗っかって、報われて幸せに。ねえ?』


 私はドキリとする。黒猫はニヤっと人間みたいに笑った。


『助けてもらったお礼もあるし、じゃあ僕と契約して、転生させてあげる。おまけに、見事に条件通りのルートで幸福な人生を全うできたら……人生の最後に、望みをひとつ叶えてあげるよ。どう?報われるでしょ?』


 転生、条件通りのルート。しかもクリアボーナス付きとは太っ腹だ。


『嘘はつかないよ。僕は神様だもの……異世界のだけどね』


 神!?

 もう考える力は残っていなかった。夢でもなんでもいい。このまま、希望もなく死ぬよりはマシだ。

 ありがとうございます、と心の中で呼びかける。

 転生……お願いしたいです。割と良い感じに、できれば人間で……あと美人でお金持ちだといいですね……。


『腰が低い割に要求が多いね!? それじゃあ契約ってことで。安心して、君はちゃんと人間になる。条件も十分に満たそう。そう、とびきりの……』

 猫の瞳が三日月みたいに細くなった。


『――悪役令嬢とか、どう?』


 聞き直す前に、あたりが真っ白に塗りつぶされる。

 それが光だと気付く前に私は意識を失った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ