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16.すれ違う心(2)


「それでは皆さん、今度は早めのワルツで行きましょう。生き生きと、快活に!」


 再び音楽が始まる。今度は先ほどよりもテンポが早い。くるくると踊る人々が人形のようだ。


 その中でもユイカと王子はひときわ目を引く。

 真っ白な王子の服と、ユイカの緋色のドレス。絡み合うように踊る様は先日見たアルネリスと薔薇の庭を思い出させる。


 あのときも、王子の行動には謎が多かった。手を繋いで、それを放さなかったり。

 そもそも私のところへ御見舞いに来てくれたのは優しさでは?

 けれど私だけでなく、こうしてユイカにも柔らかく応じている。


 彼の中でグロリアの立ち位置はどうなんだろう。ユイカは。


 おかしいな。。断罪のために行動していたはずなんだけど……どうしてこんなに王子のことが気になるの?


 さっき、倒れそうな身体を抱き寄せられたとき、身体に火花が走った。

 何かのスイッチが入ったみたいな、現実に目覚めた感じがした。


 ユイカの言葉が蘇る。

 ……センパイの気持ちはどうなんですか?


「ヴィクトリアさん、大丈夫ですか?」


 小さな声に顔を上げると、いつの間にか隣にクロムウェル先生が来ていた。


「先ほどから少し、顔色が優れないと思って。どうしました?どこか具合でも?」

「具合は悪くないんですが、その……」

「ユイカさんが気になる?」


 先生が二人をチラリと見る。

 婚約者を差し置いて別の人と踊るという状況は、でも私にとっては願ったり叶ったりのはず。その喜びが心の底から湧いてもいいはずなのに……それもない。おかしな気持ちだ。モヤモヤして、晴れなくて。


 先生は目を細めると、身を屈めて私の耳にそっと囁いた。


「悩み事がおありなら、この後、私の研究室でお話を聞きましょうか? 力になれることがあるかもしれません……以前のように秘密は守りますよ」

「いいんですか? 私、もう卒業していますが」

「もちろん。卒業生が来ることも多いんですよ。可愛い教え子に変わりはありませんから」


 先生の笑顔には包み込むような優しさがある。その言葉にホッとして、私は素直に頷いた。


「ではお言葉に甘えて、お願いしたいです。昼食後に伺っても?」

「ええ、葡萄茶を用意して待っていますよ」

「嬉しい! 先生の持ってるあのお茶、美味しいですよね!」


 私が微笑んだところで曲が終わった。足音が散らばり、人の声が溢れる。


「あー楽しかった! エドガー王子本当にお上手でびっくりしちゃった。ありがとうございました、気持ち良く踊れました!」


 顔を上げると、二人が向かい合っているところだった。王子は軽くユイカに頷き、すぐにこちらを向く。


「具合はどうだ? グロリア」

「大丈夫そうですよ、エドガー王子。いま、少しお話させてもらったところです」


 クロムウェル先生がにこやかに返してくれる。

 パンパン、と再び手を叩く音がしてみんながダンスの先生に注目した。


「皆さん、たいへん良く仕上がっておられますね! 最後の仕上げに少し長いワルツを踊りましょう。自分のパートナーと組んでください!」


 周囲はホッとしたような騒ぎになる。正午が近付きお腹も空いてきた。

 再び私の前に立ったエドガー王子は、ふっと目を細めてこちらを見下ろした。


「無理せず、辛くなったら言うといい」


 無愛想な表情と、複雑な視線。それは優しさなのだろうか。違うのだろうか。

 だが答えを見つける前に彼は顔を上げてしまう。

 そのまま、手を取られ、身体をぴたりと合わせて。


「……よろしくお願いします」


 私の言葉と心を置き去りにして、もう一度、ダンスの輪が回り始めた。



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