表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/61

15.すれ違う心(1)



 周囲の人々が抱き合うような形を作り、クルクルと踊り出す。


 く、くっつき過ぎじゃないかしら……!?


 ダンスは小さい頃に教養として習得している。考える前にステップは踏めるし、王子と踊るのも「グロリア」は初めてじゃない。

 けど「前世」の私にとってはこれはとても近い……フォークダンスとは大違い……!


 エドガー王子は一見細身だが、こうしてエスコートされてみれば力が強かった。まるで雲の上を運ばれるように私の身体は優雅に回り続ける。


 ちらりと見た視界の端で、王子は真面目な表情をしていた。


 私はこの人に嫌われないといけない。断罪されないと、田舎に追い出されないといけない。


 なのに……とても素敵な人に見えてしまう。


 あー、ダメダメ、と脳内の黒猫が首を振る。顔が好きなだけでしょ? 二次元が三次元になったから浮かれてるだけでしょ?


 それに、王子の気持ち。それが大事だ。


 この人は自分のことを、グロリアをどう思っているんだろう。距離のせいか、いま、とても気になってしまう。

 

「……何か心配事でも?」


 踊りながら、静かな声で尋ねられる。私は急いで視線を逸らした。どうしよう。でもチャンスだ。えーと、なんて言ったら。戸惑った末におずおずと小声で返す。


「王子は、楽しんでおられますか?」


 彼が強い目でこちらを見る。ひえっ、その鋭い目! 

 王子は顔を上げ、それから視線をふと和らげた。



「……私は、君とこうできることを、嬉しく思う」


 私は思わず足を止めてしまった。


 急な停止に身体がついていかず、王子のステップに引っ張られてしまう。足がもつれ、バランスを崩し、倒れそうになるのを防いでくれたのは彼の腕だった。


「大丈夫か!?」


 がっしりと抱きしめられている。

 一連の行動が理解できない。頭が真っ白だ、確かなのは自分を抱き寄せている彼の腕。


 いままでの感情は少し間接的だった。まだソシャゲの延長というか、ゲームの中というか。黒猫のせいもあったと思う。

 でも、この感触で一気に現実に変換された気がする。

 ここにいる彼は、二次元とか、三次元とか、そういうことではなく……ひとりの男性なんだ。


 そう思った途端、心臓が跳ね上がった。


「あら、エドガー王子、グロリアさん、大丈夫? 珍しいわね、上手な二人が」

「大丈夫です、少しふらついただけで」


 先生の言葉に、王子が私をそっと支え直してくれた。彼のリードで再び踊り出す。


 滑らかな動きに戻ったが、胸の中は大騒ぎだ。興奮が収まらないうちに音楽が鳴り止み、最後のポーズで止まった。

 ドレスの裾を摘まみ、軽く一礼して王子を見上げる。


「……ありがとうございました、エドガー王子」

「こちらこそ」


 王子が一瞬、表情を緩めた気がしたが、その腕にユイカが飛びついた。


「次! 王子、次はユイカと踊ってくださいな!」

「こら、ユイカさん!パートナーチェンジは3曲目以降の約束ですよ!それにあなたは補助要員でしょう!?」

 

 先生が怒ったように言ったが、私としては願ったり叶ったリ。ちょっといろいろと無理だ。休憩したい。


「いえ先生、私は構いません。少し、身体もふらついてしまっているのでお休みしたかったところです」

「そういえば、一昨日階段から落ちられたのですよね? ご家族に本日の参加を確認した際、後遺症はなく体調も良いと伺っていますが……」

「ええ、大丈夫。休憩すれば回復しますので」


 そうですか、と先生は王子を見る。


「王子のご意見は? 王子も休まれますか?」

「ユイカと踊ってくれるって、このあいだ約束したじゃありませんか! 授業の後で!」


 ユイカがねだるように王子を見上げる。先生も、私も知らず知らずに王子を見ていた。


「……グロリアが回復するまでは、ユイカと踊ろう」

「やった!」


 喜ぶユイカは王子の身体にしっかりと抱きつく。先生は眉を顰めたが、分かりました、と頷いてこちらを見た。


「グロリアさんは心配せずに、そちらでお休みになって。具合が悪くなるようでしたらすぐ言ってくださいね」

「センパイだいじょうぶ? 無理しないで!」


 ユイカが優しく手を振る。私は笑顔で応え、長椅子に腰を下ろした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ