15.すれ違う心(1)
周囲の人々が抱き合うような形を作り、クルクルと踊り出す。
く、くっつき過ぎじゃないかしら……!?
ダンスは小さい頃に教養として習得している。考える前にステップは踏めるし、王子と踊るのも「グロリア」は初めてじゃない。
けど「前世」の私にとってはこれはとても近い……フォークダンスとは大違い……!
エドガー王子は一見細身だが、こうしてエスコートされてみれば力が強かった。まるで雲の上を運ばれるように私の身体は優雅に回り続ける。
ちらりと見た視界の端で、王子は真面目な表情をしていた。
私はこの人に嫌われないといけない。断罪されないと、田舎に追い出されないといけない。
なのに……とても素敵な人に見えてしまう。
あー、ダメダメ、と脳内の黒猫が首を振る。顔が好きなだけでしょ? 二次元が三次元になったから浮かれてるだけでしょ?
それに、王子の気持ち。それが大事だ。
この人は自分のことを、グロリアをどう思っているんだろう。距離のせいか、いま、とても気になってしまう。
「……何か心配事でも?」
踊りながら、静かな声で尋ねられる。私は急いで視線を逸らした。どうしよう。でもチャンスだ。えーと、なんて言ったら。戸惑った末におずおずと小声で返す。
「王子は、楽しんでおられますか?」
彼が強い目でこちらを見る。ひえっ、その鋭い目!
王子は顔を上げ、それから視線をふと和らげた。
「……私は、君とこうできることを、嬉しく思う」
私は思わず足を止めてしまった。
急な停止に身体がついていかず、王子のステップに引っ張られてしまう。足がもつれ、バランスを崩し、倒れそうになるのを防いでくれたのは彼の腕だった。
「大丈夫か!?」
がっしりと抱きしめられている。
一連の行動が理解できない。頭が真っ白だ、確かなのは自分を抱き寄せている彼の腕。
いままでの感情は少し間接的だった。まだソシャゲの延長というか、ゲームの中というか。黒猫のせいもあったと思う。
でも、この感触で一気に現実に変換された気がする。
ここにいる彼は、二次元とか、三次元とか、そういうことではなく……ひとりの男性なんだ。
そう思った途端、心臓が跳ね上がった。
「あら、エドガー王子、グロリアさん、大丈夫? 珍しいわね、上手な二人が」
「大丈夫です、少しふらついただけで」
先生の言葉に、王子が私をそっと支え直してくれた。彼のリードで再び踊り出す。
滑らかな動きに戻ったが、胸の中は大騒ぎだ。興奮が収まらないうちに音楽が鳴り止み、最後のポーズで止まった。
ドレスの裾を摘まみ、軽く一礼して王子を見上げる。
「……ありがとうございました、エドガー王子」
「こちらこそ」
王子が一瞬、表情を緩めた気がしたが、その腕にユイカが飛びついた。
「次! 王子、次はユイカと踊ってくださいな!」
「こら、ユイカさん!パートナーチェンジは3曲目以降の約束ですよ!それにあなたは補助要員でしょう!?」
先生が怒ったように言ったが、私としては願ったり叶ったリ。ちょっといろいろと無理だ。休憩したい。
「いえ先生、私は構いません。少し、身体もふらついてしまっているのでお休みしたかったところです」
「そういえば、一昨日階段から落ちられたのですよね? ご家族に本日の参加を確認した際、後遺症はなく体調も良いと伺っていますが……」
「ええ、大丈夫。休憩すれば回復しますので」
そうですか、と先生は王子を見る。
「王子のご意見は? 王子も休まれますか?」
「ユイカと踊ってくれるって、このあいだ約束したじゃありませんか! 授業の後で!」
ユイカがねだるように王子を見上げる。先生も、私も知らず知らずに王子を見ていた。
「……グロリアが回復するまでは、ユイカと踊ろう」
「やった!」
喜ぶユイカは王子の身体にしっかりと抱きつく。先生は眉を顰めたが、分かりました、と頷いてこちらを見た。
「グロリアさんは心配せずに、そちらでお休みになって。具合が悪くなるようでしたらすぐ言ってくださいね」
「センパイだいじょうぶ? 無理しないで!」
ユイカが優しく手を振る。私は笑顔で応え、長椅子に腰を下ろした。




