13.王子とワルツを(2)
「それって、エドガー王子を譲ってくれる、ってことですか?」
「ええ、ユイカちゃんさえ良ければ」
「もしかしてセンパイ、王家の伝承とか……気にしてます?」
そういえば、昔は聖女を王族で娶る習慣があったと聞く。だが大昔の言い伝えにすぎない。私は首を振った。
「いえ、それは古い言い伝えに過ぎないので、気にしていないわ。それよりも……王子の気持ち、とか。見れば分かると思うけれど、私、好かれている気がしないの。もともとは親同士の決めた婚約だし、王子の気持ちも分かるから……ね」
なにしろ婚約が決まったのは私が8歳、王子は12歳の時だ。本人達の意志など確認されていないし、「誰かを好きになる」ということさえ知らなかった。
いまは王子も私も成長したし、ユイカもいる。聖女であり、気になる相手がいるのだから王子の心が向こうを向くのは当たり前だろう。
「エドガー王子がお好きな方と結婚する邪魔にはなりたくないのよ。彼のお気持ちを優先したいの」
ユイカは目を細め、ふうん、とこちらを見た。
「それは嫌です、センパイ」
「どうして!?」
「理由は3つあります」
ずいっと指を3本、こちらに差し出してユイカは眉をつり上げた。
「1つは、正々堂々戦って勝ち取りたいからです。私、この世界に来る前は新体操部のキャプテンだったんですよね。勝負は大事なので」
ま、まさかのスポ根……!
私はごくりと息を飲み込んだ。なるほど、ユイカから漂ってくるリーダーっぽい感じはそういうことだったのか。
「2つ目は、王子の気持ちのこと。……センパイ、王子の気持ちって確かめたんですか?」
「ええ、あの態度なら……」
「そうじゃなくて、言葉で聞いたのかってことです。相手の態度で勝手に判断しちゃダメでしょ」
「あ……なるほど」
正論ではある。私は背筋を伸ばした。
「まあ私だって王子とセンパイを手に入れたい、好きって言ってるの、まだ独りよがりなんですけど。でもそのままじゃ嫌なので、こうしてお近づきになったり、仲を深めてるんです。好きだっていう気持ちを相手から直接聞きたいですからね!」
胸を張るユイカちゃんはとても誇らしげだ。さすが主人公なだけある。
「そして3つめ。センパイ自身はどう思ってるんですか?」
「私!?」
「センパイの気持ちですよ。王子のこと嫌いなんですか? 婚約破棄したいほどに?」
咄嗟に答えられなかった。
二日前に記憶を取り戻したばかりの「私」にとっては王子はまだ未知の存在だ。イケメンだし、ゲームなら攻略したかったけど、私のことを嫌いなんだろうな、という認識くらいしかない。
じゃあ嫌いかと言われると違う気がするわけで。
「グロリア」にとってはどうだったんだろう……。
記憶を探ろうとしたところでノックの音が響いた。
「ヴィクトリア様、ユイカ様、ドレスをお持ちしました」
ドアが開き、静かに入ってきたのは白いエプロンを着けた女性の一団だった。
年配の一人がうやうやしく一礼をする。
「ご依頼のドレスでございます。実際に修正できるのはこれが最後になりますので、ご要望があれば練習会後におっしゃって。よくよくご検討あそばせ」
丁寧に言う間にも他の女性達がテキパキとドレスをトルソに着せていく。私もユイカも、ほう、と息を漏らした。
「ドレスの準備が出来ましたので、前にお立ちください。ユイカ様は緋色のドレス、ヴィクトリア様は薄水色のドレスになります」
年配の婦人の言葉には威厳がある。私たちは慌ててドレスの前に立った。
「……センパイ、今の話、私も考えておきます。どちらにせよ私が二人ともいただくのですが……でもでも、センパイもよく考えてみてくださいね!王子の気持ちも!」
片目を閉じたユイカはとても可愛い。ワガママなところもあるんだけど、基本的に良い子だ。さすが聖女、主人公。
そんな私を見つつユイカはフフッと笑った。
「どうです? 私のモノになる気になりました?」
うっかり頷きそうで怖い。油断禁物。私は、ありがとう、とだけ言い、前を向いてお針子やメイドたちのなすがままに任せた。




