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いつか

作者: 郷臣シン

これは歴史上の人物や出来事を扱った、創作小説です。

改悪・改謬の意図はありませんが、真実でもありません。

この程度の(ふみ)、ありがたみも無く生前彼が好んだ含蓄のある内容も無い、仕事の合間に思い出したように走り書きされただけのどうということのない文だ。

残しておいた事がばれたとしても、この程度、風呂をたくのに使うつもりで残していた反古がみの中から見つけたと言えば、なんの言掛かりのつけようも無い筈。



残念な事だが、最近何かにつけて弁明をつける事が多くなってきた。




   『最近お会いしていないので、会いたいです』




「会いたい。…私も。もう一度」

「会えるものならば」



大きく開いた明かりとり用の窓から、庭の新緑の景色を見る。空は晴れ、白い雲が太陽の光を反射して眩しく光っている。

表の葉はきらきら青く輝き、葉陰の暗さをくっきりと人目に見せていた。



このように亡き人を想うのは何度目だろう。

これまで多くの人を敵味方問わず殺したり、見殺しにしたりしてきたのに、こうやって特別を作るのは、卑怯な事だと思わなくもない。


何より彼の所為で、父や弟と袂を分かつ決断を迫られたものを。寧ろ恨んでもいいものを。



もう果たされる事の無い内容の、とりとめも無くつまらない内容の文を、こんなに後生大事に取っておいて、思い出しては何度も読み返している。読み返しては、何度も思い出している。

読み返すほどの長さも無いのに。


寧ろ言葉は覚えている。ここに書いていない言葉も含めて。



友だったのだ。

今でも彼がそう思ってくれるのかどうか、分からないけれど。

家同士の繋がりからはじまった、時によっては簡単に解消されてしまう程度の、ほんのかすかな友誼だったけれど。

彼との付き合いで得られるものは余り多くは無かったけれど、今となっては二度と得る事の出来なくなった、どうでもよかったり突拍子も無かったりした彼の物言いが、今、どうしようもなく懐かしい。


これから先、自分で選んだ道とはいえ、心を許し言葉を選ばず思ったままを話し打ち解けるなどは、お家の為にもなかなか出来ない事だ。たとえ気心の知れた相手であっても。愛する妻であっても。

今、私の立つ場所は、決して保証されているとは言えない。

本当は、彼からの手紙など、処分しておいた方が賢明なのは分かっている。もうこれ以上の天秤は出来ないし、そもそも妻の縁がお家の存続を可能にしただけに、今以上の寛大な措置は望めないだろう。




   『最近お会いしていない…』




最近も何も。

もう現世では、二度と会う事が出来ないのに。


どうしてこの文は、こんなに、他愛も無いんだろう。




   『会いたいです』




「会いたい…」


かの人に、会いたい。






 三成の死後手紙で偲ぶ真田兄の話

現代で言えば、急にいなくなってしまった友達のくれたメールを消せない心境なんだと思います。タイムカプセル的に徳川時代終了まで封印して残したのは、年々酷く言われる三成の、真実の姿を残してやろうという思いからなんでしょうが、まだこの頃は手元において、懐かしんでいたのではないか、と思って書きました。

下調べはほぼ皆無です。手紙の実物を見た事はありませんし、内容もうろ覚えなのでひょっとすると全然違った可能性もあります。ごめんなさい。

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