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セブンス・サーガ Ⅰ  作者: 渡来人
王国動乱
8/8

脱出。そして……

 カルコスの言葉を胸に刻み、レアーダの部屋へと向かうフェン。部屋の前では、ユミルと王国兵達が迫り来る帝国兵を必死に捌いていた。

「抵抗せず、女王を渡せば命だけは助けてやる」

「それだけは命を落とそうと出来ない事だ!」

 帝国兵の言葉に激怒する王国兵。

「ならば、死ね!」

「……死ぬのは貴様だ」

 斬り掛かる帝国兵だが、ユミルの一撃に沈む。

「この女、強すぎる……」

「だが、この女さえ倒せれば」

 帝国兵達は、じりじりとユミルへと近付いていく。

「陛下には、指一本足りとも触れさせん……」

 ユミルは武器を構えながら、帝国兵との距離を図っていた。

「あの女が、いくら強いといっても、所詮は人間だ! 一斉に掛かれば──」

「……黙れ」

 帝国軍の部隊長が力の限り叫ぶが、途中で倒れた。ユミルは息を切らしながら、武器を構える。

(流石に、この人数を相手するのは……)

 ユミルが辺りを見渡すと、数人の兵士を残して、大半が床に倒れていた。

(……このままでは)

 ユミルは何事も無いように周りを見渡しながらも、内心は焦っていた。

「このぉ!」

「ぐぁ!」

 声がしたと思うと、帝国兵の一人が悲鳴を上げて、床へと突っ伏した。ユミルは何が起こったか分からず、茫然としていた。

「この艦は、もうダメだ。レアーダを連れて脱出する!」

「お前は……いや、それより脱出とは?」

 意外な人物の登場に意味が分からず、問いただす。フェンは話は後だ。急いで脱出するんだよ! と答えるのみだった。

 ユミルは仕方なしと腹を括ると、レアーダを連れて、フェンに付いていく。

 帝国兵は追撃しようとしたが、残った王国兵達に防がれて足止めを食らう。

「キサマラ……」

「陛下達の後は追わせはしないぞ。俺達の命に賭けてな!」

 王国兵達の奮闘を余所に、フェン達は脱出を目指していた。

「脱出と言ったが……分かるのか?」

「脱出方法? あっ!」

 突然、ユミルに脱出方法を問われ思い出したかのような声を出すフェン。

「えっ? あのね、フェン。行き当たりばったりは駄目だよ」

 無計画さにレアーダが呆れて注意するも、陛下もです。とユミルに返され、呻いた。

「……脱出ポット」

「──っ! そう、船尾に脱出ポットがあったわ!」

 ユミルの溜息交じりの呟きを聞いたレアーダが思い出しかのような大きな声で脱出方法を告げる。侍女から、声が大きすぎる。敵に聞かれますよ。というツッコミ付きで。

「とりあえず、目的地は船尾の脱出ポットだな」

 フェンが話を纏める。──船尾ってどっちだ? と訊ねるのもセットで。

「……船尾は、反対。ここは船頭」

「正確には、ここから甲板に出て、飛空挺の進んでいる方向とは反対の方向へ進めば、着くわ」

 ユミルが、船尾の場所を答えレアーダが詳しく説明する。

「なるほど。じゃあ、行こう」

 フェンの言葉に従い、三人は船尾の脱出ポットを目指し駆けだした。

 甲板に出ると、大勢の帝国兵で溢れかえっていた。

「……ここを突っ切るの?」

「じゃあ、別のルートは? 安全なルートとか」

 あまりの数に腰が引けるレアーダに訊ねるフェン。訊かれ、そんなもんないわよ! と逆ギレする少女。

「今、喧嘩してる暇はありません。私に付いて来て下さい。露払いは任せて下さい」

「大丈夫なのか? 疲れてるんじゃ」

 二人の喧嘩を止め、先頭を行こうとするユミルを止めるフェン。

「では、お前が露払いをするとでも?」

「ああ! あっ、無理とか言うなよ。やってやるよ!」

 驚いて訊ねるユミルに怒り気味で答えるフェン。

 ユミルは静かに、頼んだぞ。と呟くとレアーダを抱き抱えた。抱えられたレアーダは思わず、うひゃ! という叫び声を上げた。

 その声に反応した帝国兵は、一斉にフェン達に斬り掛かってきた。

「やらせるかよ!」

 フェンは、迫り来る敵兵を斬り伏せながら、前進していく。

 敵の数は多い。なので、必要最低限の敵を倒して道を作る。という作業をしながら。

「敵はたった三人だぞ! 何をしている!」

 帝国軍の隊長の男は自艦で様子を見ながら、憤慨していた。

「……なかなかやるな。あの少年。貴様らでは、案外荷が重いかもしれんな。私が出る」

「ノーリ様自ら!? い、いえ。しかし……」

 ノーリの言葉を聞いた隊長の男は狼狽する。

「なんだ、貴様は私が負けるとでも?」

「い、いえ……そうではありませんが」

 ノーリに鋭い目で制され、言葉に詰まる隊長の男。

「では、行かせて貰うぞ」

 ノーリは、そう言い残して飛空挺フェンリルへと乗り移った。

 フェン達はあと少しで船尾への入り口へと辿り着く所まで来ていた。

「よし、あともうすこ──」

「危ない!」

 フェンの言葉を遮り、ユミルが彼の服の襟を掴んで後ろに引っ張った。フェンがいた場所には刃の跡が、くっきり残っていた。

「よく気付いたな、女。褒めてやろう」

「……何者だ」

 口許をニヤァと歪ませるノーリにユミルはレアーダを降ろし、武器を構える。

「俺か? 俺は、ノーリ・グルファクシっていうんだ。まあ、死ぬ奴に名乗っても意味は無いんだけどな」

 ノーリが名を名乗ると、レアーダとユミルが驚いた顔をして黙ってしまう。

「なんだよ、その男がどうしたんだよ。皆で掛かれば」

「ノーリ・グルファク。帝国四天王の一人。暁のグルファクシと呼ばれた男よ」

「ほう。女王に名前を覚えて貰えてるなんて、光栄だね」

 ノーリが不敵な笑みを浮かべる。

「でも、二人で掛かれば」

「……不可。勝機は無い」

 望みを捨てないフェンにユミルは首を横に振った。

「そこの侍女ちゃんは分かっているようだね」

 ノーリの言葉に悔しがるユミル。フェンは、ユミルの言葉の重みに男が本当に強いことを察知した。

「さて、男を排除してから二人を俺の部屋に囲おうかな?」

 ノーリは、ニヤけ顔をして三人に近付いてくる。

「俺が時間を稼ぐ。二人は脱出ポットへ行ってくれ」

「無理だ。お前では、時間稼ぎにすらならない。私に任せて、陛下を頼む」

 二人して、自分が犠牲になろうとしていた。

「お二人さん、話し合いは終わったかい?」

「俺が相手だ!」

 フェンがノーリの相手をし始めた為、ユミルは仕方なしとレアーダを連れて、船尾へと向かった。

「女性を逃がして、自分が犠牲になろうとはな。見下げた根性だな。だけど手加減はしない」

 ノーリが斬り掛かろうとしていた。その速さに、反応出来ずにフェンは死を覚悟をした。

「よく頑張ったな、フェン」

「──っ!」

 ノーリの剣を受け止めた男にフェンは驚きのあまり、目を見開いた。

「し、カルコス! 生きてたのか!」

「人を勝手に殺すな。さて、ここは俺が防ぐ。陛下を追え!」

 カルコスの登場に驚く中、追えと言われるフェン。

「お前、一人で大丈夫なのか」

「俺のことは気にするな。早く行け!」

 心配するフェンをカルコスは突き放す。

 突き放されたフェンは、慌ててレアーダ達の後を追った。

 レアーダ達の後を追う途中、帝国兵の死体が多く見られた。

 体の向きから、レアーダ達を追って、ユミルに倒された者達だろう。とフェンは考えた。

「早く追い付かないと!」

 フェンは急いで、二人の後を追う。

 暫くすると、武器が擦れる音と悲鳴、怒りの声が聞こえてきた。

「ユミルが戦ってる? 急がないと!」

 フェンはスピードを上げて、音のする方へ向かった。

 フェンが開けた場所へ着くと数名の帝国兵とユミルが戦っていた。ユミルは傷だらけで息も絶え絶えで膝を付いていた。

「ふん、随分と手間を掛けさせやがって」

「まあ、いいじゃないか。あもは生かすも殺すも、俺達の自由なんだしよ」

 二人の兵士の話を聞き、苛立つフェン。

「ふっ!」

「ぐっ!」

「ぐえっ!」

 フェンの斬撃で二人の兵士は床に倒れた。

「敵の援軍か!?」

「なんだ、ガキじゃ無いか!」

 フェンを見て、驚く兵士達。

「どうする?」

「ガキ一人、来たところで何になる? 早く殺っちまおうぜ」

 兵士達は早く事を済ませようとフェンに体を向け、攻撃しようとしたが突然、倒れて動かなくなった。そこから現れたのは先程膝を付いていたユミルであった。

「な、何ッ! この──っ!」

「大丈夫か?」

 残った兵士がユミルへと斬り掛かってきたとするも、背後からフェンに斬られ、事切れる。

 フェンの心配にユミルは、頷く。

「で、レアーダは?」

 フェンの問いにユミルが、指差した方向には長方形状の何が二つあった。

「アレが脱出ポット。大人一人しか乗れない。左に陛下が乗ってる」

「……つまり、俺に左へ乗れと?」

 ポットの説明に察しが付いたフェンが訊ねると、ユミルが2回頷く。

「……分かったよ。じゃあ、アンタは右のポットへ乗るんだな?」

 フェンの問いにユミルが頷いた。

「そうか、じゃあ。また後で」

 二人は挨拶を交わし、それぞれのポットへと乗り込んだ。

 左のポットには、ユミルが言った通り、レアーダが乗り込んでいた。

「フェン!? あれ、ユミルはどこ?」

「ユミルは、もう一つのポットへ乗り込んだよ。さあ、脱出しよう」

 二人が頷き合う。そこでふとした疑問がフェンに沸いた。

「あのさ、この脱出ポットってどうすれば動くんだ?」

「それは、誰かがポッドの射出ボタンを押せば……あっ!」

 脱出ポットは、操舵室の射出ボタンを押さないと射出されない。その事をレアーダは忘れていた。

「どうしよう……このままじゃあ、ポットは射出出来ない」

 困ったレアーダにフェンは、自分が行くしかないと腹を決めた時、突如ポットが大きく揺れ出した。脱出ポットが動き出したのである。

「誰かが操舵室で脱出ポット射出ボタンを押したのよ!」

 レアーダの言葉にフェンは、まさかユミルもしくはカルコスか? と考えたが、レアーダに不安を与えるわけにはいかないと考えたフェンは口を噤んだ。

 飛空挺フェンリルの脱出ポットは空を舞い、地上へと落ちていった。果たして、彼らの行方は、どうなってしまうのか? そして、カルコス達や王国の運命は……。

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