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セブンス・サーガ Ⅰ  作者: 渡来人
王国動乱
7/8

襲撃

 グラナート近郊の山でレアーダと再会したフェン。彼女の誘われるまま、飛空挺内へ案内された後、東に向けて艦は飛び立った。

 飛空挺が飛び立った後、二人は彼女の部屋で互いの近況を確認し合っていた。

 話の途中で部屋に入ってきた兵士からカルコスの言伝を聞くとレアーダと別れて、部屋から出る。

 そしてその足でカルコスの許へ向かう。部屋の前まで来ると、フェンは部屋の扉をノックする。部屋の中から、良いぞ。という声が返ってきたので、フェンは部屋へと入った。

「適当なとこに座ってくれ」

 椅子に座って書き物をしているカルコスがフェンへ指示を出した。指示通り、適当にベッドの上に腰掛けるフェン。

「で、貴様を呼び出した理由だけどな」

 背中を向けながら話すカルコスの言葉を、聞き漏らすまいと耳を傾けるフェン。

「ぶっちゃけ、陛下とはどういう関係なんだ?」

「へっ? どういうって、友人だけど。なんだよ、そんな理由で呼び出したのか?」

 カルコスの言葉に呆れて溜息を吐くフェン。

「はぁ……お前は、それでも男か? まあ、陛下相手なら仕方ないかもしれないがな」

 カルコスの言葉の意味が分からず、首を傾げるフェン。

「お前も陛下も、大人になれば分かるさ」

 カルコスの言葉に、フェンははぁ……。と再び首を傾げる。

「歳も近いようだし、陛下の世──相手は頼んだぞ」

「大人の癖にサボるのは、良くないぞ」

 カルコスは痛いところを突かれ、うっ! と呻き声を出す。

「お、お前も大人になれば分かる。大人だって大変なんだよ」

「ふーん。まあ、いいや。分かったよ、レアーダの相手をしてりゃ良いんだろ?」

 狼狽するカルコスを見て、彼の頼みを承諾するフェン。その際、確認をするフェンに、カルコスは小さく頷いた。

「でも、なんで王都に戻らないんだ? あんた達は王都に住んでるんだろ?」

「……その事か」

 フェンが尋ねた質問に、カルコスは暗い顔をする。その顔を見たフェンは何かただならぬ事だと察した。

「まあ、言いにくいなら言わなくてもいいけど」

「実は──」

 カルコスが全てを言い切る前に、艦が何かにぶつかったかのように突然揺れた。

「な、なんだ!?」

「くっ! 早すぎる」

 驚くフェンを余所に、カルコスは揺れた原因を特定しているのか、すぐさま部屋を飛び出した。一人残されたフェンは、慌てて彼の後を追った。

 カルコスを追って甲板に出たフェンは、驚きの余り目を見開く。

 飛空挺フェンリルの周りには複数の飛空挺が見つけられた。

 その全てが王国のものでは無く、他国のものと分かった。何故なら、艦に貼られている紋章がミドガルド王国の紋章を象徴する鷹ではなく、虎の顔を象った紋章が描かれていたからである。

「追撃してくるとは思っていたが、まさか裏に帝国の手が回っているとは……」

 茫然して呟くカルコスの言葉に反応して帝国? と尋ねるフェン。

「敵である帝国と組むなんて何を考えているんだ!」

「よく分かんないけど、敵なら戦うしかないな!」

 いきり立つカルコスに、意気揚々と剣を鞘から抜くと敵を探すフェン。

「気を付けろ。アスガルズ帝国の兵は魔物に比べて、段違いの強さだ」

「だからって、引けるか!」

 釘を刺すカルコスを無視するが如く、敵を探すかのように辺りを見渡すフェン。

 すると、飛空挺に接舷し乗り込んでくる帝国兵士。

「……くそっ! えっと、名前はフェンだったか? とりあえず気を付けろよ。敵は集団戦が得意だ。一人一人はそこまで強くないが、集団だと厄介この上ない。俺から離れるなよ」

 カルコスはフェンの隣に立つと、剣を抜いた。カルコスに続いて、王国軍第五師団の兵士達が現れ、各々武器を構えて防衛の構えを取った。

「お前ら、気を付けろよ。敵は帝国軍だ。だが、帝国の精鋭が俺達に構ってる余裕なんて無いはずだからな」

 カルコスの言葉に兵士達はそーだ、そーだ! と叫ぶ。

「お前ら舐められんなよ。追ってくる狼を追い払ってやれ。羊の力、見せつけてやれ!」

 カルコスの檄に兵士達は力が宿ったかのように叫びながら、敵に向かっていく。

「凄いのは分かったけど、レアーダは大丈夫なのか?」

「陛下には二名の護衛の兵と侍女のユミルがいる。多少の事じゃやれたりはしない。それより俺達は、俺達で敵をなるべく減らすぞ。流石に兵士だけじゃあ難しいからな」

 心配するフェンにカルコスは問題無いことを告げ、戦場に走って行く。フェンも後を追う。

 甲板の上は帝国軍と王国軍第五師団との乱戦となっていた。

「ぎゃぁぁぁぁ!」

「ぐぁっ!」

「帝国軍も大したことない……なっ!」

 帝国兵を次々と屠っていくカルコス。数で圧倒していた帝国軍も、カルコスの強さにたじろいていた。

「強いな……俺もあれくらい戦えないとな!」

 フェンも負けてはいない。倒した兵の数はカルコスに劣るとも多くの敵を屠っていた。

「奴ら、手強く女王の許へ辿り着けません!」

「貴様ら、死ぬ気でやれ! 数で勝っているからと手を抜いてはしないか?」

 隊長と思わしき男が報告をした兵士を怒鳴りつける。怒鳴られた兵士は、そんなこと言われても……と口に出しては火に油を注ぎかねないので、心の中で留めて力強く返事を返し、戦場へ戻った。

「ノーリ様。不甲斐ない部下で、申し訳ございません」

「失敗は許されんぞ。帝国にはこれ以上、戦力をまわすことは出来んのだ。ミドガルド王国は手に入れることが出来たが、王国各地でゲリラが潜んでいて完全に制圧出来たわけではないのだぞ!」

 隊長の男は慌てて敬礼を交わすと、部屋から出て行った。

「……ミドガルド女王に、三将軍……悩みの種は尽きず。という訳か。何故、私だけが貧乏くじを引かねばならぬのだ……」

 ノーリという男は、一人残った部屋で盛大な溜息を吐いていた。

 帝国との戦いは、一進一退の様相を呈していた。戦力差はいまだ帝国軍が勝っていた。

「敵の数は減らない上に、こっちの戦力も少しずつ減っていってるしな。フェン、頑張れよ」

「人任せするなよ。俺だって頑張ってんだよ」

 なかなか上手くいかず焦るカルコスに、あとを任され文句で返すフェン。

「ああ、もう! お前ら、密集隊形と地形を活かして戦え!」

 苛立ちながらも兵士に指示を出すカルコス。

「何してるの? 落ち着きなさい、カルコス」

「げっ! 陛下」

 カルコスは、後ろから掛けられた声に振り向くと驚いて飛び退いた。

「何よ、げっ! って」

「い、いえ。陛下、ここは危険ですから、お部屋にお戻り下さい」

 レアーダに問われ、焦りながら追い返そうとするカルコス。

「あら、ユミルがいるから大丈夫よ。それに貴方達がいるでしょ? それとも私は邪魔かしら」

「い、いえ……そういうわけではなく」

 レアーダに、ジトッと見られ焦るカルコス。

「陛下、お戯れは程々に。ここが危険なのは、本当ですので」

「正直、レアーダを守りながら帝国軍を追い返せる自信が無いんだ。だから、部屋へと戻っていてくれ」

 ユミルとフェンに指摘され、レアーダは渋々、自分の部屋へと下がっていった。

「悪いな、フェン」

「お互い様だよ。それに守り切れる自信が無いのも本当だし」

 謝るカルコスにフェンは首を横に振り、本音を漏らす。

「敵さんも結構焦ってるようだな。機関室と陛下の部屋さえ護れば、問題ない」

「はぁ? 操縦は、どうすんだよ」

 帝国軍の動きを観察していたカルコスの言葉に対し、ツッコミを入れるフェン。痛いところを突かれたカルコスは、分かってるよ。操舵室もな! と返答する。

「それじゃあ、俺は──」

「操舵室には俺が行く。機関室は頼んだぞ」

 フェンの言葉を遮って、カルコスは複数名の兵士を連れて、操舵室へと向かった。

 フェンは、仕方なく機関室へと向かった。

 機関室には、複数名の兵士が護衛に就いていた。

「お前は、陛下のお気に入りの小僧か。何の用だ?」

「あんたらの隊長に言われて来たんだよ!」

 部隊長の男に言われたことが気に障ったのか、強い口調で返すフェン。

「そうか、すまない。では、二手……いや、三手に分かれたのか。なるほど、うむ。あの方らしいな」

「でも、なんで操舵室を優先したんだ? まあ、俺を信頼して任してくれたのかもな」

 一人で納得する部隊長の男とフェン。

「隊長は、操舵室が重要と考えたから己自身で防衛に回ったのだ。陛下の護衛には、侍女がいるし。ここには我らがいるからな。お前など足しにもならぬわ」

「なんだと! 俺じゃ、足手まといって言いたいのかよ!」

 部隊長の言葉にムッとして突っかかるフェン。

「部隊長、話はそこまでに。帝国兵が来ました」

「そうだな。総員、武器を構えろ! 敵を迎え撃て!」

 兵士に止められ、我に返る部隊長は、帝国軍が迫り来るのを目視し、命令を出す。

 兵士達も力強く、返事を返した。

 最初は抵抗していた王国兵達も多勢に無勢の状況に抗えず、一人また一人と倒れていく。

「おい、小僧! カルコス隊長に伝言を頼めるか?」

「なんだよ、いきなり。今じゃ駄目か?」

 突然の部隊長から声を掛けられ驚くフェン。

「ああ、駄目だ。隊長に機関室は守れそうに無い。と伝えろ。それがお前の役目だ」

「バカ言うな。俺は、まだ戦えるぞ!」

 部隊長の言葉に憤慨するフェン。部隊長は、頭を下げると困惑しながらもフェンは帝国軍の集団を突っ切っていった。

「あとは頼んだぞ……さあ、ここは何が何でも死守するぞ。例え、守り切れずともな!」

 部隊長の大きな叫びが艦内を木霊した。

 機関室から抜け出し、操舵室へと駆け抜けてきたフェンは、部隊長の言葉を伝えた。

「あのバカ……分かった」

「じゃあ、俺は戻るぞ」

 報告を聞いたカルコスは唇を噛み締めていた。フェンは戻ろうとしたが、止められる。

「止めるなよ、機関室や味方が危な──」

 文句を言おうとするフェンだが、艦が揺れてバランスを崩してしまった。

「フェン、頼みがある。ユミルと一緒に陛下を連れて、この飛空挺から脱出してくれ」

「はぁ? 何言ってんだ。俺はまだ戦えるぞ!」

 カルコスの言葉が理解できず文句を述べるフェン。

「それは分かってる。だが、この飛空挺は近い内、墜落してしまうだろう。それも航行不能なレベルでだ。だから、今のうちに帝国の手に陛下が落ちる前に陛下を頼む」

 カルコスに深々と頭を下げられ、困惑するフェン。

「なに、俺だって死ぬわけじゃない。後で合流するさ。だから 陛下の事はお前とユミルに任せるって言ったんだ。一時的にでも、いい。お前にしか頼めないんだ。分かるな」

 カルコスの必死な顔と言葉に唇を噛み締めながら、頷くフェン。

「……分かったよ。だけど、死ぬなよ!」

「ああ、約束だ」

 二人は約束を交わす。そしてフェンは、レアーダの許へと駆けていった。

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