暗躍
「……入れ」
「……失礼します」
青色の法衣を羽織る男が灰色の鎧を身に付ける男を自室へと招き入れる。
「……計画は順調であろうな」
「はっ、万事抜かりなく」
部屋の隅に置いてある提燈の灯りに照らされながら、鎧の男が法衣の男へ報告しているようであった。
「失敗は絶対に許されんのだ。信じてよいのだな」
「……はっ、問題ございません。お任せを」
法衣の男は鎧の男の答えを聞き、静かに頷いた。
「失礼ながら、本当にこのような事をおやりになられるのですか? 隣国のアスガルズ帝国が兵を集めている様子。クーデターなぞ起こしてはみすみす帝国の利にしかならぬと思いますが」
「それなら問題ない。帝国は我らミドガルド王国ではなく、同じく隣国のヴァルハラ王国へ攻める約定となっておる」
法衣の男はくくくっ。と下卑た笑いを浮かべる。
「本当に帝国はヴァルハラへ攻めますか? かの国は精強な魔導兵団を擁しております。如何に技術力で他を圧倒している帝国とて、ヴァルハラ王国相手に軽傷で勝利する事は容易くは無いでしょう。私なら楽な方を攻めますが」
「恐れる必要はない。帝国は我らの同盟者だ。かの国は約束を守る国だ」
ガシャン!
「「――っ!」」
部屋の外でガラスが割れる音がした。二人は音に驚き、鎧の男が部屋をすぐさま、出て周りを確認する。目を凝らすと、遠くへ逃げ去っていく兵士の姿を認める。どうやら巡回の兵士が自分達の話を聞き、驚いて手から提げていた提燈を落としてしまったのだろう。そして兵士の男は我に返ると、慌ててその場を逃げ出した。そういう事だろう。
「……まずいな。あの兵士を始末しろ」
「……承知しました」
法衣の男に指示を出された鎧の男は、面倒だな。というような顔をし、駆け足で逃げる兵士を追った。
兵士の男は、聞いてはいけない話を聞いてしまったのだ。きっと始末されてしまうのだと理解し、必死に逃走を試みる。
鎧の男は、早く始末せねばここまで進めてきた計画がしてしまう事に内心冷や汗を掻きながら追う。
(……私は何故、見張りを立てなかった? ええい、このままでは私が計画立案者として始末されてしまう。早く奴の口を封じねば!)
そんな男の願いが叶ったのか、先を走っていた兵士の男が突然倒れ、動かなくなった。
「――っ!? お前か。助かったぞ」
「…否、 計画遂行重要」
顔の下側をマスクで隠す男が暗闇から現れると、鎧の男は礼を述べるも、マスクの男は首を横に振り、再び闇へと消えた。
「相変わらず掴み所のない奴だ。ただこれで計画は問題なく、進むだろう。あとは、この死体を始末しなければな」
鎧の男が辺りを見渡し、死体となった兵士の男を担ぎ上げると闇夜に消えていった。