第7話 ああああ、負けて勝つ
主人公大活躍回(勝てるとは言ってない)
「あの優しい女の子を助けに行くに決まってんだろうが! それが男ってもんだ!」
俺はそう自分を鼓舞する意味も兼ねて、その傷つきながらも必死に指輪を護る女の子を救う為に、大声で勢いよく眼前のドアを蹴破ったんだっ!
―― ―― ―― ―― ―― ――
スライム3体との戦闘。
それは冒険始まって一番最初の練習相手の代名詞とも言える組み合わせだ。
普通に攻撃していれば100%勝てる勝負。
余程ひねた攻略をしない限り敗北はあり得ない。
「くっ……なんて素早さなんだ……畜生」
だが、俺は既にその戦いに負けそうだった。
「すんげぇ弱いなお前……何しに来たんだ?」
「ああ、兄貴! ビックリする程弱いですね!」
「一瞬焦りやしたが、このままでも楽勝ですね!」
けれども所詮、偶像を現実に置き換えるとこんなもんだ。実際のスライムは割と強い。
軟体らしく俺の打撃や蹴りにも耐えて反撃に加えてオスらしく暴れん坊な性格も相まってか、壁の反射を通して勢いの増した体当たりは痛い。
「そら! これでも食らいやがれニンゲン!」
「ぶぼぉっ!? ぐぐぐぐ……くそ……」
ちくしょう……ダメだ。マジで負けそうだ。
あんだけ偉そうな啖呵切ったのになんてザマだ。
コイツらにいじめられてたあの女の子を助ける為に飛び込んできたってのに!
(だ……だけど!)
「ぐぐぐ……まだだ、まだ終わってない!」
「お、お前…………」
「おお、なんだ? こいつまだやる気か!」
「兄貴! 黙ってないで必殺技の号令くださいよ! それで教会送りにしてやりやしょう!」
だがそれでも【にげる】って選択肢は無い!
どんなみっともない醜態晒そうとも助けると決めたからには何としてもこの女の子を助けるんだ! それこそが俺の意地だっ!
「ちっ、しょうがねぇ……おいお前ら、この諦めの悪いニンゲンに向けて俺達の奥義トリプルストライクをお見舞いしてやるぞ! いいか!」
「「おう! 了解だぜ兄貴!」」
くそ……一斉攻撃を仕掛けてくる気か!?
だが、ちくしょう。もう体力が残ってねぇ。
アイツらの素早い技を避ける余裕なんて――
「「「必殺! トリプルストライク!」」」
「うおおおおおおおっ!?」
……これまでで最多で最大の威力だった。
「おらおらおらおらおら!」
ベチンッ! ベチンベチンベチン!
「ぐおっ! ぐがっ! ぐぎっ!」
とても軟体の体とは思えない怒涛の連続攻撃。
まるで鉄球でも飛んできたかの如く強い衝撃で俺の頭や肩や腕、腹、足と全身へ一斉に浴びせてきやがった! くそっ! マジで殴られるだけのサンドバックにでもなっちまったみてぇだ!
「さあ、これで終いだ!」
「「食らえニンゲン!」」
ベゴンッ!
「ぐがあっ!?」
そして……そんな韋駄天の如き目にも止まらぬ連携技のラストは兄貴スライムの痛烈な一撃。
この真下に素早く潜り込んでからの体当たり攻撃で、俺の体は軽く宙に打ち上げられそのままこの硬い地面へと叩きつけられちまった……。
(く、くそ……まさかこんな)
まともな初戦闘で油断はしなかったとはいえ……まさかスライム三体にも勝てないなんて――
ガシャアァァァァァンッ!
「うん、なんだありゃ? コインか?」
「どうやら兄貴の技で落ちたみたいですよ」
「どれどれ? アッシが見に行きやしょう」
ぐぐぐぐ……し、しまった。
今の一撃で腰の財布が落ちて金が――
「おお……うおおおおおおおおおおおおお!」
「ちっ、うるせぇな。どうしたんだ一体?」
「兄貴兄貴! これ金貨ですよ! きんか!」
「ああ、金貨だと? そんな馬鹿な事が……」
うん? なん……だ?
アイツら大声あげてどうしたんだ?
「いや一回見てくださいよ。本物の金貨ですって! しかもこんなに大量の金貨だ! ざっと軽く見ただけでも50枚はある! すげぇよ!」
それは俺が技を受けて地面に倒れた直後。
なにやら子分スライムが俺を無視して、財布からこぼれた金貨を見て大興奮し始めやがった。
くそ、ふざけやがって。まだ俺との戦いは終わってねぇだろうが……なにを無視して――
「ほお、意外とお金持ちさんだったのか。こいつは面白れぇ。それならば……おいニンゲン!」
「な……なんだ? まだ俺は諦めてな――」
「一つ交渉だ。どうだ? 俺達にこの金貨を全部くれるってんなら見逃してやってもいいぜ? ただし……どちらか一人だけだ。お前自身かあの女か。自由に選びな、好みを聞いてやる」
「へっへっへ、兄貴! それじゃ全然交渉になりませんよ! 答えは100%決まってんでしょ!」
「そうですよ。ニンゲンの強欲さは俺達モンスターなら誰だってよーく知ってますよ!」
はは、はははは……はっはっはっは!
そっかなるほど。まだその手が残っていたか。
正直、こんな救出法は愚の骨頂……下手すれば後ろ指を指されそうなみっともない手段だが、俺が恥をかくだけで済むならそれが求める勝利だ。
「あ、ああ……分かった」
だったら、こうするしかねぇよな?
「いいぜ。それでこの女の子を見逃してくれるってんなら全部くれてやる。なんなら追加で金貨900枚以上もくれてやる。どうせお前達にボコボコにされるんなら、いっそのことくれてやるさ」
だから躊躇わず言ってやった。後悔も無い。
こんな金で解決なんて全然カッコよくないが、たったそんだけの代償でこの女の子を救えるんなら、それこそが俺にとって最適解。
充分にお釣りが返ってくるってもんだ。
「なっ!? 何だと!?」
「「きき、金貨900枚だって!?」」
へへ、分かりやすいくらい驚いてやがる。
やっぱり金貨ってのはモンスター界隈からしても高貨な物体って事で意味が通っているんだな。
だけど……今更もう取り消す気もねぇよ。
女の子を救えたって結果さえありゃ充分だ。
「な……なんで」
……あん?
「そこまでお前はアイツを庇うんだよ!? お前にとっては何の関係も無いスライムだろうが! なのに、なんでそんなザマになってまで――」
「へへへ……生憎、俺は正しい事してんのにいじめられる優しい女の子を見捨てられるほど人間出来てないからな。だから助けたいって一度思ったらよ。こう無茶をしちまうのさ」
もう正直に全部ぶちまけってやった。
本当ならこんな這いつくばった状態じゃなくて、もっと圧勝した状態で吐きたかったセリフだが、まあ事実が事実だからな……しょうがねぇか。
「…………………………………」
「…………………………………」
「…………………………………」
「…………………………………」
「「……あ……兄貴?」」
うん? なんだよ、そんなに黙りこくって。
こんな情けない俺の顔見たって何も出ないぞ。
せいぜい憎たらしい笑みを返すくらいしか――
「……けっ! 変わったニンゲンだなお前は。死ぬまで勝手にしやがれってんだ! おいお前ら、その金貨袋だけ持ってとっとと引き上げるぞ」
「で……でも、兄貴。あの女はどうするんで?」
「そうだよ。アイツがいなけりゃ回復が――」
「馬鹿野郎! 俺達は女の子に手をあげたんだ。今思えばくだらない男のプライドに任せてな。だから引き上げだ。この兄ちゃんの漢気にこれ以上泥は塗れねぇよ!」
「わ……分かりました兄貴!」
「兄貴の言う通りに撤退しやす!」
「なあ……兄ちゃんよ」
「……なんだ? ガキ大将スライム」
「アンタのおかげで目ぇ覚めたよ。俺達が今まで如何にクソ野郎で漢の風上にも置けない屑スライムだったかってな……俺が言えた義理じゃないが、アンタは弱くても立派な漢だったぜ。じゃあな」
ははは……はっはっはっは! なんだよ……。
まだ性根の底まで腐ってなかったんじゃねぇか。
(あばよ、最初の強敵達……今度会う時は女の子を助けるヒーローになっている事を祈ってるぜ)