第5話 ああああ、井戸へ向かう
「では、《ああああ》様お気を付けて!」
「おう! 頑張ってくるぜ!」
「はい、行ってらっしゃいませ! ご武運を!」
そうして俺は今見張りの兵士に温かい応援を受けて、意気揚々に人生初めてとなる本物の冒険。
夢にまで見たあのRPGの世界を自分の足で体験すべく、巨大な国の門を潜っていったんだ!
(よし! いっちょ気合い入れるぜぇっ!)
そう! 俺の魔物使いとして冒険。
その記念すべき幕が今開いたんだ!
―― ―― ―― ―― ―― ――
「おお、《ああああ》! 全滅してしまうとは情けない。其方に今一度神より与えられし機会を与えよう! 行くのです、冒険者よ!」
「…………………………」
負けた。速攻で負けた。
ワンターンキルされた。
「……回復ありがとうございました」
意気揚々と国の門を潜ってから数秒。
俺は初めて出くわした怪力小人モンスター『ニードルハンマー』に棘付きの棍棒でぶん殴られ、気付けば教会送り。
あっさりとその出鼻を挫かれてしまった。
(けっ、格闘ゲームで言えば着地狩りにでも遭った気分だ……出た途端に襲われて敗北とか)
くそ、何とも言えない気持ちだ。
あんな勇ましく兵士に挨拶したのに門潜ったのに、1分後には棺桶とか恥ずかし過ぎんだろ! メンタル面がまだ死んでんだけど!?
―― ―― ―― ―― ―― ――
「おやぁ、随分と酷いザマだねぇ? 暁斗君?」
ああ、くそったれ!
こんな時に限って神様登場かよ!
教会から出た途端に何食わぬ顔で出てきやがって! 止めろ! そのねっとりとした話し方!
「へぇへぇ、この通りあっさり負けましたよ」
「んふふっ……あっはっはっはっは! いやそりゃそうでしょ! 戦闘経験もろくに積んでいない戦闘ド素人がフィールドに出ればそうなるよ! まして君は【魔物使い】なんだからさ!」
うわあ! 予想以上のイライラだぜ!
今すぐあの高笑い決め込む鬚面めがけてドロップキックをかましたくなってきた!
「ちっ! それでどうすれば良いんですか? 何か助けになるヒントがあるから来たんでしょ?」
「ええ、どうしよかっな? ヒント教えよかっな? それとも敢えて教えないでおこうかな? どうしよっかな? んもうマリオン困っちゃう!」
おお、すげぇ……すげぇよ!
俺こんな純粋な殺意を抱いたの始めてだ。
腹の底から神様をぶちのめしたくなった!
「はあ、仕方ないね。それじゃあ君が『偉大なる命名神マリオン様! どうかこの哀れな子羊ああああに貴方様の有難く尊いご教授を授けてくださいぃぃ!』って、もう辛抱堪らんような表情で懇願してくれたらヒントあげちゃおうかな?」
「な、なにぃぃぃ! なんで俺がそんな事――」
「嫌なら別にいいんだよ? まあまた国の外に出て教会送りになる無限ループになるだけだけど、まあそれも何か主人公っぽくていいじゃん?」
ふざけんな!
「さあどうする? どうするの? どちらにせよ私は君の誠意が見たいな。日本じゃ謝る時に土下座して相手の靴を舐めるんでしょ? んで最後に全裸でワンワンって三回鳴くって聞いたけど?」
いや最後は流石にどう考えてもデマだろ!?
日本の闇も流石にそこまでどす黒くないわ!
せめて服ぐらいは着せてくれるよっ!
(うぐぐぐぐ……だがここは仕方ないか)
とはいったもののここは背に腹は代えられない。人生最大の屈辱の極みだが俺もここは一つ大人の階段を昇って情報を得るしか……、
「ぐ……ぐぎぎぎ……い、偉大なる命名神マリオン様……どうかこの哀れな子羊ああああに貴方様の有難く尊いご教授を授け――」
「あ、もしもしアポロン? 悪いんだけど来週のゴッド・ボウリング大会はキャンセルで――」
いや聞けやゴルルァ!
「ああ、ごめんごめん。で、何の話だったけ?」
だああ、すぐ降りてこい! ぶっ殺してやる!
その髭引きちぎって燃やして食わしてやる!
「まあまあ落ち着いて。ヒントあげるから」
最初からそうしろ!
「ゴホン、ではヒントを与えよう。暁斗君、急がば回れって諺は知ってるよね?」
「ああ、急いで物事を成し遂げようとするときは、危険を含む近道をするより安全確実な遠回りを行くほうがかえって得策って意味だろ?」
「そうそう! そこでまず今の君の状態じゃまた出て行ってもコテンパンにされるだけ。だから今の君には共に戦う【仲間モンスター】が必要だ」
「だ、だが外に出ないとモンスターは……」
「ふふん、何もフィールドだけがモンスターの住処じゃないんだよ? 例えばほら……あの井戸の前であたふたしてるおばさん。彼女に聞いてみると何か役立つ情報が得られるかもよ?」
「モンスターが出るのは……外だけじゃない?」
「そんじゃ一旦ヒントはここまで! また進展があったらヒントをあげるから! それじゃ!」
うーん……正直まだ神様の言った意味がいまいちピンとこないが、とりあえずは行動してみない事には何も始まんないしな。
(しょうがない、ここは騙されたと思ってあのおばさんの所に行ってみるか)
―― ―― ―― ―― ―― ――
「こ、これはこれは! 我らが偉大なる魔物使い《ああああ》様! 今日はお日柄もよく――」
「ああ、そんな堅苦しい挨拶はいいから。井戸の周りであたふたしてどうしたんだ? 困り事か?」
「い……いえ! お忙しい《ああああ》様にとっては些事に過ぎませんので、どうか――」
「うーん、だからそういう気遣い要らないから。まだ俺だって褒められる様な偉業を成し遂げたわけじゃないんだし、気楽に話してくれよ」
確かに礼儀正しいのは凄い嬉しいけど、何だかまだ何もしてないのにチヤホヤされて他と浮いた感じになるって微妙に気分良くないんだよな。
せめて誰かを救った後とかだったらまだ――
「は、はい。その……実は先程この井戸で水を汲んでいた際にうっかり指輪を落としてしまって」
「指輪を?」
「はい。それでその指輪は遠い友人がくれた大切な指輪なのです。ですから、その……降りて取りに行こうか悩んでいたのですが……」
「井戸の中に何か問題があるのか?」
「はい。実は最近妙な噂を耳にしまして。何でもこの井戸の奥ではスライム数匹が根城にしているとかで……被害こそまだ出ていないのであくまで噂ではあるのですが。少し怖くて」
スライム……スライムか。
なるほど、神様の言ってたのはこの事か。
別に外に出なくてもどこでも逞しく生きるネズミみたいに、こういう安全な国の中でもこっそり生息しているってわけか。
(よし! そうと分かれば即行動だ!)
「おばさん。その指輪は俺が取ってくるよ。だから下に降りる為のロープか縄梯子を用意してもらっていいかな? あと明かりも」
「で……ですがそれでは《ああああ》様が――」
「いいからいいから。どうせこのままじゃ外にもろくに出れないんだ。ここは一つお互い人助けと思ってこの魔物使いに任せてくれ!」
「わ……分かりました! ではすぐに準備を!」
まあ……きっとスライムなら大丈夫だろう。
少なくともあの出会い頭に一撃必殺を決めに来た『ニードルハンマー』に比べたら、どうにか話相手にはなってくれる筈――
「はい準備出来ました。あと……こちらは少ないですが薬草を差し上げます。くれぐれもご無理だけはなさらぬよう……では指輪をお願い致します」
「おう、任せておいてくれ! 薬草ありがとう」
だからこそ俺はおばさんに礼を言って縄梯子へ。
ゲームの主人公らしく人助けも兼ねた目的達成の為に俺は薬草の入った袋、ランタンを腰に着けて真っ暗な井戸の奥へと降りていくんだった。
読者の皆様。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次話ですが……少し時間をずらして投稿しようと思います。