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第43話 ああああ、名前を語る


 物事のきっかけなんて大抵は些細なもんだ。



 ――ねぇ暁斗。あなた知ってる?



 例えるならこの母親の問いかけ。


 俺が高校1年の頃。携帯ゲーム片手にソファで寝転がっている時に、晩飯を作っていた母親から受けたこの質問を()()()()()()()()()()()終了。

 以降、俺は()()()がなかっただろう。


 ――何それ。村人Aのセリフ? 唐突に知ってるか知らないかで聞かれても困るんだけど。


 けれども……偶然、俺は尋ね返した。

 我ながら若干ひねた返し方だったが、とにかく俺は母親の謎の質問にふと耳を傾けてプレイ中のゲームを中断し意識をそっちに向けたんだ。



 ――あなたの()()()()()よ。中学の頃、あなた【暁斗】なんて無駄にカッコつけた名前のせいでいじられて嫌になったってよく愚痴ってたじゃない? 名字の赤羽はともかくとして。



 すると母親は俺へ続けた。

 そんな昔の話を持ち出して。


 ――ああ、そういやそんな事あったなぁ。


 そう。《赤羽(あかばね) 暁斗(あきと)


 はっきり言って当時の俺はこの自分の名前が()()だった。

 理由は至極単純。今の母が話した通り中学の頃にこの名前でいじられたからだ。


 特にキザったらしいとか、イケメンでも無い癖に身の丈に合っていない名前とか身分制度(スクールカースト)を意識して、誰かを陥れたがるガキ大将にやたら絡まれたからだ。


 それに……振舞い方とかなら改善すれば防げるが、そう易々と変えられない名前でいじられるってのは中々に精神にくる。だから嫌いだった。



 しかし……。



 ――実はね、あなたの名前って()()()()()()()()()()()のよ。もちろん産まれる前に色々考えたんだけど……どれもイマイチで決まらなかったの。



 ――へぇ、じゃあ誰が決めたんだ?



 ……自分の中では軽く聞き流すつもりでいた。

 けれども。俺はその日に限って何故か母親が話してくれたその話に興味を持ち、姿勢を正して詳細を尋ね返した事こそが『ある決定打』となった。



 ――()()()()()よ。



 ――お婆ちゃんって……先月亡くなった?


 ――そうそう。私のお母さんで幼い頃あなたがよく懐いていたお婆ちゃん。あの人が私達に代わってあなたの名前を決めてくれたの。私達と違って博識な人だったから、しっかりと意味を考えてね。それで……その意味っていうのが確か――



 俺がこの名前を好きになるきっかけ。

 幼い頃によく遊んでくれたお婆ちゃんが生前決めてくれた。この《暁斗》という名前を誇りにして大切にしようと決めた決定打となったのは。



 ――まず【暁】。暁は夜明けを照らす太陽なの。それでお婆ちゃんはその意味にちなんで、たとえ暗い中でも誰かを照らせる様な明るくて優しい人間になってほしいって思いを込めてくれたの。



 そうやって母親は俺に語ってくれた。

 この()()の二文字に込められた意味を。



 ――それで【斗】。こっちは少し飛躍した意味なんだけど……宇宙にある()()()()から派生して、無限大の可能性や寛大な心を持った人間に成長してほしいっていう、あの優しかったお婆ちゃんらしい言葉を合わせてあなたの名前が決まったの。



 そう母親は嬉しそうに語った。

 俺に名の由来を語ってくれたんだった。


 そして……安直ではあったがこれで俺の認識は大きく変わった。



 ――夜明けを照らす太陽の様な人柄で、無限の可能性や寛大な心を持った人間になってほしいか……なるほど。俺の名前にはそんな意味が……。


 ――どう? 少しは気にいった?


 ――ば……馬鹿言うなよ母さん。そんな単純な事で中学の頃に傷ついた俺のハートは癒えないよ。ほらほら早く料理に戻って。焦げ付いちまうぜ。


 ――んもう! 本当に可愛げのない子なんだから。産まれた時はあんなに可愛かったのにっ!


 ――それいつの話? 紀元前?


 こんな些細な母との日常会話が引き金となり、俺はこの素晴らしい意味が込められた【暁斗】という名前に愛着を持つようになったんだった……。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



「……………………」



 そして……。

 どうして今だったのか。



「おーい。そっちのテーブルは頼むぞ」

「了解だ。じゃあゴミの方は任せたぞ」


「余った料理はキッチンに運ぶんだったけ?」

「そうだ。いくら恵みの国とはいえ食い物を粗末にしたら神からの天罰が下るからな。そのおかげか食いかけで残すような罰当たりもおらんが」



 その理由は俺には分からなかった。

 だが一つだけ確かなのは今思い出した内容。


「暁斗……か」


 この俺が名前を大切にする理由。

 この過去にした母親との会話については紛れも無い現実での出来事だったって事だ。


 国を挙げての大宴会が終了し、さっきまでのバカ騒ぎがまるで嘘のように静まり返る会場。

 その中で臣下達が片付けをする様子をボーっと眺めているこのタイミングで、俺はふと思い返していたんだ。


「ブラストル王……こちらへ。我々が寝室まで護衛致しますので、既に寝具の準備も整えて――」


「いや、構わん。それよりもこれから兵士長(ガルシア)と昔話でもしながら城下町を歩く約束をしておるのだ。だからそちらに人を配備してくれ」


「はっ! では早速そのように致します!」



 ああ、それと。人と同時に場の熱気が完全に消え失せ、今は涼しく透き通った夜風を肌に感じている……なんてロマンティックな事を言うタイプでもないが、気持ちの良い風に当たっているのも確かだな。



「では《ああああ》殿、今日の宴は本当にご苦労であった。まあ……その……なんだ。踊り子達の時に関しては色々と思う所があったがな……」


「あはは……まさかスラリーナとアマーリアに終始監視された挙句、予想外の展開(ラッキースケベ)でボコボコにされるとは思ってませんでしたよ……本当に。今回で一番のダメージです」


「ガッハッハッハ! 確かにな。だがそれもまたハチャメチャな宴の楽しみとして思い出の一つに残る事だろう! ガッハッハッハッハ!」


 あっはっは……マジでもう踊り子は勘弁だぜ。

 本当に偶然だったとはいえ、仲間の淑女二人の厳しい監視の中。

 セクシーな踊り子さんが俺の方へ転げてくるなんてのはマジで勘弁してほしいよ。


 スラリーナからはマスター不潔ビンタ。

 アマーリアからもマイ・ロード不潔パンチ。

 どっちも洒落にならない威力だったからな。


「では、また明日に会おう!」

「はい、ブラストル王。また明日に」


 そうして王様は俺と軽く会釈を交わすと、酔っているのか若干ふらついた足取りで兵士達に囲まれながら城の入口へと歩いていった。



「ふう。さあて俺もそろそろ部屋に戻るかな」



 いやあ……にしても楽しかったな!

 マジで今日は食べたり飲んだり騒いだり。

 後はまさかラッキースケベ発動で仲間に殴られたりと、色々あってかなり疲れちまったが……それでも良い思い出だぜ!


「ふわあ……それじゃあ用意された部屋に――」


 あくびを一つ入れて俺は足先を変える。

 目的を達した以上やる事も他にないし。

 あとはぐっすり夢の世界へ行くだけ――



「マスター」

我が君(マイ・ロード)


「うん?」



 ……と思い立った矢先。

 寝室に向かう俺の足は止められた。

 後ろから話しかけてきたその仲間二人に、


「どうしたスラリーナ。それにアマーリアも……悪いがもう制裁を食らうのは勘弁だぜ?」


「ううん、違うの。その事じゃなくてね……」

「実は尋ねたい事があって呼び止めたんだ」


「尋ねたい事?」


 何だろう? 仲間玉による娘化の事か?

 生憎それはあのクソ命名神様しか知らないこと――



「実はね、アマーリアと話してて気が付いたんだけど。まだ私達はマスターが【()()()()()()()()()()()】を聞いてなかった事に気が付いたの」


「だから。次の魔王の配下を倒すに至り、より士気を高める意味も兼ねて我が君(マイ・ロード)に尋ねようと思って呼び止めた次第なのだ」



 ああ……そっか。

 そういえばそうだったっけ。


 確かに考えるとアマーリアだけじゃなく、スラリーナにも俺がこの異世界を攻略する目的……もといあのクソ命名神様から()()()()()()()()()()()()()()()()って理由を伝えてなかったか。



(そうだな……スラリーナは【強くなりたい】。アマーリアは【見聞を広めたい】みたいに仲間の旅の目的を共有する事はお互いの信頼にも繋がるだろうし、何より主人(マスター)である俺だけが隠しているというのもパーティとしては良くないしな)


 よし! そうと決まれば話すとしようか。

 時期的にも思い返していた今がベストだし、別にわざわざ隠す程のすごい目的でも無いしな!


「オッケー、二人がそういうなら話すぜ。ただし少し長くなるからな。それでも良いんだな?」


「うにゅ! お願いしますなの!」

「私もしっかりと最後まで拝聴します」


「オッケー! 任せろ!」


 それじゃあ早速話してやろうじゃないか。

 感動的な俺の命名についての語りをよ!



(まあ、正直お婆ちゃんの偉業だけど……)



ここまで読んでくださりありがとうございます。

次話は【諸事情】により【明日の深夜帯】に投稿予定となっております\(^_^)/

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