第41話 ああああ、全てを知る。そして……
物語加速回。
「げげっ!? オメェ達は!?」
端的に言えば【牛の頭蓋骨】だった。
「お前がデブーンの本体……なんだな?」
「うんぎぎ、オメェやっぱりその事を……。いやそれよりもオメェ達どうやって逃げたんだ!?」
と、ふと自分でも眼を疑いそうになり思わず尋ねちまったが……まあ無理もないだろ?
だってデブーンという如何にも太ましそうな名前や、あのでっぷりとした肥満体の巨大悪魔から、こんなホネホネした本体を連想できるワケもないしな……まあ食欲は本物なのか大量の食料に囲まれてるけどさ。
「オメェ達が逃げた筈の三階は飛び降りるには高すぎるし、部屋だって徹底的に調べ尽くしたんだど!? 家具の影は勿論クローゼットの中から天井裏まで包囲した後に散々探した筈だっぺ! どう考えたって逃げられるワケ無かったんだど!」
ああ。それと地頭の悪さは相変わらずなんだな。
傍若無人に子分達を散々こきつかっていたせいで、身内に裏切り者が生まれていた事に気が付かないとは……どうやらオツムは弱いままらしい。
「だって兵士長が三階に逃げたって言ったんだどぉ!? あのオラに一番忠実な子分であるモンスターのアーマーリーダーが嘘付くわけ無いし……やっぱり窓から飛び降りたんだな!?」
うん、まさにその兵士長が俺達に協力してくれたんだけどな。
「……マスター?」
「ああ、やるぜ」
さてと、それじゃあ戦うか。
彼女には脱獄の補助や変装アイテムの提供。さらに味方をも欺いて巻き込んだ大胆な誘導作戦と様々な方法でこちらに協力してくれたんだ。
だから俺達もそんな彼女働きかけに報いれるように約束通りコイツを倒さないとな!!
(さあまずは攻撃の間合いを――)
「って事はオメェ……全てお見通しってワケなんだなぁ!? オラがあの身代わりボディに食いもんを溜め込ませた後、出歩かずともここまで運ばせてきて好きなタイミングで貪り食っている事をお見通しって話なんだなぁっ!?」
えっ? はいっ?
いや……あのすいません。
まだ俺達何も聞いて――
「まっ……まさか!? オメェ達、あの身代わりボディの秘密も知っちまったのか!? まさかあの【身代わり】が過去にデスアーマー達が仕えていた獣王アニマルキングで、ある日の夜に呼びつけたオラが奴に奴隷の呪いをかけて、兵士達との主従契約そのままに見た目を変更して、好き勝手にしていたのもぜぇーんぶ知ってんのかっ!?」
「にゅにゅ?」
「……うん?」
いや、ですからね……その。
俺達はまだ一言も発してないんだけど。
そっちが勝手にペラペラと喋ってるだけ――
「だ、だから。俺達はまだ何も――」
「う……嘘だぁ。じゃ、じゃあもしかしてオラを倒せば全ての呪いが解けて、あの身代わりボディが元のアニマルキングの姿に戻っちまうこともお見通しって事なのか……なんでだ……そこは日記も書いていなかった筈なのに……どうして」
ほ、ほほぉ……そうなんだぁ。
そ、そうか。なるほどねぇ……ふんふん。
その……なんて言えばいいのだろうか。
展開が一気過ぎて上手く言い表せないが。
とりあえず説明ありがとうございました。
「と……とにかくだ。要約するとお前が主従関係を結んでいた前の王の体を操って好き勝手に城の兵士達を使役していたと。だからお前を倒せば、その操りの呪いから解放されて全てが丸く収まる。そういう話だな?」
「うぐぐ……やっぱり知ってたんだな!? くそう。ニンゲンとばかりに油断してたっぺ!」
うん、そうだね。
今お前が懇切丁寧に喋ってくれたからね。
俺達の知らない情報を隅々まで余すことなく、解説役も顔負けの密度で話してくれたからな。
「そうか。今回の食料事件だけじゃなくアニマルキングの失踪も全てお前が原因だったのか」
「うぐぐ! そこまで知られたからにはマジで生かして帰すワケにはいかなくなったんだど! 本当は美味しく調理していただく予定だったけど変更だっぺ! 頭から丸かじりにしてやるべ!」
すると、もう逆ギレもいい所だったが。
全て語り終えたデブーンはその鋭く生え揃った歯をカチカチと鳴らし、跳ねるようにしてその胴体なのか頭なのか分からない頭蓋骨の姿で戦闘態勢に入ってきた!!
けれども……こっちだって望むとこだ!
「スラリーナ!」
「はいなの! マスター!」
俺は即座にスラリーナにそう合図する。
たとえ頭一つでもボスの時点で油断はしない。
まず俺は奴が授かっている魔王の力の観察。
確認しない事には戦闘を優勢に運べないからな。
「どっふっふ! 意気込みは結構だけんども。オメェ達本当にオラに勝てるとでも思ってんのかどぉ? こんな見た目でもオラの噛む力は凄いんだぞ!? 硬いドラゴンの鱗だって噛み砕けるし……その気になればこの【毒の牙】で溶かす事だって出来るんだどぉ? どうだ怖いだどぉ?」
対してデブーンは俺達を威嚇。
ガチリ……ガチリと力強く音をその歯を鳴らし、奴は俺達をあざ笑うようにしてピョンピョンとその場で軽く跳ねて、その青く不気味に光る自慢の毒牙をこれでもかと見せつける。
(なるほど。窮鼠ネコを噛むならぬ牛頭人を噛むってとこか)
陰謀も見事に露呈し、頼りの不死身ボディもいなくて追い詰められてるってのに……こうして俺達に戦いを挑んでくる点はやっぱボスって感じだ。
「マスター。アイツのあの牙……」
「ああ、分かってる。一番ヤバいやつだ。攻撃力も相まって下手に噛みつかれでもしたら大惨事になっちまう。あれを警戒しながら戦うしかない」
「にゅ。マスターも狙われないようにね」
「ああ。全力で避ける様にするよ」
対して俺達も戦闘態勢に移行。
戦闘は全てスラリーナに一任し、一撃食らえばアウトの戦えない俺は敵の弱点を探りながら、攻撃を回避し観察する事のみに意識を集中させる。
(理想は彼女の灼熱の息であっさり一撃といきたいが……前のボスでのバリアの件もあるしな。もし【炎属性反射】とかいうカウンター特性があったらこっちが火葬されちまうからな……乱発は出来ねぇ)
「どっふっふ。勢いよく来るかと思ったら慎重そうな奴らだな、褒めてやるんだど! でも断言してやるど! オメェ達の攻撃じゃあオラが魔王様から貰ったこの【強固なバリア】は絶対に貫通できねぇ! それだけは絶対なんだっぺ!」
……ほらな。そんな事だろうと思った。
ちゃんと警戒しておいて正解だったぜ。
危うく戦闘開始前に自滅するとこだった。
(じゃあやっぱちゃんと戦って弱点を探るしか手段は無いか……)
しょうがない。それならそれで思考を切り替えよう。
灼熱無しの戦いは久し振りだがどうにか倒すしか――
「どっふっふ……では死ぬ前の冥土の土産にオメェ達の敗因と死因を先に教えてやるんだど! それはオラが炎属性以外の【全属性無効化】という究極のバリアの前に為す術無く散るんだど!」
「んなっ!?」
「にゅにゅ!?」
なにっ!? 全属性無効!?
おいおい……幾らなんでもそれはヤバ過ぎ――
「って、うんっ? あれ?」
今、コイツなんて言った?
(聞き違いか? 今なんか炎属性を除くそれ以外の全属性を無効とかって口走っていた気が――)
「だから炎を吐けるドラゴンでもなく、ろくに火炎魔法も使えなさそうなオメェ達二人如きにオラのこの最強バリアを破れる筈ねぇんだっぺ!」
ああ、どうやら聞き違いじゃなかったらしい。
そっか……炎属性以外は無効っと。そうか。
それは確かに厄介なチート特性ですね……。
「マスター。それじゃあ……私は」
「ああ、スラリーナ。お前が考えてる事で多分【正解】だ。だからあとはガンガンやってくれ」
「うにゅ。しっかり命令受け付けたの」
なら……攻略法は至ってシンプルだ。
ただ攻撃コマンドを連打するみたいにな。
だから俺は多くを語らずに彼女に託した。
「えへへ! じゃあお別れなの。デブーン」
「うんんっ? なに、お別れの時間だとぉ? どっひゃひゃひゃ! なんでそんな自信満々なのか知らねぇけど……まさかオメェみたいな水色の亜人の弱そうな小娘がオラに勝てるとでも!?」
はっはっは……おいおいデブーンさんよ。
やたらと煽って上機嫌そうだけど。温情で一つだけ忠告してやるぜ。少しでもいいから何かしらの防御姿勢を取った方が身の為だぞ?
「それじゃいくよ……スウウウッ、ムググッ!」
「おおぉ。随分と気合い入った深呼吸だっぺな! さあて、オメェ如きがオラにどんな攻撃をしてくんのか……お手並み拝見だっぺ!」
あ~あ……そんな慢心しちゃって。
もう俺はどうなっても知らないぞ?
まあ今更命令を取り消す気も無いけどな!
(それじゃあ、もうこの一連の騒動の幕を引こうか。頼んだぜスラリーナ。ここはいっちょ景気の良いやつをその骸骨頭にぶち込んでやれ!)
「どっふっふ……さあてどんな技か楽し――」
「燃えちゃえ! 灼熱炎!」
ヴォゴオオオオオオオッッッッッ!!
「んげっ!? な、なんだっペぇぇぇぇ!? まさかこいつはドラゴン族究極の奥義【灼熱の炎】か!? ギョゲギャギャギャアアァァァァァ!!!」
……ほらな?
言わんこっちゃなかったろ?
まあ次はその魔王様に頼んで火炎耐性も忘れずに付与してもらうんだな。間抜けさん。




