第4話 ああああ、冒険に出る
ここからが一章となります
「うぐおおお……重い。金貨って重いんだな」
ふと、俺はそんな当たり前の事を言ってみる。
だがこれも仕方が無いだろう。何故なら、
「ま、まさかこんなに金貨を貰えるとは……」
なんと金貨1000枚を補助金として貰ったから。
それで肝心の重量についてだが、金貨一枚を約30gとしてその×1000だから合計で約30,000g。
そう……驚くべき事に30キロの重さだ。
例えるなら2リットルのボトル15本。
他は米を大量詰めた大袋が一つってとこか。
「ふひぃ……城から出るだけでも一苦労だ」
……とまあ、ひとまずだ。
そんな大量の金貨の詰まったクソ重たい袋を城外へ運び出したとこで俺は体力の限界を迎えた。
いくら高校では運動系の部活に入っていたとはいえ流石にこれは中々に堪えるぜ……とりあえず一旦この城下町のベンチで休憩を――――
「いやー、お疲れちゃん! 暁斗君!」
……うん? いきなり誰だ?
気軽に俺の名前を呼ぶ奴は……。
いや違う! まさかこの声って!?
「俺を本名で呼べる奴といえば……」
瞬間、俺は声が聞こえた方へ視線をやる。
周辺にいる地上の人間などでは無く、まるで落ちてきたかのように響いた自分の上空へと!
「やっほー、元気してた? みんなも大好き天空のアイドルおじさん命名神マリオンだよっ!」
ああ……やっと出てきたのね神様。
ってか、うざっ!? もし今のが友達だったら容赦なく顔面にパンチ叩き込んでるとこだぞ!?
「いやー、ホントにお疲れちゃん。私ずっと天上から見てたけど中々イイ感じに異世界に溶け込めたんじゃないの? 崇拝する貴族もいたしさ」
「ま、まあな。先に色々聞きたい事はあるけど……とりあえずは確かに凄かったな。特にこの魔物使いっていう職業能力についての反応がな」
「ふふ、凄かったでしょ。人気ヤバかったでしょ。それこそ変装ばれたアイドルとか人気の動画配信者みたいな歓迎っぷりだったでしょ!?」
ああ、言われるまでもなくマジで凄かったよ。
ホントにアイドルの握手会みたいに王様や貴族には留まらず、挙句の果てには城中の兵士まで行列組んで俺の手を感動しながら握ってたよ……。
「それで、一体何なんだ? この【魔物使い】って職業能力は? あんな神格化されるくらいまで凄いチート能力なのか? 教えてくれよ神様」
「ええ……面倒臭いなぁ。私これから1週間取り溜めしてた神アニメ見ようと思ったのにぃ!」
うわっ、やべぇ!マジ神殺してぇ!
ってかそんなの普通は後回しにするだろうが!
最初から人の反論も聞かず、強引に異世界に送り込んだ責任として説明はすべきでしょうがっ!
「はあ、まあしょうがないね。それじゃあ……うーん、軽く二時間くらい話すけど良いかな?」
頼む10分で纏めてくれ。話し下手か!
「よし、じゃあ早速……ああ、そうだ。気楽にポップコーンとメロンソーダでも用意して――」
「映画かっ! しかもその両方とも無ぇよ! それどころかくつろげる座席すら無いんだよ!」
「ほんじゃ……ムシャムシャ……ゴクゴク」
いやお前が飲食するんかいぃっっ!?
―― ―― ―― ―― ―― ――
「それでね私達、神の世界はというと――」
……とりあえず体感的に約三時間が経過。
気付けば昇っていた日も既に落ち始め、国民達の動きも夜のリズムに移行する中で、
「それで次は私のスリーサイズの話でも――」
(知るか! 脱線しまくってんじゃねぇか!)
さっきからこんな約90%近くが無駄な話だが、とりあえず俺が神様から聞いたこの異世界と【魔物使い】という職業能力。
これの特徴はおおよそ二つだ。
まずこの異世界で生息する種族は大雑把に分けて【人間】と【モンスター】に二分されており、まさにファンタジーのテンプレみたいな世界だ。
そしてこれまたRPGらしくモンスター側には魔王という明確な巨悪がいて、今も現在進行形でこの人間界へと侵略の手を伸ばしているそうだ。
「それで若い頃は神バスケ部の大将を――」
「いや、それさっき聞いた! もう五回目!」
と……まあここまでは簡単な世界観の説明。
しかし俺にとって肝心なのはここから。
何故この【魔物使い】が重宝されるかだ。
本来、野生のモンスターはしっかりと戦闘経験を積んで鍛えれば大抵倒せるらしく、これはゲームプレイヤーの俺でもすぐに理解出来た。
「うーん……それじゃ次は最近見た映画――」
「それもさっき聞きました!」
だが……今も世界中で悪事を働く魔王の配下。
その魔王の力を授かったボス達は別格でそれこそどんな強力な装備で固めた屈強な戦士の攻撃でも殆ど通らず、まるで歯が立たないらしい。
だからこそ今も魔王軍の侵略を受ける国々は防戦一方に偏ってしまい、今ではあちこちで異変や災害を起こされているという苦境にあるらしい。
「ほんじゃ……次のお話は――」
「もう終わりにしません!?」
だが! そんな苦境の中でも唯一の希望。
そんなボスモンスター達の防御力をも貫通し攻撃をぶち込む……その限られた手段こそ、この話の肝となる【同種族の攻撃】だった。
―― ―― ―― ―― ―― ―― ――
「ふう……もうすっかり夜だね。じゃあ私定時だから家に帰るね! んじゃ、また会おう!」
「うるせぇ! もう二度と出てくんな!」
同種族の攻撃。
まあ端的に言えば弱点に近いかもしれない。
亜人含めた人間種ではボスに攻撃は通らない。
だがしかし人では無い魔物族の攻撃であれば同族であるボスモンスターへ特攻が入り、通常以上の威力を与えられるらしい。
(育成ゲームで例えれば、竜タイプには竜タイプの攻撃。ゴーストならゴーストの攻撃が効くみたいな感じか)
だから神様曰く、今この異世界中の国ではそんなモンスターを使役し操って攻撃出来るという力を持つ貴重な【魔物使い】の職業能力を保持する人物を血眼になって探しているという事らしい。
(なるほどな、だから王様や兵達はそんな伝説を前にあんなに動揺していたってわけなのか)
この補助金の半端なさも含めて合点がいったぜ。
「ふわあああ……転移早々から怒涛のイベント尽くしだったせいか疲れたな。もう時間も時間だしな。とりあえず本格的な冒険は明日からだな」
よし、それじゃあ一旦宿探しでもするか。
多分城でも泊めてくれるだろうが、あの城内の歓迎振りを見るとロクに休める気がしないしな。
「冒険の始まりらしく小さな宿で寝ようっと」
……というわけで異世界転移初日。
日が落ちきった中で俺はそう決めて金貨袋を抱えながら、付近の宿を求めて歩く事にした。
―― ―― ―― ―― ―― ――
次の日。
「それじゃ行ってくるぜ!」
俺は朝早くに目を覚ました後に宿を出発。
金貨の殆どは近くの銀行へ預け、国の門へ。
「では、《ああああ》様お気を付けて!」
「おう! 頑張ってくるぜ!」
「はい行ってらっしゃいませ! ご武運を!」
そうして俺は今見張りの兵に温かい応援を受けつつも、意気揚々に人生初となる本物の冒険。
夢にまで見たあのRPGの世界を自分の足で体験すべく巨大な国の門を潜っていったんだ!
(よし! いっちょ気合い入れるぜぇっ!)
そう! 俺の魔物使いとして冒険。
その記念すべき幕が今開いたんだ!