第37話 ああああ、見つける
結果から言ってかなりガバガバ警備だった。
「マスター……こっちの棚にも無かったの」
「そうか。よし、じゃあ次はその本棚を探してくれ。あとアレの中に重要な秘密があるとは限らないから、本の題とか内容も確認とかも頼むぜ。あくまで軽めでな」
「うにゅ! 了解なの!」
俺達がまさかの協力者だったあの鎧モンスターから貰ったコック服で変装し、さらに新入りのコックだと嘘も盛っただけで城内の兵士達からは一切怪しまれなくなったんだった。
いや、むしろそれどころか気軽に挨拶をしてくる奴や食事の量を増やしてほしいとか、好きなメニューを提示する呑気な連中まで現れる始末で、警備の意味を問いただしたくなる程にあっさりと足を進めていった。
(しっかし……本当にザルな警備で助かった。初めはバレないかドキドキしてたけど、まさかここまであっさりと事が運ぶとは思いもしなかったぜ)
と……まあそんなワケで。俺達は目的地だったこのボス部屋へ到着。どうしたことか身内である兵士達ですら結界に阻まれて通れないというあの巨悪魔デブーンの部屋に潜入し、今は奴の不死身の秘密を探るべく室内を調べている真っ最中。
色々と動きやすいように変装していたコック服を脱ぎ捨てて、まさに泥棒かの如く大胆に部屋のあちこちをこうして漁りまくっていたんだった。
「しっかし、本当に広い部屋だな……」
「うにゅ。でもあの巨体ならこれくらいの部屋が無いと窮屈で死にそうになると思うの。でも探す側の私達からすれば良い迷惑なんだけどね!」
「はっはっは……まったくだ」
本当に……この体育館みてぇな広い部屋。
それこそシャトルランやランニングでも出来そうなこのボス部屋を隅から隅まで完璧に漁るとなると、マジでため息が出てきちまうぜ。
気になった内装についても入口を塞いでいた馬鹿デカい扉を筆頭に劇場みたいなこの高い天井。デカい枕が備えつけられた5m以上は確実にある巨大ベッド。他にも本棚やテーブル、キャビネット、カーテンに至るまで全てが規格外のデカさを誇ってやがる。
(まあ、この城に潜入した時から勘付いてはいたけど……やっぱあの巨体が生活するとなるとこれくらいのサイズはいるよな。おかげさんでこっちは小人にでもなった気分だぜ……いつ俺達は青狸の『ガ〇バートンネル』に入ったんだろう?)
「うにゅ? マスター。そんな所に突っ立てどうしたの? 何か気になる物でも見つけた?」
「うん? ああ悪い悪い。ちょっと考え事をしていただけなんだ。だからお前は気にせずに【アレ】の捜索を続けてくれ。俺もすぐに探すから!」
「にゅ! 私にお任せあれなの!」
「おう! 頼りにしてるぜ相棒!」
……なあんてな。なにが小人だ。
今はそんなふざけてる場合じゃねぇな。
早く脳みそを現実にシフトさせてっと、
「さて……俺もちゃんと探さないと!」
さて、そう思考を切り替える中。
現在の俺達が探しているのは【鍵】だった。
「えーっと、このテーブルの引き出しはさっき調べ終えたけど……もしかしたら見落としがあるかもしれないし念入りに探し直すか。二重底とかって可能性も無いとは言い切れねぇしな」
先に言うならば、俺達は既にこのデブーンの寝室を一通り探り終えていた。今スラリーナが熱心に漁ってくれている本棚を除いた場所全て。テーブルやベッドの下、置物の下、果てには花瓶の中やゴミ箱の中と色々だ。
けれども……残念ながら肝心の奴の秘密へと繋がりそうな手かがりはある一つの家具を除き、他には一切発見出来なかったんだ。
「うにゅうにゅ♪ うにゅにゅ♪」
(まったく……楽しそうに探してるな)
そう……この目前にあるたった一つ。
この【豪華な宝箱】の中身を除いて――
「うにゅ! マスターマスター!」
「おっ、どうだった? 鍵は見つかったか?」
「えへへ! ほら、多分この銀色の鍵でしょ! 絵本と絵本の隙間にあった箱に隠してあったの! 今そっちに持っていくから待っててほしいの!」
「よぉし、でかしたぜスラリーナ! お前ならきっと見つけられると信じてたぞ! あとは……足元に気を付けてその脚立から降りてくるんだぞ」
って……そうこう言ってる間にスラリーナが鍵を見つけてくれたな。やっぱ頼りになる仲間だぜお前は! さて、そんじゃあ鍵を受け取った後に次にやる事は……ってもう決まっているけどな!
「はい! マスター。鍵だよ!」
「おう、サンキューな。問題はこの鍵が……」
そう後は宝箱を開けて中を調べるだけだ!
さあて……どうだどうだ? スラリーナが見つけてくれたこの鍵で宝箱を開錠出来るのか……手に汗握るドキドキの瞬間だ。さてどうだ!?
ガチャリ……パカッ!
「うおおっ!? ビックリした」
「やったぁ! 開いたの!」
開いてくれた。それも勢いよくあっさりと。
俺が鍵を奥まで差し込み軽く捻った瞬間にそのデブーンの宝箱は閉ざしていた口を開き、その大切に守っていた中身を俺達へ晒してくれたんだ。
「さてさて……一体何が――」
そして肝心の中身はというと――
「うにゅ? マスター……これって」
「……ああ、多分【日記】っぽいな」
やたらと古ぼけた一冊の本が入っていた。
そうして……俺はその如何にも長年使い古されたかのようなカバーの所々が禿げ、ページも褪せてしまっている本を破らぬように慎重に開くと、
「ゴクリ……読むぞ?」
「お願いするの。マスター」
スラリーナを横に据え、朗読を始めた。
何か奴を倒せる手かがりを求めて……。




