第34話 ああああ、死刑宣告を食らう
まさかのこのタイミングだった。
「デスア~マ~、首尾はどうだどぉ?」
「はっ! デブーン様。お疲れ様です」
「こちらが例の侵入者となっております」
「う~む……分かったんだどぉ~」
潜入がバレて牢屋にぶち込まれた直後という。まさに最悪の瞬間で遭遇とは悪夢にも限度を設けてほしいが……それでも俺達はついに今回の魔王配下の魔物デブーンと対面した。
「どっふっふ……ったく、オラの城に侵入するなんて命知らずなニンゲンだっぺ。そんなんじゃあオラに食われても文句は言えないんだどぉ」
パッと見で言えば巨漢の悪魔モンスター。
悪魔属らしい翼に禍々しい紫色をした体。
そして一番の特徴は何よりデブーンの名に相応しいこのでっぷりとしたデカい腹。
一応チャンピオンベルトみたいな装飾品してるが、その膨らんだ腹は全然隠しきれていない。
(いかにも私は食いしん坊ですって主張しているような風貌だ。リッツァーニャ国に大量の食料を要求する理由も分かりやすい気がする)
「う~ん……だけどなんでオメェ達はあの書庫にいたんだどぉ? う~ん……ダメだ。考えるだけで頭が痛くなってきたぞぉ……う~う~」
あと、予想通り頭も鈍そうな感じだった。
こんだけモンスターとしては成熟してそうなのに、このどこか抜けた言動や捕縛前に見た字の書き間違い。文字の少ない絵本を愛読書にしてる感じからその地頭の悪さが垣間見える。
「ニンゲンかぁ。う~ん、そう言えば……兵士達の誰かが言ってたなぁ~。確か『ろとしあ?』の国にいたダークマジシャンが一撃で敗北したってぇ、それも確か……えっとぉ」
(……うん? 今コイツなんて?)
「ああそうだどぉ。魔物使いだ。その魔物使いのニンゲンとスライムの二人があの賢いダークマジシャンが倒したって聞いたんだったどぉ……」
ギクッ!?
(なっ!? こ、こいつ……まさか!?)
「そんで今回捕まえたこの侵入者も二人。それもニンゲンとスライム風な女の子……なんか怪しいなぁ? もしやオメェ達の正体って――」
ああ、ちくしょう! 前言撤回だ!
腐っても親玉ってだけはありやがる! 見た目は鈍そうでも勘は鋭い感じかよ!
(……って事はもしかして)
コイツ実は頭が意外とキレたり――
「……なぁんて、そんな事あるワケ無いんだど。だってスライムってこ~んなに小さいんだどぉ! だからオメェ達二人が魔物使いとスライムのコンビなワケがねぇんだっぺ! どっへっへっ!」
あ、うん。そんな心配は一切無かったな。
自分で言うのもなんだが、ここまで怪しさがプンプンしてんのにスル―する時点でこのボスは100%お馬鹿さんだ。前言撤回の前言撤回だぜ。
「ではデブーン様。この侵入者達はいかがいたしましょう? 一応兵士長様からは一旦このまま閉じ込めておけと言われたのですが――」
……ってもまだ危機は脱してねぇ。
問題はここからどう出るかだ。
ここをしっかりと考えないとマジでこのまま獄中で死んじま――
「う~ん、それはダメだっぺ」
「では、一体……」
「そうだっぺな……そういや、オラってニンゲンはまだ食った事が無いんだなぁ。それにその娘さんも……う~ん、そう考えるとなんだか――」
う、うん?
あれ、なんだろう……。
この得体の知れない悪寒は……それになんでアイツこっち見て嬉しそうにしてんだ? それも涎垂らしながら舌なめずりして――
「よし、決めたど! 喰ってやる! オメェ達二人はこんがり焼いてオラが頭からバリバリ食べてやるんだどぉ!」
「にゅにゅっ!?」
「なにぃっ!?」
「どっふっふ……オラに食べられる日を恐れてビクビクしてると良いんだどぉ~。どうせ逃げられないんだ。今の内に食われる覚悟しとくんだっぺ!」
……こうして。
「……………………」
「……………………」
「それじゃあさらばだど、お二人さん!」
俺達がそんな食事という死刑宣告に呆気に取られ沈黙する俺達を他所に、デブーンは見張りのデスアーマーと一緒にこの地下牢獄から離れていったんだった……。
―― ―― ―― ―― ―― ――
「……………………」
「くっそう、あの野郎ふざけやがって」
まったく……誰を焼いて食うって?
焼くのは体脂肪だけで充分だってんだ。
「マスター? 私、その……」
「……うん?」
すると、そう俺が憤りを覚える傍で珍しく震えた声で隣にいたスラリーナが声をかけてきた。
まあ……冷静に考えれば割と怖いよな。
「大丈夫だぜスラリーナ。こんな緊急時こそ主人である俺がしっかりする時だからな。だから安心してくれ。必ずこの牢屋から脱出――」
だが震えていても何も始まらねぇ。
ここは主として食われる恐怖に怯える彼女の不安を和らげて、何か良い脱獄案でも、
「うにゅう……ミディアムかレアか。私達どっちで食べられるのかな? 私的には美味しいレアで食べて欲しいんだけど……マスターは?」
「何の話!?」
いや、心配してたのそこぉっ!?
俺達の焼き加減の問題ですか!?
あなた意外と肝据わってますね!?
「あの……スラリーナさん? 無駄な確認だと思うんですけど、貴方はこの状況怖くないの?」
「うん全然怖くないよ。だってマスターが一緒だもん! まあ一人だったら流石に怯えてたかもしれないけど……今はマスターが傍にいてくれるから! 不安なんて微塵も感じないのっ!」
ああ……天使天使。
まじエンジェルスライム……。
この笑顔で一年は無休で働ける気がするぜ。
下手な回復呪文より癒し効果あるわぁ……。
「ねぇねぇマスター。それよりも――」
「どうした? 何か見つけたか?」
「うん。実はねマスターがあのデブーンって奴を観察してた時から気になってる事があって。マスターのぶら下げてるそのポーチなんだけど……」
「ポーチ? ああ、この前買ったこれか?」
「うにゅ。何だかそのポーチの中身が時々光っているように見えたの……それが気になって」
「えっ……光ってた?」
えーっと……どれどれ。
「うおっ……本当だ」
「うにゅ、やっぱり!」
神様から貰った『共鳴の腕輪』が光ってる。
しかもビカビカと派手な光り方をして――
(あれ……って事は?)
この仲間モンスター用の探知装置がこんなにハッキリ反応してるって事は……もしかして。
(このデブーン城のどっかに新たな仲間候補になるモンスターがいるってことじゃ――)
ギギギィィィィ……バタンッ!
ガシャン……ガシャン……ガシャン。
「マスター。今の扉の音は……」
「ああ、誰か降りてくるみたいだな」
さてデブーンの次は誰が下りてくるのやら。
とりあえず腕輪はポーチの中に一旦戻して、俺達の様子を見にくる野郎の姿を拝むとするか。




