第26話 ああああ、包囲される
飛空艇着陸後。
俺とスラリーナは新天地であり魔王の配下の魔物が潜伏しているという王国リッツァーニャを目指し、飛空艇の荷に積んでもらっていた馬車に乗って、のんびりとこの地を横断していった。
「な!? なんだ貴様らは!?」
「リッツァーニャの者ではないな!?」
「怪しいぞ! そこから一歩も動くな!」
道中何度か新しい種類のモンスターと遭遇したりもしたが、未だにグングンと成長するスラリーナに勝てる奴など存在する筈もなく楽勝。
別に敵の集団と遭遇した時でも彼女の灼熱の息の前では完全に無力でまるで蚊取り線香に散る蚊の如く、次々と無双していったんだった。
「おい……ガルシア兵士長は?」
「今、連絡係を向かわせたところだ」
「そうか。ならば、あと出来る事は――」
そうやって体感的には1~2時間。
緑の少ない高原を横断していき、俺達二人はこうして無事にこのリッツァーニャの関所に到着。
「すぐに応援を呼ぶ準備をしておけ!」
「「「「了解しました!」」」」
なおスラリーナについては身分の証明が完了するまで、モンスターの襲撃と誤解されないようにと色々ごまかしが利くモンスター娘状態で同行。
そして肝心の俺の身分証明についても事前に王様からの書状を預かってるし、これを見せればすんなりと国内へと通してくれるものと思って……こうして関所前に立っていた兵士に気軽に声をかけたんだが……
「あの……すいません。少しこっちの話を――」
「動くな! 一歩でも動けば攻撃する!」
「そんな可愛い亜人種の女の子で我々を油断させようとしても無駄だからなっ!」
「死にたくなかったら待機してろ!」
「…………………………………」
なのにどうしてこうなった……。
何がどう転べばこんな一斉に周囲を兵士達に囲まれて武器を突きつけられる事態になるの?
マジで誰か教えてください……お願いです。
「ボソボソ……おい……まさかコイツ」
「まさか!? デブーンの手先か!?」
「…………はい? 誰だ? そのデブ――」
「なっ!? 【納品】は明日の約束だろ!?」
「よもや……宣戦布告にでも来たのか!?」
「貴様! このまま生きて帰れると思うな!」
なっ……なんだなんだ!?
勝手に物々しくなりやがったぞっ!?
いや! 今はそんな事よりも先にっ!
「ち、違う! 俺は――」
手遅れになる前に早く弁明をしないと!
事情に関しては最早さっぱりだが、こんな到着直後から目の仇にされちまうのだけは勘弁――
「おい貴様ら! 何をやっておる!」
おいおい!? また増援かよ!?
もう勘弁してくれよっ! しかも今度は一般兵だけじゃなくて、何か明らかに強そうな青い鎧のオッサンまで来やがった!
「あっ! ガルシア兵士長!」
「お待ちしておりました! コイツです!」
「コイツが報告させました怪しい男――」
「ええいっ! この愚か者達が! バカな真似はすぐに今すぐ止めろっ! 国の玄関である関所で証拠も無しに何をやっとるんだ!? それも女性にまで武器を向けるなどとはっ!」
「「「で……ですが……」」」
「ですがもへったくれも無い! いいからその武器を早く下ろせ! 後は私が引き継いで事情を聞くから、お前達は一旦そこで待機していろ」
「「「は……はいっ!」」」
「「「了解致しました!」」」
おお、一瞬どうなるかと思ったが助かった。
流石は兵士長って肩書を持つ人だ。
こんな状況でも落ち着いて判断してくれて良かったぜ。
「いやあ、本当に申し訳ありません。私の部下達がとんでもない御無礼を働いたようで……ですがこれは上官である私の指導ミスですので、咎めるのであれば私に怒りの矛先をお向けください」
「あっ、いいえ……別にそんな……」
しかも滅茶苦茶良い人じゃねぇか!
貴方みたいな上司が将来欲しい位だよ!
「おっと……ご紹介が遅れました。私めはこのリッツァーニャを守護する兵士達の長を預かっている《ガルシア》と申します。以後お見知りおきを」
しかも挨拶まで満点!?
まだこちらの疑いも晴れてないのに……マジで責任ある立場を任されている人って感じだな。
「して……そちらのお名前は?」
「ああ、俺の名前は《赤羽 暁斗》。それでこっちの青い体の女の子は……」
「私スラリーナって言うの! よろしくね!」
「ほほぉ、なるほど。《ああああ》様にスラリーナさんですね。このガルシアしかと承りました」
あっ……はい、そうですか。
やっぱりどこでも俺の名前はああああに聞こえちまうんだな……って、まあこればっかりは今更文句言ったところで始まんねぇか。
「では早速で申し訳ないのですが。遠路遥々このリッツァーニャへ来られた事情をお伺いさせていただいても宜しいですかな?」
「おお、そうだったな。今預かっている書状を出すから少し待ってくれ…………ええっと」
確かこの辺に……おっ、あったあったコレだ。
このリボンで括られた羊皮紙が書状だったな。
「はいよ、これに事情は大体書いてある筈だ。一応関所の人が見ても良いようにって許可も得ているからさ。読んでも大丈夫みたいだぜ?」
「はい。ではお預かり致します……って、おや? このリボンに付いている紋章は確かかのロトシア国の紋章だった筈……そうですか……では失礼して中身を一度拝見させていただきます」
へぇ、俺があの国ロトシアって言ったのか。
もう今更感半端ないけど初めて知ったな。
「ふむふむ……なるほど。やはりあのロトシア王直々の紹介でしたか。これは本当に失礼を……」
まあ、でもとにかくだ。
これで俺とスラリーナは信頼されたわけだ。
後はこの兵士長さんが書状を読み終わった後に相談して、王様との謁見許可を貰って新しい情報を――
「ふむふむ……んんっ!? な、なんですとおっっ!? まさかこのお二人がそんな馬鹿なっ!?」
……はいっ?
「「「へ、兵士長!?」」」
「「一体どうしたんですか!?」」
「まさか……やっぱり……」
「あ、あああ……そんな……あああああ」
えっ? えっ?
なに、何ですかこの雰囲気?
この戻って来た険悪ムードは一体……。
「ごくり、兵士達よ……緊急事態だっ! 今ここに集っている全兵士達へ告げるっ! この兵士長ガルシアの元へ集まれ! 今すぐにだっ!」
「「「はっ、了解致しました!」」」
「「「兵士長のご命令通りに!」」」
「「「化けの皮が剥がれたな!」」」
「「「大人しく観念するんだな!」」」
うげげっ!? なんでだっ!?
なんで振り出しに戻ったの!?
身元証明したのに何故だあっ!?
「へ、兵士長。これ……何かの冗談ですよね?」
あれですか!? その書状ですか!?
それに何かヤベェ事書いてたんですか!?
お願いです! 教えてください兵士長!
「申し訳ありません《ああああ》様。御無礼な事は大変承知の上ですが……貴方達二人をこのままにしておくワケにいかなくなりました」
おいマジでなんて書いてたんだあぁっ!?




