第24話 ああああ、拠点を離れる
ダークマジシャン討伐後より約10日。
「おお《ああああ》殿、よくぞ来てくれた。褒美の屋敷はどうだった? 一通り掃除はさせておいたのだが蜘蛛の巣とかホコリは無かったかの?」
「はい、大丈夫でした。新居みたいに綺麗になってました。おかげでスラリーナも大はしゃぎでで球体状態になって飛び跳ねてました」
俺は既に見慣れた王様の元へと参上していた。
ただし今回の俺は今まで王様の招集命令で招かれたのとは違い、逆に俺側から王様に謁見を望んでの対談という形となっていた。
「はっはっは! そうかそうかそれは良かった。あの屋敷は以前に言った通り、元々冒険者ギルドが使っていた建物じゃからのう。さながら高級宿の如く、設備も部屋の数も多かったじゃろ?」
「はははは、掃除が思いやられますよ」
本当に寝室・客間・キッチンまではともかく、流石に武器工房や修行場とか……部屋の種類が豊富過ぎてまだ使い切れていませんっ!
「わっはっはっは! 確かにそうじゃのう! じゃが魔物使いである其方がこの先冒険を進める内に確実に仲間モンスターの数が増えていくと思い、ワシはあの屋敷を譲ったのじゃよ!」
ああ……そっか。新しい仲間か。
そうだな。いくらスラリーナが強いといってもこの先どんな敵が待ってるか分からないもんな。
(新たな仲間探しも並行しよう!)
「さて、少し話の筋がずれてしまったが。今日はまた一体どんな用でワシを呼んだのかな? このまま会話するだけでもワシは一向に構わんが、《ああああ》殿は何か用事があったのじゃろう?」
おっとと……そうだった。
仲間の事で頭一杯にしてる場合じゃねぇ。
謁見の理由をちゃんと伝えないとな――
「その……実は――」
今朝に聞かされたあの神様の言葉を……。
―― ―― ―― ―― ―― ――
「えっ? リッ……ツァーニャ?」
「そうそうリッツァーニャ! そこが次に君達が向かうべき場所となる国名だよん!」
へぇ、リッツァーニャ……ねぇ。
その何かイタリア辺りにでも存在しそうな国が俺達が向かう次なる目的地ってわけか。
「んで、そのリ……リッツァーニャではどんな魔王配下の魔物がどんな悪さをしてるんだ? どうせ神様いつも遊んでいて仕事サボってんだから、今の内に何か役立つヒントをくれよ」
「うーん……どうしようかなぁ。教えよっかな……それとも教えないでおこうかなぁ? きゃーっ! 神様ってば、すんごく悩んじゃうううぅぅ!」
よし一回降りてこい。血祭りにしてやる。
すぐ殺す。即殺す。今殺してやるぅ!
「ってかさ、冷静に考えてそれは自分で確かめるべきじゃん? 別に私の持ってる情報をばらしてもいいけど。それじゃつまんないでしょ?」
「うぐ……そ、それは……」
「要するにそれって最初から攻略本片手にゲームしているみたいなもんだよ。傍から見ればドキドキも面白さもへったくれも無いプレイ方法。まだ二周目以降のやり込みは別として……君はそんな無粋な冒険をするつもりなのかい?」
うわあぁ……認めたくないが珍しく正論だ。
確かにそう尋ねられると意欲が薄れちまう。
しょうがねぇ。この話題はスル―だな。
「分かった。ボスについてはまだ聞かねぇよ。それでそのリッツァーニャってのはどんな国なんだ? せめてこれくらいは教えてくれよ神様」
「はいはい、それなら大丈夫だよ。それじゃちょっと待っててね……今この天界間で流行ってる検索アプリ【God Wikipedia】で調べ直すから」
いやアンタ、それどこ情報!?
自力で調べたんじゃなかったのかよ!?
ってか、誰がそのページ編集してんの!?
「えっと、なになに……ページが見つかりませんでした。このページは編集者及び報告により第三者の手によって削除された可能性があります……ってありゃりゃ?」
おい何処が信頼できるアプリだっ!?
情報が一個丸々消されてんじゃねぇか!?
「はあ……まあ情報はともかくとして、とりあえずそのリッツァーニャに向かえばいいんだな? 流石にこれは偽情報じゃないよな?」
「あっ、うん! それは本当だよ。私の神センサーでは凄い邪気が出てるからね。魔王の配下に間違いない! でもそこまでの距離的はかなりあるから移動手段については一旦王様に相談して!」
その国までかなり距離がある……ってか。
じゃあ今使ってる馬車では難しいのか?
「ほんじゃ、今回の神様ナビはここまで。これから私は散歩中に置いてきた愛犬を探しに行かないといけないから、それじゃまたね!」
「アンタ何しに行ったのっ!?」
普通、犬の散歩中に犬忘れますっ!?
しかも愛犬放置って犬舐めてんのかっ!
もう絶対お前の事飼い主って認めねぇぞ!
「それで……マスター。これからどうするの?」
「はあ、まあ神様の言う通りにするしかないか。今日か明日にでも王様の所行って知恵を貸してもらおう。俺もこの世界は全然知らないしな」
「うにゅ! 了解!」
よし、それじゃあとりあえず。
神様の言う通り王様に謁見だな。
―― ―― ―― ―― ―― ――
「と……いった感じでリッツァーニャまでの移動手段について尋ねたくて、今回王様に謁見の許可をいただいたといった具合なんです」
「なるほど。天からの啓示とは……流石は伝説の魔物使い《ああああ》殿。凡庸なワシ如きには到底得難いような神秘的な体験をしておるとは」
いやいや、王様持ち上げすぎぃ!
天の啓示なんてカッコいい言い回しは勿体無いですよ! 本当はただの髭もじゃクソ神様の煽りに付き合わされているだけなんですからっ!
「よし、其方の要件は了解した。確かにそのお告げ通り馬の足……それも馬車ではそのリッツァーニャまでは数週間はかかる……そこで、其方には【飛空艇】の使用許可を出そうではないか!」
「ひ、飛空艇?」
そんな大仰な物がこの国にあったのか。
「うむ。実は其方が退治したあのダークマジシャン騒ぎで危険という事で一時的に使用を禁じていたのじゃが、先日どうにか再開したんじゃよ」
なるほど。魔法による撃墜を警戒してか。
だがまあそれなら遠距離も楽に進めそうだ。
「操縦師、技師及び兵士はこちらで手配する。許可証も後で届けさせよう。だからその間に準備をしておくといい。恐らく長旅になるからのう」
「分かりました、王様」
「ああそれから、実はワシとリッツァーニャの王とは旧友でな。少しでも其方の助けになってくれるようにワシ直筆の書状も書いておくとしよう」
「いいんですか?」
「うむ構わん! それに遠国故にここ最近音沙汰が無かったからのう。ちょっとした調子伺いも兼ねておこうと思ってな。それにワシの書状があればリッツァーニャ国で《ああああ》殿とスラリーナちゃんの身分は保証されるからのう」
「それは助かります。ではお願いします王様」
「うむ、任された!」
あははは……本当に頼れる王様だぜ。
どっかのネット頼りのダメダメ神様とは大違いで断然に助けになってくれるぜ……ホントに。
(よし! とりあえずこれで交通手段は確保できたな。では次なる旅路への準備をしよっと!)




