第23話 ああああ、ほっこりする
俺は真実を知った。
――なんでも、聞いた話によるとスラリーナちゃんは我々人間に少しでも馴染めるようにするため。そして自分の力で蓄えたお金で《ああああ》様。貴方に礼がしたいという事で彼女はああして、昼から夕方まで給仕として働いているんですよ。
スラリーナが暇な時間にて用件だけは言わず、俺の許可の元で城下町へ出かけていた理由を。
初めは変な虫が付いているとかトラブルに巻き込まれてるというクソ神様のくだらない妄言に振り回されて彼女を追っていた。
――いやあ、ですが本当に優しい子ですね。元がスライムだったとはいえつい我が子のように応援したくなりますよ。それにマスターである《ああああ》様もそう思うで…………って、あれ?
しかし実際は人間達と仲良くする為の第一歩。
そして世話になっているからと俺への礼の為。
さらには、王様から貰った金貨で購入するのではなく自分が汗水たらして稼いだお金で何かを用意しているという事実を知ったんだった。
だから……その帰宅後の俺はと言うと、
―― ―― ―― ―― ―― ――
「このクソ神様がああああああああああ!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア! やめてちぎれる! その人形と私の痛覚は共有してるんだからすぐ止めてっ! 髭が、数十年伸ばし続けて蓄えた私の立派な髭があああぁぁ!」
「なあにが男の気配だ! 何処にそんな寒気覚える不安要素があったんだよ!? むしろ温かいよ! ホッコリしたよ! ハートフルだよ!」
俺は小型神様人形をしばき回していた。
だけど当然の報いだってんだこの野郎!
「うぐおおお……だ、だから私言ったじゃん! 彼女を疑うのは止めようって! 彼女は優しくていい娘だからそんなやましい事はあり得ないって終始警告してあげてたじゃないかあ!」
「なんて清々しい手のひら返しっ!?」
それ俺が思ってた事なんですがっ!?
反省する気ゼロですかこんちくしょう!
今すぐにでも暖炉にブチこんでやろうか!
「そ……そもそも他人の妄言で仲間を疑う様な主がダメなんですぅ! だからぜーんぶ君が悪いんだ! 私は悪くねぇ、私は悪くねぇ!」
「ウググ……ウキイイイイイィィィッ!」
くそ思わず猿みたい声が出やがった!
だが、もう俺もついに我慢の限界だぜ!
この期に及んで責任転嫁とは良い度胸だ!
「ぐおっ!? ちょ……ちょっと!? 暁斗君!? こんなに愛敬に満ちた小型命名神ミニマリオンちゃんを何処に持っていく気なの!?」
「今すぐ焼いて灰にしてやる」
「んなっ!? 止めてよ! それ値段いくらしたと思ってんの!? それ天界からの支給品じゃないんだよ! 実費で買ったんだよ!?」
「心配すんのそっち!? それよりこれ燃えたらアンタは痛覚共有してんだから火炙りの刑みたいになるんだぞっ!? それでもいいのかよ!?」
「ふんだっ! いまさら炎が怖いもんか! この前だって麻雀に全敗して借金こしらえた挙句に神闇金に追われて焼かれそうになったんだから! そんな脅しは一切通用しませんっっ!」
なんてたくましい神様なのっ!?
ってか神が借金こしらえてんのかよ!
やっぱ全然ダメダメじゃねぇかテメェ!
「マスター! ただいまーなのっ!」
「「あっ」」
しまった……このクソバカ借金野郎と格闘している間にスラリーナが家に帰ってきてしまった。
どうしよう。マジで合わせる顔が無いんだが。
「あっ! マスターいたいた。もぉ……そんな小汚い神様の分身と喧嘩して! そんなばっちぃ人形は早く暖炉にくべて燃やすべきだと思うの!」
「……だってよ。今の正論聞いたか神様?」
「うう、スラリーナちゃん……相変わらず酷い」
はっはっは、いやいや何を仰いますか神様。
こんな髭もじゃのきったねぇオッサン人形なら多分野良犬でさえゴミ認定して拾いませんよ。
(って……今はそれどころじゃなかった)
「えへへ、実はね……今日はマスターに――」
よし……俺も腹括って全て伝えよう。
主なのにお前の行動を疑った事。
お前の優しさに気付けずに神様に誘導されるまま尾行までしちゃった事について。
(男としてちゃんと彼女に謝るんだ……)
そうだ、これも彼女と俺の信頼の為だ。
何だったら土下座だってやってやる!
いくぞ、今こそ自分の業と向き合うと――
「えへへ、今日はねマスターに美味しいケーキを買ってきたのっ! この国で一番美味しいって噂のケーキ屋さんで買ってきたんだぁ。だから早く一緒に食べようよ! ねっ? マスター?」
うっ! あっごめん。これ無理だ。
これは謝るの無理なタイプなやつだ。
「ケ……ケーキ?」
「うん! いつもマスターにお世話になっているからそのお礼にって買ってきたの! 値段は少し高かったけど……その分きっと美味しいの!」
だってさ。こんな愛おしくて明るい笑顔を見せられたら悪人でも思わず悪行を躊躇しちまう程だぜ?
とても言い出せる様な雰囲気じゃねぇよっ!
「…………………………」
「……あれ? マスターどうしたの?」
そこで……だ。
謝罪の言葉を失った俺が困惑の末に咄嗟に選んだ次の選択肢はというと――
「いや、何でもない。こっちこそいつも戦ってくれてありがとう。ケーキも勿論だが、なによりお前の思いがマスターとしては嬉しいぜっ!」
「うんっ! 喜んでくれて何よりなの!」
そのまま彼女の厚意に甘える事だった。
だって折角用意してくれたサプライズなんだ!
わざわざ真実を伝えてその思いを踏みにじるような愚行をするべきじゃねぇ! だからこそ!
「じゃあ切り分けてくるから待っててね!」
「ああ、指を切らないように気を付けてな」
「えへへ、スライムだから別に大丈夫なの! じゃあ私はキッチンにいるからね! じゃあね!」
既に彼女の優しさでお腹はもういっぱいだけど……あと少しだけこの脳がとろけそうな甘々で心がホッとする時間を満喫するとしようかな!
スライム美少女と一緒に、美味いケーキを頬張るというこの夢の如き一時を楽しもうっと!
(ただし……)
「よし! まあ色々あったけどこれで一件落着だね! じゃあ神様もお言葉に甘えて遠慮なく美味しいケーキをいただくとしようか!」
小型神様。テメーはダメだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
これで幕間の章は完結となります。




