第18話 ああああ、吐かせる
ダークマジシャン。
「ケッ……ケッケッケッ、ケッハッハッハ! なんとこのワシを倒そうというのか! 面白い!」
皺だらけの老男に赤ローブ姿。
それが初めて対峙したこのボスの特徴だ。
武器は恐らく宝石がはまったあの杖か。
「ケッケッケ。確かに人間如きがこのワシの前へのうのうとやって来た事には面食らったが……しかしお前如きにワシは倒せん! 倒せんのだ!」
しかし、マジで絵に書いたような魔法使いだな。
ローブに杖って……魔法使いってネットで検索したら上位に食い込むくらいの風貌してるぞ?
「せっかくのボス戦だし、ダークマジシャンっていうくらいだからカッコいいモンスターを期待してたんだけど……って嘆いても始まらないか」
「現実ってこんなもんだよ、マスター。意外な見た目の奴が大将を張っている事が多いんだよ」
「そっか……それなら仕方ないな」
そんじゃ、とっとと終わらせるか。
補助金くれた王様の顔を立てる意味も込めて、ここはササッと攻略して早く国に戻ろう――
「ふん! 何をゴチャゴチャと抜かすか。魔物使い如きに負けるこのダークマジシャン様ではないわっ! 兵士ども同様に返り討ちにしてやる!」
おぉ、流石はボスモンスターだけあるな。
これくらいの威勢が無いと張り合いがねぇ。
「ジャ、ジャが……ほお、なるほど君が――」
(うん、なんだ? アイツ一体どこ見て……)
「君がこやつらの報告にあったスライム風の可愛い女の子というわけか……うむうむ、確かに良い胸とお尻をしておるの……グヒヒヒヒヒッ!」
「にゅ!? ううう……ま、マスター。あの魔法使いすんごいいやらしい目で私を見ている気がするの! 怖い!」
なっ!?
「グヒヒヒ……憂い奴よ。ワシはお主のようなピチピチの可愛い女子モンスターが大好きなんジャ! そこでどうジャ? そんな人間よりワシのお嫁さんにならんか? 悪いようにはせんぞ?」
おい! 何言ってんだこのクソジジィ!
うちの娘をそんな目で見んな!
それはマスターである俺だけの特権だぞっ!
「ふえええ……マスタァァ、助けてぇぇ」
ああ、ちくしょう! すげぇ可愛い!
今にも泣きそうになってるけど可愛い!
確かに男なら一度はそう誘いたくなる!
「よし、ワシ決めた。こうしよう。ワシも同族の女の子にあまり手荒な真似はしたくない。だが簡単に見逃すわけにもいかん」
「「…………はい?」」
なんだろ。ボスの風格ってやつなのか?
先の発言といいまだ随分と余裕そうな発言だな……傍にいる小悪魔三匹はずっと震えてんのに、
「それで?」
「何が言いたいの?」
敵の余裕そうな態度を警戒するスラリーナ。
さらに俺も同じく僅かに身構えつつ尋ねる。
「大サービスじゃ。君に先制攻撃を譲ってやろう。一発だけ好きな方向から、好きな攻撃を叩き込んで来るがよい! 特別に許可してやろう!」
「「「ダ、ダークマジシャン様!?」」」
「ケッハッハッハ、そう慌てるな。戦いとはフェアに行くもんジャろう。ならばここは一撃くらい食らってやらんと可哀想と言うものであろう?」
「アンタ、それ本気か?」
「うむ、それにそんな可愛い娘さん相手にいきなり本気など男がやる事では無いからのう。構わんぞ! ただしそれで倒せなかった場合は人間のお前は消し炭、そこのスラリーナちゃんという可愛い娘さんはワシのお嫁さんになるがな!」
結局それがしたいだけじゃねぇか!
どこまでエロ魔物なんだ、お前は!
(まあ、気持ちは分からんでもないが)
「ううう……あんなエッチな事が原動力みたいな魔法使いと一緒になるくらいなら自殺するの!」
おっほ……凄まじい拒絶っぷりだな。
まるで親の仇でも見る様な目をしてるぞ。
「それに……別にそんなハンデなんか――」
「まあまあ。スラリーナ、一旦落ち着け。お前の女の子だからってナメられたくない気持ちは分かる。でも、せっかく敵さんがああ言ってくれてんだ。ここは素直に提案に乗ろうぜ。なっ?」
「う、うん……マスターがそう言うなら」
うんうん、偉いぞスラリーナ。
時には我慢も大事だからな。
「ケッハッハッハ! しかし、まあ先にネタばらしをしてやるとだな。このワシには魔王から授かった【打撃半減】【魔法半減】のバリアがあるからのう! たとえ特攻のある君の攻撃であっても簡単には倒れんぞ?」
へぇ、だからそんな余裕かましてたのか。
だがまあ、なんとも大人げないチート技だな。
さぞかし兵士達も手を焼いた事だろうに。
でもな……アンタ知ってるか?
「マスター、アイツあんな事言ってるけどどうするの? また【あれ】を使って一気に倒すの?」
「ああ。だって【打撃】と【魔法】だろ? だったら関係ない。遠慮せずにぶちかましちまえ!」
「うにゅ、了解なの! じゃあ行くよ!」
「ほお、威勢のいいお嬢ちゃんジャ。気にいった! やはりあの魔物使いを片付けたら絶対お嫁さんにするっ! この偉大なる魔王様のしもべダークマジシャン様の妻として幸せにしてやるのジャ!」
「ふんっ、そんな気持ち悪い提案はこっちから願い下げなのっ! それよりも攻撃いくよっ!」
「ケッハッハッハ! よし、来るがよい!」
……最近のスライムってのはな。
「スウウウウウッ! ムグググッ!」
「おおっ! 体に空気を取り込んで気合十分じゃナ! さてさてあれだけ大口を叩いたんじゃ。どんな技を見せてくれるのか見物――」
「喰らうの! 灼熱炎!」
ヴォゴオオオオオオオッッッッッ!!
「「「んなっ!? まさかあの技はっ!?」」」
「へっ!? ギャアアアアアアアアアアア!」
「「「ダークマジシャン様ああぁ!」」」
【灼熱の息】を吐けるんだぜ?




