第15話 ああああ、レベリングをする
「うむ! 其方の勇気ある決断に感謝する。では件のダークマジシャン潜む『魔術師の塔』への道を教えよう。移動手段は馬車を手配させておく」
「分かりました。ああ、それから――」
「ほほう……なるほど。これから先の冒険も視野に入れて馬車の引き方を教えて欲しいと。うむぅ、あまり護衛無しに向かわせるのは気が引けるが……他でもない《ああああ》殿の意見じゃからな。よかろう、では門番の兵士にそう伝令を送ろう」
「ありがとうございます」
「うむ、では道を教えよう。ああ、ちなみにこの国周囲の草原から離れるとモンスターの生態が変わるかの。それも覚えておいてくれ、では――」
―― ―― ―― ―― ―― ――
俺達はそんな王様の説明通り国を北上。
そして国の周囲を覆う平原地帯の関所を通過し、そこからは若干道をずらし東へ進み被害が出ている領土内の村々を横断していった。
「それで……地図で言うとこの辺にあるのが魔術師の塔か。この感じだと軽く半日はかかりそうな距離だな。村人に頼んで一泊させてもらおうか」
うーん、予想以上の距離だな。
いくら王様から馬車を譲ってもらったとはいえ、あくまでも荷具を運ぶのが主な用途だから、この荷台の重さもあってか速度はそこまで早くない。
「まあ今は慌てずに行くか。それに――」
「マスター! マスター!」
「おっ、スラリーナ。ご飯を食べ終わったか」
「うん! おばさんのくれたお肉入りのパンとっても美味しかったの! マスターも食べた?」
「ああ、俺も貰ったぜ。美味しかったな!」
それに、肝心のコイツも強くしなきゃな。
この関所近くにたどり着くまでにも何度も戦ってくれたし、何より取り込んだ敵の姿を真似る戦い方も可愛らしくて目の保養になってくれる。
(魔法使い系なら女の子らしい三角の魔女帽子を付けた魔女娘に擬態。獣系なら犬耳や猫耳を生やした姿に……まるでコスプレみたいだったな)
可愛い、元気、変身、美少女。
しかもこれで頑張って戦ってくれるんだからこれ程頼りがいのある仲間は早々いないぜ!
(モンスター娘……最高!)
「そ、それでね……マスター?」
「うん? どうした?」
「そ……その良かったら……今度――」
「いや! 今のロンだって! なに頭ハネ?」
…………うん? あれ? 何だ?
いや、今の声は……ああ命名神様か。
ったく、今度は何の用で俺を煽りに――
「えっ!? あっ、そっか……今の最終局だったのか。くそう、また惨敗かよ! 勘弁してよ、うちも今月ガチで厳しいんだからさ」
んんっ? なんだ様子がおかしいな?
それにあの神様、何処を見て……。
あと、あのジャラジャラ鳴ってんのは麻雀?
「もう……アポロンさ。最近ツキ過ぎじゃね? ほらこの前もあのゴッドジャンボ宝くじで……あれ確か250万だっけ? マジで少しくらい俺に分けてくれてもいいんじゃないの?」
おいっ、一人称変わってんぞ!?
ってか、そもそもコレは何ですか!
俺達は一体何を見せられてるんですか!?
「えっ? なにっ? 下界とリンクしてるって? そんな馬鹿な事ある訳ないじゃん。もうアポロンってばお茶目さんなんだから! ほらほら早く次の半荘行こうぜ! 今度は俺いける気がするんだよね! さあさあ!」
おい! 呑気に麻雀してる場合かっ!
あと確実に大敗するようなフラグ立てんな!
もう諦めてこっちを向いて何か情報でも――
「えっ? いいから早く画面の方向いて仕事しろって? だから下界と繋がってるワケないじゃん。さあさあ、それよりも今はあんな《ああああ》とかいう間抜けなクソゲーオタクよりも早く――」
おお、すげぇ……あのクソ神様。
会話越しなのに好き放題に俺を煽り散らしやがって、どこまで人のヘイト稼げば気が済むんだ。
「んもう、しつこいなアポロンってば。しょうがない一回だけ、一回だけだからね。いくら親友である君の嘘に付き合うのも……ええ? んな事よりも早く見ろって? もう仕方ないなあ――」
おおっ、ようやくこっちを向くか。
よし、もう怒るのも面倒臭いから情報を――
「下界と繋がってるなんて……んな馬鹿な――」
はーい命名神様! おはようございまーす!
どう? 元気してました?
もし出来ればそのまま惨敗続きでくたばってほしいんですがっ!
「えっ? えっ……な、何コレ? まさかリンクしてんのこれ? 映ってる? まさかこの私の惨敗シーンバッチリ映っちゃてる感じ?」
「はいはい、そういうのいいから! アンタの懐事情が氷河期でも、出てきた以上は一つくらい仕事してくれ。麻雀はそれからでもいいだろ?」
「くそ、仕方ない。それじゃ……えっ、なにお開き? いやいや10分だけちょうだい! その間にあの青年と話しつけるからさ! アポロンお願い! 私が話してる間に皆引き止めといて!」
もう……この際だから止めればいいのに。
連れのアポロンっていう神様も大変だな。
「ゴホン、じゃあ特別に今回は大サービス! とびっきりの役立つ情報をあげよう。ズバリ、ボスに乗りこむ前にスラリーナちゃんをもう少し育ててから向かう事! これだけを頭に入れて!」
「うにゅ? 私がもっと強くなればいいの?」
「結構強くなったと思ったんだけどな」
少なくともこの辺りの敵は既に楽勝。
多少ダメージは負うが回復も間に合って――
「うん、確かに今のスラリーナちゃんは強い。そこにいるザコの暁斗君と違って格段に強くなった」
神様、煽り無しに説明できんのか。
「でも魔術師の塔は敵の密度が違う。言ってしまえば多くの兵が待ち伏せしている状態だから、流石のスラリーナちゃん一人でも手に余るのさ」
なるほどな……確かに今はまだ遭遇する敵の数が2~4体で少ないが、敵が根城にしているアジトにもなれば話は別になるか。
「でも、言ってもあと少しだけ。あと少し戦闘経験を積めばきっとスラリーナちゃんは大多数の敵とも戦える《すっごい技》を会得出来る筈。だから今は焦らずに仲間を強くする事を考えてね」
「「すっごい……技?」」
ふとスラリーナと声が被る。
しかし、一体どんな技を覚え――
「それは覚えてのお楽しみ。ちなみに性能としては異世界のスライムが成長限界近くで覚えるような本当にすんごい秘技だから! じゃあ私は食費の為に戻るからね! じゃあね!」
シュン!
「マスター、私の予感だとあの髭もじゃの神様、きっと数日はひもじい生活してる気がするの」
「奇遇だな、俺もそう思うぜ」
「それで、どうするのマスター? あのマリオンって名前の神様が言った通りにもうちょっとこの辺りで戦う? それとも関所を超えて目的地?」
うーん、まああの神様の言う事も一理あるか。
相手は仮にも王国の兵士を返り討ちにする程の実力者らしいし、雑魚戦が余裕だからと言ってもボスが段違いで強いってのはあるあるだしな。
「よし、一旦関所は超えよう。どの道この辺りの敵じゃお前の強さに足しにならないだろうし。今はある程度進んで色んなモンスターと戦おう」
「分かった! マスターの言う通りにする」
「よーし、偉いぞスラリーナ」
「えへへ……じゃあ馬車の中にいるね!」
(ああ~可愛い。やっぱりモンスター娘可愛い)
ならば、むざむざ負ける事に行く事も無い。
ここは助言通り彼女に《すっごい技》身に着けさせて無双するだけだ。それでこそ仲間を育てるこの魔物使いって職業だしな!




