第11話 ああああ、己の弱さを知る
『それでその主人に忠義を尽くすって高い志によって基礎能力の向上やモンスター特有の固有能力とかも獲得できるわけ。まあ一言で言えばパワーアップだね!』
神様が言ったこの助言通りだった。
「えい! えい!」
「プギュッ!? プギギィ、キュウ……」
「プギュギュ……キュキュ。キュウ……」
スラリーナはみるみる強くなっていった。
仲間玉を食べた事による全能力向上に加え、開花した固有能力【吸収】により体内に取り込んだ敵の能力・特徴を自身に付与。
「あと二匹! 真似したこの木槌で倒すの!」
「キュ! キュ!(ヤベェよ! ヤベェよ!)」
「プギギュ!(こいつ俺達の武器をっ!)」
例えば今彼女が戦ってるあの小型モンスター。
かつて俺が国外へ出た途端に一撃KOをかましてきた『ニードルハンマー』ならば武器の複製。
そのデカくて重そうな棘付きの木槌をコピーし、敵同様に力任せにブンブンといとも容易く――
バゴンッ! バゴンッ! バゴンッ!
「それそれっ! 当たると痛いんだよ!」
「ギュウ! ギュギュュウ!(ひぃ! 俺達ですらまだ上手く扱えないのに、あのスライム娘に関しては必中だ! 必中クリティカルだっ!)」
「ギュ、ギュギュ!(くそう、強すぎるっ!)」
(モンスター娘状態だと両手で武器を握って……球体状態だと頭から生やして攻撃か。上手くできてんなあ……モンスターの体って)
まるでモグラ叩きの要領で敵を殲滅していた。
(他にも全裸はヤバいからプレゼントした服も体内に収納して、娘化した時には自動装着してるし……完全に未知の領域だな。あれは)
なお初めての戦闘については実力的には勝てる強さこそあったが、戦闘慣れしていない彼女にとっては一対一勝負でどうにか勝利。
(……にしてもまるで見違えるようだな)
傍から見てても攻撃への反応が遅れたり、狙いが外れたりと拙い動きでギリギリ倒せる程だったんだけれど……この国周辺を巡ること約一時間。
「グギュウ……(ま……参った、ガクッ!)」
「ピキュウ……(スライム恐るべし……ガク)」
「マスターマスター! 今度は私無傷で勝ったよ! しかも四体でも余裕の勝利だったの!」
「おお、よくやったなスラリーナ! あともう少しだけ戦ったら宿に戻って休憩にしような!」
「うん! 分かったの!」
それが今じゃあすっかりこの通り。
俺が煮え湯を飲まされたこの外での鬱憤を晴らしてくれるように圧勝し、その度にスラリーナはぐんぐんと成長。さらには傷を癒す特技とかも身に着けていったんだった。
だが……。
(一応……俺も主人という立ち位置のせいか彼女が敵を倒す度に戦闘経験が増えてレベルは上がってるみたいなんだが……)
そんな順調な中で肝心の俺はというと――
「あっ! マスター! 後ろ後ろっ!」
「うん、どうした? うし……ろ――」
………………バコンッ!
―― ―― ―― ―― ―― ――
「う……ううん? ここは?」
「あっ! マスター、気が付いたの!」
「俺は一体……それにここは城下……ぐぐ」
うぐぐぐ……なんだ。後頭部が妙に痛い。
まるで何かに一発殴られたみたいだ。
(そういえば気を失う直前、スラリーナが俺に何か大声で言っていたような……えっと――)
「えっと、実はマスターね……さっきニードルハンマーの不意打ちにあって一発で倒されちゃったの。だから瀕死だったところを私が教会に連れていって神父様に回復してもらったんだよ?」
「……そうなのか。だから俺はここで――」
マジか……また俺は瞬殺されていたのか。
それも前と全く同じで一撃で気絶って……。
(ったく……一体どうなってんだ? この魔物使いって職業能力は。奇妙なところばっかりだ)
確かにスラリーナは順調に成長している。
これは関しては間違いないし、視界左上の+マークを押して彼女のステータス情報を見てもキチンとこんな具合に戦闘での成果を確認出来る。
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スラリーナ Lv13
種族 スライム
固有能力【吸収】
体内に取り込んだ物体やモンスターの特性などをコピーし、まるで自分の手足の如く楽に扱える。
※但し取り込める上限は現在一体までとなる。
使用可能特技
キュア(回復呪文)
アンチドート(解毒呪文)
スラリーナの能力値――――
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こんな具合に色々と狩りまくったおかげで今ではレベルも1から二桁を超えるまでに成長した。
能力値に関しても体力を筆頭に上昇し、完全に頼れる仲間になってくれてはいたんだが……。
(肝心の俺についてはまるで成長してない……何となく体がホクホクする感じで成長してる感はあるんだが……)
逆に自分の能力に関しては一切の成長無し。
最早何かの呪いみたいにどの値も完全不動で、ゲームで言うなら不具合の一種かと疑いたくなる程で、別に値を凝視しても変化はない。
(おかしい……本当にバグなのか?)
それとも俺が大切な事を見逃して――
「はーい、そこまでよ! バカの癖に何か難しい事を考えようとしている暁斗君の為に、私命名神改め俳句界のゴッド、慈愛に満ちた偉大なるマリオン様が直々にアドバイスをくれてやろう!」
「うわっ!?」
ビックリした……てかまた出てきたな神様!
しかも人が真剣に悩んでいるこんな時にっ!
それもこれまた腹立つ前口上を並べて出てきやがって! 罵詈雑言と煽りの化身かお前は!
「ゴホン。だがその前に先の私の行動を詠んだ句を一つ『主人公・雑魚過ぎワロタ・一時間』」
「しかもまだ追加で煽るの!?」
ってか、それの何処が俳句なんだよ!?
五・七・五に並べただけだろうが!?
神様俳句舐めてんのか!
「ふむ。よーし、今日の煽りのキレも抜群! おかげで暁斗君の顔もタコの如く真っ赤だし! 満足した所でじゃあアドバイス、いこうかな?」
「マスター、私やっぱりアレ殺したい」
よし落ち着こうかスラリーナ。
気持ちは分かるが、あれでも一応は神様だ。
あれが俺達を補助してくれないとこの先の冒険が大変な事になるから落ち着こうな。
「それで? 何を教えてくれるんだ? 人が真剣に悩んでいる所にわざわざ割って出てきたんだ、俺のこの貧弱さ、『全く強くならない現象』についての謎でも教えてくれるってのか?」
さて……じゃあまだムカつくが本題に移ろう。
一応こんなスラリーナの前で恥ずかしいが、ここははっきりと聞いておきたい重要な話だ。
「ちゃんと教えてくれよ、神様」
この魔物使いって職業能力の異質さ。
この成長しない奇妙な性質についてを。
(あとはおまけでどうすれば強くなれるかとかの条件を教えてくれたら嬉しいな! まああのクソ神様がそこまで優しいとは思えないけど――)
「オッケー。じゃあもうハッキリ言うね! 暁斗君! 魔物使いの君はこれからの冒険でどれだけ頑張っても君の能力は一切成長しないんだ!」
「…………はい?」
「あとは一応服とかはいいんだけど装備品もNG。例えるなら普通の剣とか槍、盾や鎧とかは基本的に装備出来ないんだよね! だからもし無理に装備しようとしたら激痛が走るってわけ!」
…………………………へぇっ?




