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第1話 ああああ、名前入力をする

初投稿です


「ただいまぁ……って誰もいないか」


 さて、まずは簡単な自己紹介しようか。

 俺《赤羽(あかばね) 暁斗(あきと)》は大学二回生の冴えない男にして自称クソゲーハンターだ。


「はああ……今日もひでぇ暑さだったな。早くエアコンつけねぇと。あれ何処に片付けたっけ?」


 クソゲー。

 ああ……なんと口にしやすくド直球なネーミングなんだろうか。糞という誰でも分かる汚物名とゲームという作品が手に手を取ってけがしあい、破滅の運命を背負ったヤベェ四文字。


 後にも先にもこれ程までに作品の質を顕著に言い表す言葉が他にあっただろうか? いや無い。


「ふぅ……これこれ。この冷たい風が火照った俺の体に安らぎを与えてくれるぜ」


 そこで試験を終え、夏休みに突入した俺が朝一に足を運んだのは徒歩10分の古いゲーム店。

 そして注目するは人気作を置いてる店内すぐの棚では無く、商品が雑に積まれたワゴンだ。

 まあ、いわゆる人気を逃して売れ残ってしまった悲しきゲームの墓場みたいな場所だな。


「ええっと、ポテチポテチっと……」


 まず()()()()とは名の通り例えるならマジで道端に落ちている()()()()()みたいな感じだ。

 それでいて視界に入るとなんか無意識に一瞬留まるが、何も珍しくないただのワンコのウ〇コ。


「それでコーラは……ああ良かった。一本ある」


 そんな今時の小学生でもその辺の棒っきれで突っついて調べる気にもならない。それこそ性根の悪い奴なら誰か踏めばいいのにと酷い事を考えるであろうあのウ〇コと同意儀だ。


「よし。これでプレイ環境の完成だ! ポテチ三種にコーラ……うんっ! どっかの妹系漫画にでも出てきそうな理想的なぐうたら環境だなっ!」


 だが今回も俺はいつも通り、誰もが一瞬躊躇いそうなその魔の領域に手を伸ばした。

 様々な致命的要因から需要を逃し、後はゲーム屋の端で静かに腐り行く末路を辿るワゴン。


「さてと、まず説明書もパッケージも深く見ないのがゲームを楽しむコツだからな。とりあえず中身のディスクだけ引っ張りだしてっと――」


 そこで俺は何の躊躇も無く腕を突っ込み、まるでくじを引くかの様に軽い感覚で『ある一つの作品』を拾い上げ速攻で購入したんだった……。



 なおその拾い上げたゲームの名はというと――



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



「よっしゃ! いっちょ始めるか!」


 まずディスクと付属で付いてた専用のメモリーカードを入れてゲームを起動。

 なおジャンルはR(ロール)P(プレイング)G(ゲーム)(※ここが重要)だ。


「ここ最近テスト勉強でゲーム出来てなかったからな……もう早くやりたくてたまらねぇぜ」


 そう……今までにも俺は様々なクソゲーを好んでプレイしたが、やはり中でもRPGは格別だ。

 頭を悩ませる意味不明な電波シナリオ、レベルを上げて物理で殴るだけなど、俺を唸らせ笑わせ楽しませてくれたこのクソゲーをクソたらしめる為に貢献するその要素は多種多様。


 中でも記憶に新しいのは敵とのエンカウントにビクつきながら数歩歩いてはセーブをし、逃げに失敗する度にリセットを何度も繰り返したあのレジェンド作『きゅうべえクエスト2』だ。


「ロード37%……59%……よし、まさかの読み込み段階でフリーズするクソ要素は無いな」


 特にあのゲームの終盤エリアの雪原地帯。

 雪山ロンドルキアの敵はマジでヤバかった。

 冷気系(ブリザード)な敵は即死呪文を馬鹿みたいに連発、不意打ちを食らえば炎ブレスで焼き尽くされるドラゴン系とクリアさせる気があるか疑わしい要素。


 言い換えるなら序盤から強すぎるモンスターの襲来。

 もっと大袈裟に言えばスライムが出てくる()()()()()()()()()が出てくるような絵面だ。



 ・名前を入力してください



 さてクソゲーのバランス問題についてはこの辺で済ませて、まずは定番の【名前入力】だな。

 ああ、ちなみに肝心のタイトルロゴについてだが……ボタン連打でスキップしたから知らん。


(うおっほ……すげぇデータ欄だな)


 だがそれでも確実に一つ分かる事は、今見てるデータ画面の感じだと以前までの挑戦者達(プレイヤー)は相当ものぐさな奴だったのか、



 1.データがありません。

 2.【ああああ】Lv1

 3.【ああああ】Lv1



 と、ゲーム開始時に出るは如何にもチュートリアルで投げたと言いたげなこの雑なデータ欄だ。

 恐らく酷すぎるゲーム内容に面食らい、吐き気を催しそのまま(ゲオ)りにでも行ったんだろう。


(うむ! だがこれでこそ健全なクソゲーだ! この地雷臭漂う所がプレイし甲斐があるぜ!)


 それと同じデータが二つあるって事は恐らく保険用(バックアップ)だったんだろう……まあ全部Lv1だが。


「うーん、どうせゲーム進めても一つのデータを上書きするだけだしな。他は残しとくか」


 まあこれについてもよくある話だ。

 例え名作であってもタイトルコールが終わった途端にデータが全部【0% 0% 0%】になる作品もある程だし、バックアップは基本とも言える。

 まあ、だからこそこんなデータ欄で俺は、


「あ・あ・あ・あっと……」


 便乗した。

 ここは入力速度も考慮して【ほも】か【ほよ】でも良かったが、別にこれはRTA(リアルタイムアタック)じゃねぇし亡者達と同名でも一切構わねぇ。


(それに別に記録が消えても――)


 記録が消えたならばまた同じ味を味わえる。

 何度も同じ絶望を味わえるんだから一粒で二度美味しいってわけだ! ちくしょう!


「はい、よーいスタート!」


 それにキャラ名なんて後で変更可能だろうし、今は純粋な悪ふざけのつもりで俺は主人公の名前を《ああああ》に決めた。さあこれで早速――



「ん? って……あ、あれ?」



 ……メッセージを進めようとした矢先だった。

 俺はその違和感に思わず声を上げる。



「うん? 何だ故障か? あれ……」



 止まった。

 突然画面が進まなくなったんだ。

 ボタンを押しても反応がない。

 ポチポチと連打しても同じだ。


「……おかしいな。音楽は鳴ってんのに……」


 何度も何度も押しても全くの反応なし。

 どのボタンを押しても無駄で画面は完全にフリーズし、その先へは進まなくなったんだ……。



 …………すると。



「何なん……だ…………って、あれ……な……んだ? 急に眠くなってきたのか……う……ん?」


 すると……俺がそう一度首をかしげたのを最後に、意識が突然スーっと薄まってきたんだ。

 それでそんな薄れていくこの意識の中……


「う……ん? 何だ……このメッセージは……」


 ぼやけた視界に映り込んできたのは――



【貴方の命名には極めて何か生命に対する侮辱を感じました。ですから罰として、これからは貴方自身が《ああああ》となって生きるのです!】



 と、液晶画面一杯に浮かんだ赤字だった……。

 そして俺はそのまま……意識を失っていった。

 まさか、このふざけた【名前入力】がきっかけで異世界に行く羽目になるとは夢にも思わずに……。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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