初めての仲間
研究所から逃げた小さな獣人マールは、森深くにある、少し開けた平原に家を建て、しばらく生活することを決意する。そして、とても苦しい夜が明け、川にいこうとするのだが…。
「…。う…、ここはどこ…」
「ここは…」
見るからに身長は高いは僕より幼い獣人たちが二人迷い込んだらしい。僕の身長が低すぎるのもあるけど…。
どちらも肌色の毛並みをしており耳の付け根に花飾りをしていた。
右側にいる獣人はとても落ち着きがあり、青色の花の髪飾りをしている女の子。
左側にいる獣人は少し背が小さく、赤色の髪飾りをしている男の子だった。
「貴方たちはどこからきたの??」
僕がそう聞くと彼らは少し黙り込んだ後、なにか困った様子でこう答えた。
「それが…あまり記憶はなくて…どこかに連れていかれた記憶しかなくて…」
「その後、目を覚ますとここにいて…えっと…」
言っていることの整理がうまく追いついていないようだ。それに、どこかに連れていかれたことも気になる。
「…??どういうこと?わかる範囲で、ゆっくり詳しく聞かせてくれるかな?」
二人を切り株に座らせ、事情をきくことにした。
「私たちは親がいなくて施設で育ったんです。それで、その施設ではなにか、変なことが行われていて…」
「変なこと??」
「なんだかわかりませんでした、けど、叫び声…?が聞こえたり、突然獣人が消えていたり…」
「何度も聞いてみたんです、『なんでもないよ』としか言われなくて…」
叫び声…、…獣人が消えている…?どういうことだろう…
「その叫び声はどんな声だった?なにかを呼ぶような…?」
「…いえ、まるで苦しんでいるようでした…。なにかに怯えるような…」
「それで…、私たちは謎の注射を打たれて…実験は終了だ…って…嫌な予感がしたけど、睡眠薬…?を飲まされたらここら辺に…」
「!?貴方たちも注射を?!」
ドンピシャだった。ということはこの子たちも能力を…
「じゃあ、その後になにか変わったことはない…?例えば、なにか新しいことができるようになった…とか」
「あ、そういえば、私は相手の傷を癒す能力が使えるようになっていて…弟は何もないところに植物を生成したり、成長を促進させたりできるようになっていました…」
「これは一体なんなんですか…?」
戸惑うのは当然だ、突然能力が宿っていること自体、信じられないようなことだし…。
「僕にもわからないんだ…。そういえば、貴方たちはこれからどうするの?」
「そうですか…。そうですね、お金もないですし、特に行く宛もないので、彷徨ってみようかなと…」
もしかしたら、あの研究所に連れていかれた獣人がここらへんを彷徨っているのかも…だとしたら…。
「もし行く宛がなければ、僕の家に一緒に住みますか…?」
「え…?」
二人は少し黙り込んで考えた後
「いいんですか…?えっと、迷惑じゃなければ、お願いします…」
「…」
姉のほうがそう答えると弟は姉の後ろに隠れて、じっと見つめ、小さく頷いた。
「あ、そういえば名前は?僕はマールっていいます」
「私はエルです」
「…ナチル…です…」
「エルさんにナチルくんですね…!これからよろしくお願いします!」
こうして、初めて同じ境遇の仲間に出会うことができた。
どうやらやはり、僕たちと同じく注射を打たれた獣人がいたらしく、その獣人からは危機感を察知し、逃げている者もいるとのことだ。
なぜ、あの研究所はそこまでして獣人を浚い、能力を宿したがるのか、いまだに理解はできない。
僕に初めての仲間ができた。それだけでもとても安心したのでした。
***
川に向かう草木に二人の獣人がいることをみつけた。
どうやらマールと同じく研究所にいたという。そして、行く宛がない二人とともに過ごすことになったが他にも仲間がいるかもれないという…