フラッシュバック
……あれからどれくらい歩いただろうか。あれから数日後、僕はナチュラル森林の奥に潜り込むことにした。
「みんなは無事なのかな…。なんでこんな目に…」
そう思いながら無心に先に進む。何度も何度もフラッシュバックが起きようとも、過去の出来事は変わらない。
__そう、変わらないのだから__
***
そういえば、注射をされた後からなぜか能力を使えるようになったおかげで体を浮かせることができるようになったが、ほかにもできることがわかった。
どうやら自分より多少重たい物体でも浮かせることができるようだ。
そのおかげで、障害物を回避しながら進むことができた、が、能力を使うたびに少しだけ息が苦しくなる。
どうして僕だけが無事で、両親は…。
「もう、考えちゃだめだ。進もう、生きよう」
そうして、もう少しだけ進むと、森の奥には開けた平地を見つけた。ここならすこし整地すれば簡単な家なら建てられるだろう。
「ここにしよう。しばらくは身を潜めなきゃ…」
そうして僕はすぐに家づくりに没頭した。生きるために。
僕のトラウマになりつつある自分の能力は、皮肉にもここで役立った。
そして、小さな一部屋だが、住むには申し分ない出来だった。
「うん、我ながらよくできたな…」
たしか、両親が生きていた時は物を作ることが楽しくて、これよりもっと小さいものだけど、考えて、作って、プレゼントしたりして褒めてもらったっけ…。
思い出に馳せてると、ふと涙が零れ落ちた。
「…もう、今日は休もう…。日も沈んでるし…」
もう夜になりかけているのに気づいた後、僕は止まらない涙を拭いながら家の中に入り、部屋の壁に引っ付いて横になった。
__……__
もうあたりには何も音がせず、ただ鈴虫の音が聞こえてくるだけで、普段は気にしない自分の吐息がうるさく感じるほど静かだった。
目を閉じると、あの場所で起きたことがどれだけ脳裏に焼き付かれているのを感じる。
数か月前までは幸せな日々を送っていたのに、なんで、なんで。
「お母さんと、お父さんに会いたいよぉ…なん、で…」
どうやっても涙は止まってくれませんでした。ただただ、両親に会いたいという一心で、泣き続けました。
できるなら、幸せだった日々に戻りたい。両親にいっぱい甘えたい。
__なんで、こんな目に…___
***
その夜は、どうやら泣き疲れて気が付いたら眠っていたらしい。
夢を見た。大好きな親と、村のみんなと幸せな日を過ごす楽しい夢。
この夢のままでいたいという願望が募っていく。
生まれたばかりにつけてもらった僕の名前は『マール』
優しく愛情を込めて育ててくれた。
『マール、もう会えないのね。立派に育つのよ』
『きっとお前なら大丈夫だ。こんなに物作りも上手いし、やさしいからな…』
夢から覚める直前、両親が夢の中で僕の頭を撫でてくれた。不思議なことにそこからの感触はあまりなかったが、とても暖かった。
『マール、_______』
離れていく。大好きな存在が僕からいなくなっていく。
__いやだ。独りにしないで…__
「いかないで…!!…あ…、夢…か」
最後に何かを言っていたが、思い出せない。夢から覚めた自分の頬には涙が伝っていた。
涙を拭い、家の外にでる。
「水飲んで来よう…考えても仕方ないもんね…」
独り言を言いながら、川の方へ向かおうとした瞬間__
ガサガサッ…
川の方向の草木が生い茂ってるところから何やら音がする。
僕は恐る恐るその音がした方向に向かって声をかけてみることにした。
「…誰か、いるんですか…??」
しばらくすると、その者と思わしき獣人がゆっくりと顔を出した。
***