ミルクティー
3日降り続いた雨も漸く止んで、葉の上の雫が煌めく朝。
ふたり肩を並べてベランダに立つ。
朝もやの中、まどろむ街にあなたの声が心地良く響く。
「なんか、まだ雨の匂いがする。」
「雨の匂い…?」
首を傾げる私に、
「そう。」と微笑んで、あなたはまた前を見る。
昨日までの名残か、西の空に小さなひつじ雲。ひんやりとした空気の中に濡れ落ち葉の匂い。
確かに、夏とは違う空気。手摺りの上で組んだあなたの腕に、そっともたれ掛かる。
あなたの表情は見えないけれど、ふっと微笑ってくれた気がする。
「秋は涼しいのね。」
春先の暖かさでもなく、夏の蒸し暑さでもなく。
「ねえ、知ってる?」
思い出したようにあなたが言う。
「紅葉って、夏から秋になる時、寒さで赤くなるんだって。」
「寒いから赤くなるの?」
「そうだよ。まるで…」
私がもたれている片腕はそのまま、抱えるように抱き込まれて、耳元で囁かれる。
『君とは正反対だね。』
気付かれないようにしていたのに。
あなたの胸に埋めることで隠していた頬の赤らみは、どうやら耳にまで伝わっていたみたいだ。
「……意地悪。」
「ごめんごめん。」
謝りながら、それでもあなたはくすくす微笑う。
隙があればからかうあなたもあなただけれど、
『拗ねないで』
なんて髪を撫でられて、まあいいか、なんて許してしまう私も私かしら。
ねえ、そろそろ家の中へ入ろう?
そしてふたり、温かいミルクティーを飲もう?
からかわれて不機嫌になる私に
鳥が啄むようにくちづけをするのがあなたなら
寒がりなくせに外に出て震えるあなたに
毛布のように背中から抱き着く私
ねえ、
それじゃあ
誰がミルクティーを淹れようか?
こんにちは。河衣小牧です。 季節感のあるお話を、と思い書きました。 ちなみに、このお話には、私の好きな曲からのイメージを込めています。 最後までお読み頂きありがとうございました。