7 シーネ村にて5
あれから一月。
結局レベルが上がった実感もないし、スキルの事も色々聞いて見たが分からなかった。
今日はエリーのステータス測定の日だ。
俺の誕生日と同じ様に今日も青空が澄み渡るいい天気だ。
12歳まで残りも少ない。ぐずぐずしている余裕もあまり無い。
そんな事考えながらベッドから身体を起こす。
扉の外からダダダーッと音が聞こえて数瞬の沈黙の後ビターンと扉が開かれる。
1月前の出来事がフラッシュバックする。
そろそろ扉が壊れる頃かな?
「おはよう〜アールー!」
バフっとエリーが俺へとダイブする。2度も同じ手は通じないぞ。エリーナよ。
難なくエリーの事は避ける事に成功するが、まさかのクロも同じタイミングで飛び込んで来た事でクロだけは避けきれず、ダイビングアタックを食らってしまった。
こいつら……俺が避ける分かっていて連携か?
目論見通りに作戦が成功した事が嬉しかったのか、クロがベロンベロン顔を舐めてくる。
その時のエリーはキーッとベッドのシーツを引っ張っていた。
朝から元気な奴らだ。
「今日は私のステータス測定の日だよ!?」
「誕生日おめでとう」
幼馴染の誕生日だ。しかもこの世界では10歳はめでたく、区切りのいい歳だ。当然プレゼントも用意してある。
まだ俺はニートなので大したものでは無いが、ちょっとした髪飾りを用意してある。
「はい、おめでとう」
クロに顔面を舐められながらでとても締まりのない雰囲気だが、ご愛嬌だ。
渡したのはヘアピンだ。髪を挟み込むタイプの物で瞳の色に合わせた、水色の花をかたどったガラス細工が可愛いやつだ。
「あ、ありがとう・・・」
相変わらず恥ずかしい時や照れた時は顔を背ける癖が抜けない様だ。
「つけてもいい?」
「もちろん」
エリーは横髪を顔にかからない様に留めてみせた。
「どう?」
「あぁ、似合ってるよ」
「うぉん!」
「クロも可愛いってよ」
顔を真っ赤にして……可愛い奴め。
「よし、遅刻したらいけないから準備をしようか」
下に降りてエリーと一緒に朝食を摂る。
当たり前の様に食べているがディーナの作った朝食だが、もう気にしない。
「あら、エリーナちゃんその髪飾り可愛いわね?」
「あ、これは、そのアルに……」
尻すぼみに声が小さくなって行く。隣に居た俺しか最後の方は聞き取れなかっただろう。聞いている此方が恥ずかしくなって来る。
顔を真っ赤にしながら、誤魔化す様に汁物をズズーッと飲み干す。
「さぁ!」
急に立ち上がるエリー。
「気合入ってるなぁ」
「もちろん! 私がアルを守れるくらい強いってところ見せてあげるんだから!」
「言われてるわよ。アルも頑張らなきゃね? 男の子だもん」
事情を知った上ではあるが、ニート状態を許してくれているディーナやアルフレドには頭が上がらない。
「うん、分かってる。頑張るよ」
2年前までは均衡していた俺達の実力も、今では完全にエリーの方が上だ。
そして1ヶ月前には数字として結果が出され、今日エリーのステータスが判明する以上誤魔化しは効かない。
数日前にこの事はエリーにも伝えてある。
今の俺ではエリーの事が守れない。だから一緒に冒険はできないかもしれない。と言った時のエリーの答えはこうだ。
「それなら私がアルを守る。クロだって居る。アルに私の事を守ってあげるなんて言わせないくらい強くなって見せるから」
だった。
それではダメなのだ。
俺が転生者である事。まだ知られていないが魔神がこの世界を支配しようとしている事。この状況で俺はエリーやクロ、この村を守りたいからだ。
俺自身まだ諦めた訳ではない。まだ希望は捨てるには早いだろう。残りは少ないが必ず強くなってみせる。
「行くよ!」
「あぁ、ちょっと待っーー
有無も言わさずエリーに手を引かれて家を出た。
「気を付けてね〜」
そうして俺達は駐屯所までやってきた。
「おう! 今日はお姫様のステータス測定か?」
俺の時と違って何人か村人達がエリーのステータス結果を確かめに来ていた。
俺達の特訓は激しく村でも有名だ。その為エリーが優秀で将来有望だと言う事は村人全員が知っている事だ。
村の期待の星であるエリーのステータス測定とあっては、ちょっとしたお祭り騒ぎだ。
「アル、ついて来て」
基本ステータスは個人情報に当たるらしく、1人で行われるものだがどうやら一緒に来て欲しいらしい。
「1番に私のことを見て欲しい」
一瞬告白かと思ったがそうでもないらしい。
ギャラリーが多くてごちゃごちゃしそうだからと言う意味もあるかも知れないが多分違うだろう。
いつもの様に照れた様子はなく真剣な表情で俺を見つめる。それだけで彼女が俺やクロと冒険をする事を本気に考えている事が伝わってくる。
「分かった」
「うん!」
俺の答えに満足したのか堂々と駐屯所に入って行くエリー。そんなエリーがキラリと光る。今朝プレゼントした髪飾りだ。
「それじゃあこれにサインしてくれ。この国の住人になる事への契約書みたいなものだ」
俺の時と同じものを渡される。
「分からない事は隣の坊主に聞きな? 先月同じことをしたばかりなんだからな」
「大丈夫です」
そう言って契約書にサインをする。
そしてその後も俺の時と同じ様にステータス測定の作業が進められて行く。
「よし。完了だ」
そしてこれがエリーのステータスだ。
【名前】エリーナ
【種族】ヒューマン
【年齢】10
【性別】女
【ステータス】レベル36
HP:895
MP:1109
筋力:515
敏捷:586
魔力:652
耐性:600
運気:80
【スキル】
剣術初級・・・7
体術初級・・・6
炎初級・・・6
水初級・・・8
風初級・・・8
土初級・・・6
雷初級・・・7
光初級・・・5
【称号】
勇者・・・レベルUP毎×5パラメータプラス
兵士は俺の時と同じ様にプレートを見せてみろ。と言って手を伸ばす。
「待って。先ずはアルに見て欲しい」
「分かった」
「アル」
「うん」
エリーからステータスプレートを受け取る。
「これは……すごい」
世間一般の10歳のステータスは分からないが俺と比べても異常な事位分かる。
俺のステータス測定の時にレベル7〜10はあると言っていた事からも普通じゃないのだろう。
「どうした」
「エリー。もう渡してもいいかい?」
「うん。いいよ」
俺はそのままステータスプレートを兵士に渡す。
兵士は恐る恐るステータスプレートわ確認する。
「っーー」
もう驚きのあまり言葉が出て来ない様だ。
「レベル36!? なんだこれは……中堅の上位に食い込むんじゃねーか……?」
やっぱり異常な数字だんだろう。俺なんてほぼ全部1桁だったもんな。
「スキルだっておかしいだろ」
「通常のスキルとはどの様なものなんですか?」
素直に気になった事を聞いてみた。
「スキルってのは1〜10までレベルがあるんだ。1〜2は覚えたての初心者3〜5は中級者6〜7は上級者8〜9は天才10はマスターと言われている。お嬢は初級とは言えこの歳で殆どのスキルが天才レベルだ」
0はなんて言うんだ? と聞きそうになったがそれはやめておいた。
「この称号。称号ってのは生まれつきのスキル。通称ユニークスキルとも言われている。称号ってのは総じて強力なものが多い。ここを見てみろ」
そう言われて兵士が指を指す所を見る。
「レベルUP毎に×5パラメータプラス?」
「ステータスの伸びってのは個人差があるが、36レベルでこれは異常だ。そもそもこの歳で36って時点で異常だがそれはいい。毎日模擬戦もしてた事だしある程度は説明もつくからな」
それならば俺も本来36はなければおかしいのでは無いだろうか。
「この数値と説明からしてレベルが上がる毎に伸びるステータスが×5されているのだろう。簡単に言うとレベルUP時の伸び率が通常の5倍って事だ」
成る程。天才ね。
「なに? 凄いの?」
エリー……。やっぱりお前は異常だったんだな。
どうして俺の人生には毎回とんでも幼馴染が現れるんだろうか。
やっぱりエリーも転生者で奈々なんて事は……流石にないかな?
「凄いなんてもんじゃない。このままいけばSS冒険者になって世界を救う英雄や勇者になる事だって夢じゃない」
「英雄? そんなの嫌だよ! 私はアルと旅がしたいだけだもん」
「悪い事は言わない。坊主は技術こそ並みじゃねぇが、お嬢と比べられたら……一緒に旅なんかしたらコイツが可愛そうってなもんだ」
「いやだよ! 別に世界を救おうなんて考えてない! 大冒険なんてしなくてもいいの。私はアルとクロと皆んなで……」
「だとよ、坊主。到底叶わないとは思うが、後は男の意地を最後まで張って見るしかねーんじゃねーのか?」
「俺は……」
俺だって何もしてこなかった訳じゃない。強くなるためにやれる事はやってきたつもりだ。結果は伴ってないけど……
「ほうってくとお嬢にはそこかしこの国からスカウトが来るだろうよ」
それに。と前置きをした後。
「結果が出る前から……これを預かっていてな、一定以上のステータスだったらこれを渡せと国から言われてた」
それはそこそこ厚みのある封筒だ。中には書類が入ってる様だ。
書類は数々の英雄や王国直属騎士団なんかを輩出しまくってるヴィルダン学園への推薦状だ。
ヴィルダン学園は前にも軽く説明した事があったと思うが家族やエリートなんかが入学し、卒業後殆どはヴィルダン王国が抱える正騎士団に士官しエリート街道真っしぐらなんだとか。
中には自分に絶対の自信を持って冒険者になり覇道を歩むが如く英雄になる事もあるのだとか。
村の期待以上に国から目を付けられてたって事だ。おそらくここの兵士達が報告してたんだろうけど。
しかしそんな栄誉あるお誘いを、エリーと言ったら……
「身に余る光栄ですがごめんなさい。辞退させて頂きます」
「正気か!? いくらお嬢が凄くても、後から頼んだって受け入れてくれないんだぞ? こんなチャンスはもう無いんだ。悪い事は言わない。受けておけ」
「ごめんなさい。さっきも言ったけど、私はアルやクロと旅がしたいだけ。国なんて守れないけど、私が守りたいと思うものを守りながら、面白おかしく旅がしたいだけなんです」
拙い敬語を一生懸命に駆使して言葉を繋ぎながら話している。
「エリー、本当にいいのかい?」
エリーの将来を考えれば推薦を受けた方がいいだろう。英雄や勇者になんてなって欲しいとは思わないが、俺と危険な旅をするより絶対いい筈だ。
それにここまで差があるなら俺は完全に足手纏いだ。
しかし決めるのはエリー本人だ。俺はその意思を確認しなければならない。
「アル? あなたまで私に遠くに行けって言うの? こんなに一緒に居て私の気持ちが分からないの……?」
「そう言うつもりじゃあ……」
「もういいっ!」
エリーは走って駐屯所を出て言ってしまった。
振り向きざまに泣いていたような気がした。
「あらら……行ってやんな。お前は大人すぎる。あの子の将来を考えるならそれで正解だが。あの子の気持ちを汲んでやるんならお礼の1つでも言ってな? 強くなるから待ってろとか、足手纏いにはなんねぇとか言ってやんのが正解だったな……ほれ」
兵士はステータスプレートを俺に向かって放り投げる。
「お嬢が忘れもんだ」
ステータスプレートはエリーが置いて言ってしまったものだ。
「行ってやんな」
確か前世でも同じように奈々を怒らせた事があったっけ。
エリーに謝ろう。そして頼むんだ。一緒に旅をしてくれ、と。
「ありがとうおじさん」
そう言うと俺はエリーを追う為に走り出した。




