1 コロシアムダンジョン
私達は何かの闘技場の中に居るみたい。
周りは雛壇の様に段々に高くなる観客席。空は吹き抜けになっていて雲1つない青空が広がっている。私達はその真ん中、広いグランドの様な上に居た。
グランドは端から端まで7.80mはありそうで、小石1つなくまるで整備されているかの様に真っ平らに整えられている。
闘技場と言えば生死を賭けた決闘場だがとてもそんな風には見えない。静かで広く、澄んだ青空を見上げていると寧ろ落ち着いた。
ここで血生臭い戦いが繰り広げられる……案外こんなものなのかも知れない。
人の力は偉大だ。この闘技場の様に沢山の人間が集まり人の生き死、絶望や悲観を見て愉悦し快楽を得る。
こうした空気がこの静かで落ち着く空間を地獄に変えるのだから。
私にはまだまだ知らない世界がある。これが悪い事なのかどうかは一概には言えないのかも知れない。
闘技場での催しで生活している人も居るだろうし、それこそこういう所で戦う事でその家族が飢えずに生きる事ができる。なんて可能性だって考えられる。
私の一方的な正義感でこういう世界を壊していく事もできないけど、なんだか好きにはなれそうは無い。
アルと会ったら相談してみよう。アルなら何かいい案を考えてくれる筈だ。アルとコアとクロと、皆んなで世直し旅見たいなのもいいな。
なんで喧嘩なんかしちゃったんだろ。お互いコアの事を思ってる事くらい分かってたのに。
あぁーもうっ。
「なんですの? 何をすれば良いんですの?」
ジェンシーの声で我に返る。
そうだ。ここはダンジョンなんだ。
油断していた。
「分からない……でもここは多分……」
私達は魔法陣でここへ飛ばされてここへ来た。何も無い、ただ悠然と広がるこの闘技場へ。
いきなりこんな所へ飛ばされても何をすれば良いのかなんて誰にも分かるはずがなかった。
「ふ、普通に考えたら何かと戦わされる……と、とかですよね!?」
「だろうなぁ。んで、何と戦えば良いんだ?」
分からない。私達が以前制覇したダンジョンと全然違うんだもん。
どうしたものかと考え込んでいると突然シアンが叫び出す。
「見てください! 何か出てきましたよ!」
シアンが指す方向を見る。
「敵か!」
肉のない魔物、真っ白な身体に所々ある黒いシミは生前の血液だろうか。ここが闘技場と言うだけで禍々しさが増す。のったりとした動きの1つ1つが殊更気味の悪さを際立たせていた。
奴らは骸骨。剣を持ち、兜や胸当て等中途半端な防具を装備した魔物が現れた。
「全員、戦闘態勢を取って!」
即座に全員に臨戦態勢をとる様に声を掛ける。
「が、骸骨兵士ですか」
「っ! 数が尋常じゃないですわ!」
個体としては大した力は無いだろう。それでも軍隊になれば話は別だ。ましてアンデット種の魔物は再生する。
「一体……何匹出てくるつもりなの!?」
その数、既に100はゆうに越えている。
その中には明らかに骨格の異なる骸骨も居た。
「トロル骸骨まで居やがるぜ」
「き、来ました!」
骸骨がこちらに向かって猛ダッシュをかける。
質量が無いせいか地響きとまではいかないが壮大な砂埃がその数の多さを物語っている。
「アンデットタイプの魔物は魔核を潰すか取り除かないと倒せませんわ!」
勿論この数の魔物を相手に魔核を悠長に取り除いて集めるなんて事はできないし、破壊しか無い事は皆んな分かっている。
「ふ、フレアブレス!!」
ケーラの広範囲の炎魔法によって戦いの火蓋は切って落とされた。
「こ、こんな数1匹ずつ戦ってなんていられません!」
アンデットタイプの魔物には炎属性が有効と言うのは有名な話。以前話した事をケーラも覚えていたみたい。
「誤射だけは勘弁してくれよ!」
テウラもケーラのフレアブレスに続いて骸骨の軍勢に突撃して行く。
「元気な人達ですわね」
シルバーベアとの戦いはトラウマになったりしてないみたい。
「よかった」
「どうしたんですの?」
「うんん、何でもない」
「僕も負けてられませんね!」
シアンも2人の攻撃に負けじと戦闘を開始する。
「ジェンシー、クロ、私達も行くよ!」
「わかってますですわ!」
「グルオウ!」
いつのまにか覚醒状態になっていたクロもやる気に満ちていた。
周囲ではまるで戦争でも見ているかの様な戦闘が繰り広げられていた。
ケーラは遠距離から範囲魔法で次々に骸骨を消していき、テウラは一撃の破壊力を持って一度に数匹ずつ吹き飛ばし、シアンは堅実に1匹ずつ確実に魔核を突き刺して破壊している。
「性格出てるなぁ」
と言いつつ私は素手で目の前の骸骨を粉々にしていた。
クロに至っては攻撃ですら無く咆哮で骸骨を吹き飛ばしていた。多分魔力を込めて居るのだと思う。1匹ずつ戦うより同時に倒せる分効率が良いのだろう。
「ちょっと、全然減ってませんわよ!?」
ジェンシーもお得意の理力魔法で巨大な柱を目の前に出現させて骸骨を潰していた。
巨大な如意棒の様な使い方だ。その如意棒捌きはまるで達人。
「そうだね!」
確かにまるで減っていく様子はない。
破壊しても完全に魔核を壊せていない個体は再生するし、次々と新しい骸骨は現れるし、もはや増えてるのでは? と疑いたくなる。
こんな時アルならどうするだろう。
「ああ! もう!」
そもそもアルが居てくれたらこんな骸骨なんて。【神炎】ってこの前森を消滅させたあの魔法で……
いい加減手応えのない敵の数にうんざりしてきた。
もう、アルもコアも何処に居るの!?
私はただ皆んなと一緒に居たかっただけ。ダンジョンなんて制覇しなくたって良い。大冒険でも、世界を救いたいとも思っていなかった。普通に冒険がしたかっただけなんだ。
アルが一緒に行くか? って言ってくれたあの時に私の夢は決まった。
それなのに、たったそれだけの事しか望んでいないのにーー
「アビリティ!!」
気が付けば私は叫んでいた。
なんだろう。不思議な感覚。今まで悩んだり迷ったり、もやもやしていた気持ちが吹っ切れたかの様な……
そうだ。私のやるべき事はそんなに難しい事じゃ無い。早くコアを見つけて仲直りして、アルとも仲直りする。それだけ!
「マグネティック!」
使い方は何となく分かっていた。新しく魔法を覚えた時見たいに、何となくその使い方や効果が分かる。
アビリティの名称を叫びながら2匹の骸骨を壊れない様に殴りつけた。
その反動で他の骸骨にも衝突し、周囲の何匹かが倒れた。
「引!」
言葉と同時に骸骨7匹が衝突して粉々に飛び散った。
「触れたものだけじゃなくて触れたものが触れた物にも影響するんだ。それじゃあ……」
もう一度2匹の骸骨を殴り飛ばし、周囲の骸骨にぶつける。
「反!」
今度は言葉と同時に吹き飛んだ骸骨が1人でに更に吹き飛んで広範囲に拡散し、数匹だった骸骨は数十匹をも巻き込んだ。
「反! 反! 反!」
そこからは昔アルが言っていたピンポン玉の様に骸骨達が弾け飛ぶ。
「これは……重力魔法、とは違うみたいですわね」
「な、何をしたんですか?」
近くにいたジェンシーとケーラが尋ねて来た。
「アビリティが覚醒したみたい。今から一箇所に骸骨を集めるから、フレアブレスで燃やして貰っていいかな?」
「は、はい! 分かりました」
私のアビリティは【マグネティック】。
触れた相手の作用反作用を操ることができるみたい。
ジェンシーのとは少し違うみたい。彼女の説明では魔法やスキルに付属させなければいけないと言っていたけれど、私の場合は相手に触れればいいみたい。
細かい効果は把握できていないからこれから試すしかない。
ジェンシーのフリーハンドの様に触れた分だけ効果が増したり、触れた相手と自分の魔法で作用させて追跡弾にできるのかとかね。
何はともあれこれで作戦の幅が大分広がる。
考えている間にマグネティックの効果は全体に広がっていた。
「ヘビーロック!」
骸骨達を任意の場所に集める為、基準の個体が動かない様に固定した。
「これで一気に片を付ける! 引!」
闘技場に居た骸骨達が面白いように目の前で山になっていく。中には引き込まれまいと耐える骸骨も居たが一瞬の抵抗にもならなかった。
「何をしたんですか!?」
「何が起こったんだ?」
シアンとテウラも異変に気が付いたのか戻ってきた。
「い、いきます」
いつのまにか賢者モードになっていたケーラは周囲の魔素を十分に蓄えた様だった。
「ど、ドラゴンフレアブレス!」
超高温で放たれる炎は通過する空気を一瞬で膨張させ周囲の空気に激突し、大きな旗を振っているかの様な轟音を轟かせる。
まるでドラゴンの咆哮の様な破壊の音を撒き散らしながら骸骨達を燃やした。
「うぉあっちぃ!!」
「熱い、と言うより……痛いですわ!」
高音の熱を至近距離で受けると熱い、よりも痛い。まるで全身に小さな針を押し付けられているかの様な痛みだ。
摂氏何千度と言う炎はなんの抵抗も許す事なく骸骨をチリ一つ残さず消し去った。
「でもこれで終わり見たいだね」
「や、やりました!」
前のダンジョンと同じ様に、あれだけの高熱を受けても地面が溶けたり焦げることは無かった。
骸骨達は消え去り、最初にここへ来た時の様に何も無い。
「それで、エリーは何をしたんですか?」
「アビリティが覚醒したみたい」
「どんな能力なんだ?」
私のアビリティ【マグネティック】は触れたものに磁力の様に作用と反作用を付与する。今はこれくらいの事しか言えない。と説明した。
細かい事はまだこれから研究していくしか無い。アルが居てくれたら直ぐに分かるんだけどな。
「ぎゃっぎゃっぎゃっ第1関門突破おめでとう」
「誰だ!?」
不意に聞こえてきた言葉にテウラが反応する。
周囲を見渡しても誰も居ない。どこかに隠れているはず。
「誰も居ませんわ」
「ど、何処かにいるはずです!」
「私が誰か? それは優勝してからのお楽しみだぎゃ」
「クロ、何処にいるか分からない?」
「グルォ……」
クロにも気配を悟らせない程の実力……
普通のダンジョンに魔王は居ないらしいけど……
この前のダンジョンと同じ、異変のあったこのダンジョンには魔王がいる可能性が高い。
となれば魔王と考えるのが妥当。やっぱり魔王と戦わなければならない事になりそうだ。
「ぎゃぎゃっお前らも思ったより強いからもう決勝戦にするんだぎゃ!」
「ふざけんな! 今すぐお前をぶっ飛ばしてやる!」
「そうですわ! 出てきなさい!」
「魔王でしょうか?」
シアンが少し不安げに聞いてくる。ちょっと前に死にかけたばかりだし、不安に思うのも当然だろう。
「そうかもね」
違うとも言えず、そう答えるしか無かった。
「焦るな焦るな。勝ち残ったらゆっくり相手をしてやるぎゃ」
私達がここへ来た時と同じ魔法陣がさっき骸骨兵士達が出てきた所辺りに現れる。




