表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/69

19ライラーヌの過去3

随分間が空いてしまいました……

すみません。


 目線の先にあるものは、自らの巣だった。その巣を優しい表情で覗き込むドラゴン。


 ドラゴンもこんな表情をするんだ……まるで人間……そう思った瞬間、ドラゴンの表情が一変した。


 不思議に思った私も巣を覗き込んだ。


 ドラゴンにとって、そこにある筈の幸せは地獄となっていた。


 気が付くと私も涙を流していた。


 ドラゴンの赤子が、全て殺されていたのだ。しかも原型を留めないほど殴打されていた。辛うじて残っていた鱗や角からドラゴンの赤子だと判断ができただけだ。


 ドラゴンは怒り狂った。巣穴で暴れまくった。尾で岩を砕き、岩の壁を炎で溶かし、腹の底から咆哮を上げた。


 さっき泣いてしまった時と同じ様にとてつもない怒りが私を襲った。


 どうやらこの魔法は過去を観るだけでなく、術者の感情変化も分かる様だ。


 ドラゴンの怒りは巣穴が10倍程の広さになった所で少しずつ冷静さを取り戻した。


 ひくひくとドラゴンの鼻が動き出す。


「すん、すんすん」


 どうやら匂いを嗅いでいる様だ。犯人の痕跡も見つける気だろうか。


 そしてドラゴンは何かに気が付いた。


“これは人間の仕業だ。”


 この魔法は不思議だ。感情だけでなく、術者が強く思った事まで伝わるらしい。


 自分の子供を殺したのは人間の仕業だとわかったドラゴンは巨大な翼を広げ巣を飛びだった。


 匂いを追ってたどり着いたのは一つの村だった。人口千人にも満たない小さめの街と言った所だ。


 復讐に燃えるドラゴンは上空から一息に、何のためらいもなくブレスを放った。


 一瞬にして街は火の海に呑まれてしまった。


「ドラゴンだぁ!!」

「急げ! 逃げるんだ!」


“人間どもめ、しぶとい奴らだ”


 ドラゴンは生き残った人間を殺す為、街へと降り立つ。


 四方八方から怒号や悲鳴が聞こえてくるが、ドラゴンの怒りが収まる事はなかった。


 家を踏み潰し、時には魔法も用いて街を破壊していく。街ごと消すつもりなのだろう。


「すん、すんすん」


〝この匂いは! この辺りだ。この辺りに私の可愛い子供達を殺した奴がいる!”


 強烈な憎しみが直接頭へ言葉として私の中に流れ込んでくる。


 ドラゴンの視線の先に1人の男が腰を抜かし、無様にも尿を漏らして怯えていた。


 躊躇する事なくその男を爪で切り裂いた。


「グルォアアアアッ!!」


 復讐を遂げたドラゴンの咆哮は、その振動だけで瓦礫に亀裂を入れる程凄まじいものだった。


 その後もドラゴンは人間、建物を殺し破壊していく。


「おぎゃあああああ」


 今まで聞いてきた人間の鳴き声とは違う声に、吸い寄せられるように視線を奪われた。


 ドラゴンの視線の先には人の赤ん坊が居た。小さなベッドの上で泣いていたのだ。家は屋根が吹き飛び、所々燃えている事から親は死んだのだろうと予想がついた。


“人間の子供……”


 赤ん坊を見たドラゴンの怒りが次第に消えていく。冷静に辺りを見渡せば、赤ん坊は目の前にいる者だけではないことに気が付いた。


 親を殺され泣きわめく小さな子供。親が命を賭して守り、抱かれたままの赤ん坊。目に入る子供や赤ん坊はどれもこれも泣くばかりで動こうとしない。


“親が子を愛する気持ちは、人もドラゴンも一緒……子供はまだ何も知らない、何もできない……この者共に罪は無かったのではないだろうか”


 ドラゴンはその場で逡巡した。


 街は壊れ、燃え、人間も殆ど死んだ。


 たった数人、親に守られた子供や瓦礫の間で奇跡的に潰されなかった赤ん坊だけが生き残っているだけだった。


「グルオオオ!」


 ドラゴンは先程と打って変わって悲しい響の咆哮を上げた。


 数瞬逡巡した後、生き残った子供達を抱いてドラゴンは飛び上がった。


 そこでドラゴンの記憶は終わり、現実へと戻った。


「何だったんだ今のは……ドラゴンの記憶か?」


 リーダーが独り言のように呟いた。


 もしかして……


 私が気が付いたのと同時に誰かが声を荒げた。


「チロ!! 間違いねぇ! チロ!!」


 拳闘士の男だ。


「どうした?」


 リーダーが尋ねる。


「弟だ……」


 私達は自らの手で、自分の弟や子供を手に掛けてしまったのだ。


 この子達の仇を取る為にここまで来た。街を離れて仕事をし、帰ると街ごと家も家族も恋人も友人も、全てが壊れていた。全てが無くなった。


 怒り狂った彼らは10年近くかけ、仲間を集めドラゴンを殺す為だけに時間を費やした。そんな彼らは、その間すくすく育っていた我が子を今、自分の手で殺したのだ。


 拳闘士を皮切りに他のメンバーも気付き始めた様だ。


「リンッ!」

「あぁっ……なんて事をっ」


 そうか、このドラゴンは全て知った上で私達の攻撃に一切抵抗しなかったんだ。


 ドラゴンは分かっていたのだ。10年近く前、自分の子を殺しにきた人間も自分がいつぞや殺した人間の子孫だったのかもしれない。


 復讐は復讐を呼ぶ。負の連鎖はここで終わらせるんだと、無抵抗のまま私達にやられていたのだろう。きっとそうだ。その為にわざわざ私達に自分の記憶を見せたのだろう。


 私達が絶望に打ちひしがれている中、ドラゴンは羽で包んでいた1人の人の子を差し出した。


 歳は2.3歳の小さな子供だ。


 ライラーヌは一瞬で気が付いた。


 この目、この鼻に口。それにオレンジの髪はこの世界中を探してもそうは居ない。


 この子は……息子の……娘だ。


「この子は……私の孫……」


 ドラゴンはテトラをライラーヌに託したと、そう言わんばかりに笑顔を残して地面に突っ伏し、息を引き取った。


 実際に笑っているわけでは無いがそれでもライラーヌにはそう見えた。


 ドラゴンを殺す為に集まった彼等は絶望した。何せ復習の為に時間を費やし、力をつけ積み上げてきたのに、自分の手で我が子を殺めてしまったのだから。


 そんな彼らの中で、屈託のない笑顔を浮かべるテトラ。


 全てを失った彼らにとってそれはとても美しいものに見えた。


「この子をみんなで育てよう。それが私達にできる、最後の……」


 もはや彼らはテトラに愛情を注ぐ事でしか我が子に罪滅ぼしができないと考えたのだ。


 そして俺は現実へと戻された。


「はやがったなぁ」


「全て、見てきました。ライラーヌさん、村の人達の罪」


 後で聞いた話だがあの記憶の後、彼女らは一度ドラゴンに滅ぼされた街を再建したそうだ。再建したのがこの村なのだと言う。


 元々壊れずに残っていた家もあったそうで、意外と直ぐに住める程度になったらしい。そこへドラゴンには挑まなかった街の生き残りが集まり、今の村ができたのだそうだ。


 記憶を体験して疑問に思った事が2つある。


 1つ目はドラゴンからテトラを託された時のテトラの年齢が2歳だったとして、街が滅んだのがその時点から10年前という事は街が滅んでから8年後にテトラが生まれたことになる。どう考えても歳が合わないという事だ。


 それについてライラーヌさんに尋ねてみたが分からないそうだ。


 だが間違いなくテトラは自分の孫だと彼女は言う。


「その謎はなぁ、テトラが龍人だっちう事に関係するのかも知れねぇなぁ……」


 そうか、龍人。ドラゴンが死にかけのテトラに何かの秘術とかなんか施したりしちゃったりして、その間に時空がズレたりとかややこしい事があったに違いない。


「……ん? テトラが龍人?」


「そうじゃ、月に一度現れるってぁ魔物はぁテトラの事じゃよ」


 あぁ、成る程。全て分かったよ。


 初めからおかしいと思っていた。魔物が来ると言いながら、対処する気がまるで感じられなかったからな。


 この村の人々は、自らの罪としてこれを受け入れていたんだ。それをテトラに悟られない様に作り話として毎月1人だけと教えていたのだ。


 ライラーヌさんの話からして月に一度と言うのは本当の事だ。満月の日に龍の力を押さえる事ができずに龍化するらしい。


 その時に暴れる為に死ぬ者が出るそうだ。その時の言い訳としてテトラを悲しませない為、守り神への生贄と言う様な少しはマシなイメージを刷り込んだ。


 だから先月は魔物が来なかったと嘘をついた。龍化はしたんだろうが死人が出なかったから。


「それで、ライラーヌさん。僕に何をさせようと言うのですか?」


 このタイミングで俺に真実を伝えてきたという事は何か意味があるのだろう。


「テトラを救っでやっで欲しいんじゃ」


「後は俺から話す」


 そう言って影から現れたのはホメルさんだ。


「師匠……」


「よう、アルディ。ライラーヌさんからお前さんに真実を教えると聞いてな、来てやった」


「ありがとう、ございます」


「まぁ、ライラーヌさんが教える気がなかったら俺が教えるつもりだったんだがな? と言うのも……お前に錬金術を教える為に出した条件は何だ」


「師匠の研究を手伝う事……ですか?」


「そうだ。その研究こそ、テトラを人間にする為の研究だ。ついでにライラーヌさんがしている研究もそんな感じだ」


 そうか、錬金術を習得した俺に研究を手伝わせると言う事は自然と真実に辿り着く。だから元々ホメルさんは近いうちに俺に真実を伝えるつもりだったんだ。


「まぁそう言う事だ。お前にして欲しい事は2つ。テトラを人間にする研究を手伝って欲しい。それと、これから暴れるテトラを抑えて欲しい」


 テトラを抑える?


「先月までは拘束具をテトラが龍化する前に眠らせ、取り付けてなんとかしていたんだがな……」


「それなら今日もそれで凌げないのですか?」


「壊れた」


「……は?」


 びっくりして間抜けな声が出てしまった。


「壊れたのだ。日毎にテトラは強くなっている。もうあの拘束具では限界だったんだ。お前、強いんだろ?」


 めちゃくちゃだ。


「外を見てみろ。もう日が沈む」


 日が沈み、太陽の陽より月の光が強くなった時にテトラは龍化するらしい。


 師匠は俺に有無も言わせずやらせる気だ。


 俺にテトラと戦えと言うのか。


「準備してしておけよ?」


「分かりましたよ!!」


「まぁ、そう怒るな? 面白い話を教えてやるからよ」


「なんですか」


 俺は怒っていた。もちろん真剣に怒っていたわけではない。


「お前はライラーヌさんの記憶を見たんだな?」


「はい」


「ふむ。あの時のリーダーは俺だ」


「……は?」


 あまりの変貌ぶりに間抜けな声が出てしまった。


「因みに拳闘士の男はソトルだ」


「マジですか?」


「マジだ」


 今のソトルさんからは全く想像できない。


 ライラーヌさんの記憶から10年。一体何が起きたんだろう。


 ライラーヌさんの記憶を体験して疑問に思った事の2つ目は聞かずに置いた方が良さそうだ。


 テトラの年齢の謎と共に謎のままにしておこう。


 いや、やっぱり気になる。


 ライラーヌさんの口調は10年で何が起こったらそんなに変わるんですか?


新年明けましておめでとうございます!


テトラの謎とライラーヌの口調謎は多分関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=973208053&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ