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18ライラーヌの過去2


 たった1人の息子を失い、信じることができずに真実を探す旅に出た。やっとの思いで10年もの月日をかけて真実を掴み、たった1人の夫が待つ我が家へ帰ればその夫すらも亡くなっていた。


 私ははこの世界にたった1人になってしまっていた。


 私にとってはあっという間の10年だった。しかし1人で待つトールにとってそれはもう途轍もなく長い日々だったのだ。


 全てを失って、やっとその事に気が付いた。もう、全てが遅過ぎたのだ。もう、3人で煉瓦造りの家々に囲まれたあの道を、手を繋いで歩く事などできない。


 後悔と憎悪、自責の念。様々な負の感情に駆られつつも、私は龍の谷へと辿り着いていた。


 正確には龍の谷と数百メートルの所にあると言われる森の中だ。


「あと少しの所なんだな?」

「確か情報ではその筈だ」

「気を付けろ。この森はドラゴンの餌場らしいからな、いつ現れてもおかしくないぞ」


 おかしいな。こんな辺境の、ましてや龍の谷と呼ばれる危険地帯で人の声が聞こえるなんて。


 私はとうとうおかしくなってしまったのかと、自分で自分の心配をし始めていた。


「誰だ!?」


 すると誰かが私の気配に気が付いた様で、声を掛けてきた。まだ姿は見えないが、明らかに私に掛けられた言葉だと思う。


 どうやら人が居ると言うのは気のせいではなかったらしい。こんな森に、本当に人が居るなんてね。


「私はライラーヌ。怪しいものではないわ」


 相手が魔物では無く人だと分かり、安心したのか茂みからぞろぞろと10人の男女が現れた。


 格好から察するに冒険者である事は間違いない。しかし年齢がかなりバラバラで、1つのパーティとしては何となくまとまりが無いように見られ、違和感を覚えた。


 大体の冒険者は年齢と共に経験を重ね、それぞれ実力の見合ったもの同士がパーティを組むものだし、平均的な人数としては5.6人が普通だ。


 その内1人、格好からして戦士らしき渋めの50代程度の男性が話しかけてきた。恐らくこの集団のリーダー的存在なのだろう。


「ここへは何をしに来た?」


「ここへは……多分ドラゴンへ復讐をしに来たのだと思うわ。息子やその子供、恐らく息子の嫁もドラゴンに殺されてしまって、私1人ではどうしようもないと分かっていても、何となくここまで来てしまったのよ」


 気が付くと私は初めて会った彼らに全てを打ち明けていた。息子が死んだ事、夫が旅に出ている間に死んでいた事。話し出したら止まらなくなっていた。


 もしかしたら私はこの話を誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。


「そうか……そんな事が……それは辛かったろうな。けどな、ここに居る奴らは全員、同じ様な目に遭っているんだ」


「そんな事、普通だって言いたいの?」


 貴女の体験した事は辛い事だが、そんなのは当たり前の事だよ。そんな風に言われた気がして、お前に何が分かるんだと一瞬にして身体が熱くなるのを感じた。


「すまない。決して貴女の体験した事を軽んじて話したわけじゃないんだ。許して欲しい。つまり私達は同じ穴のムジナ、復讐に身を焦がす愚かな人間だと言う事が言いたかったんだ」


「ふく……しゅう」


「そう、私達はドラゴンを殺す為に集まった者だ。恐らく貴女の息子さん方が住んでいた村に我々も住んでいた。同じ様な状況で私達も家族を失っているのだからな」


 そうか、私は復讐がしたかったのか。それならば彼らと共に行こう。


「私達は何年も掛けて方々に散っていた仲間を集め、力を付けた。そして今日、遂にドラゴンに復讐を遂げる時が来た。貴女も良ければ私達と来てくれないか? 仲間は少しでも多い方がいい。見た所貴女は魔術師の様だし、丁度そのポジションは手薄だったんだ」


 もう私は失うものなど無い。断る理由なんてあるはずもない。


 一瞬の迷いも見せる事なく、彼らと行動を共にする事にした。


 既に作戦は綿密に組まれているらしく、私はただ前衛職の援護をしてくれれば良いと言われただけで、特に説明も無いまま龍の谷へと足を踏み入れた。


 流石に10年も掛けただけあって色々と調査済みだった様で、ドラゴンの住処まで彼らの歩は止まら無かった。


 私達は断崖絶壁の壁にある横穴の中に居た。


 此処は龍の谷。上から下を見れば何処までも続いていそうな闇が広がり、その底辺に何があるのかは誰も知らない。伝説によるとこの世の深淵がそこにあると言われている。


 謎の多い龍の谷だが、ドラゴンと言う怪物と底知れぬと言う意味での恐怖を除けば、誰もが足を止め、この景色に見惚れた事だろう。


 龍の谷全体を見渡せば、現実とは思えない程壮大な景色が広がっていたのだ。現実で言う所のグランドキャニオンとでも言えば良いだろうか。


「しっ、この先に巣がある筈だ。此処まで俺達が進入してもドラゴンからのアクションが何も無いところを見ると……奴は今居ない可能性が高いが、気を抜くな」


「そうじゃな……奴は一度眠るとなかなか目を覚まさんと言われておるしな」


 これまで一言も話さなかったお爺さんが口を開いた。表面上は皆んな落ち着いている様に見えるが、今に復讐の対象であるドラゴンと相見えるかも知れないと言う事に内心穏やかでは無いのだろう。当然私自身も興奮気味なのか、鼓動が速くなっているのを感じていた。


 ずっと皆んなを率いていたリーダーが、岩陰から巣を確認して話し出す。


「やっぱり居ない。これはチャンスだ、巣に罠を仕掛けよう」


 彼らにとって、ドラゴンが居ないと言う事態も想定済みだった様だ。それぞれ手荷物から罠の準備物を取り出していく。


「何だよ! 此処まで来ていねぇとか……ざっけんじゃねぇ!!」


 想定済みであったとは言え、やはり気が立って居たようだ。拳闘士っぽい格好をした若い男が叫び出した。


 それを宥めようとしたのかリーダーが若い男に近寄っていく。


「おい待て、何か巣の中に居るぞ!」


「ドラゴンのガキか? 殺しちまおうぜ。俺達の家族にそうしたようによぉ!!」


 若い男はとにかく何かを殺したいと言わんばかりの様子だ。


「いや、これは!? 人間だ! 人間の子供だ!」


 口々に皆んなはどうしてこんな所に、こんな所に人が住めるわけがないと話した。


 するとドラゴンの巣であろう、鳥の巣の様な形した藁の束で眠っていた人間の子供が目を覚ました。


「ギャルルルルルッ」


「何だこいつ……人の言葉を話すことができないのか!?」


 私も自分の目で確認したが、中には5人の子供が居て男女共に10歳前後の様だ。


 何故こんな所に人が居るのか、よく考えれば良かった。この時の私達は、自らの足で悪魔の口へと足を踏み入れているとも知らず、とんでもない決断を下してしまった。


「コイツらは……ドラゴンの餌だ……間違いねぇ。人の言葉も話せねぇ。奴らバケモノと同じさ」


 異様な空気が私達を支配し始めていた。ドス黒い感情がグツグツと自らの精神を蝕んでいく感覚は何十年経った今でも忘れちゃいない。


「もし、奴が大切に育ててんだとしたら余計に殺すべきだ。復讐……するんだろ? コイツらを生かしておいたら、ドラゴンを殺した後、俺達を殺しに来るかも知れねぇしな」


 全員、何も言わなかった。若い男の意見はこの時の私達にとっては真実だった。黒い何かに取り憑かれた私達は狂っていたのだ。もちろん若い男も含めて……


「そう、じゃ……殺そう」


「同情なんてする必要ないさ、奴は全てを奪った。俺達だって……」


 若い男の言葉に賛同し始めたのか、それぞれが各々の武器を握り締めた。


「死ねぇ!!」


 私は直接手を下しはしなかったものの、正常な判断のできない状態だった私はこれが正しいと思い込み、止める事は無かった。


 次々に殺されていく子供達。その光景は凄惨なものだったが、私の心が揺れる事は無かった。もう、この時には壊れてしまって居たのかも知れない。


 全ての人間の子供を殺し終えたところで、横穴に突風が吹いた。


「しまった!! 奴が帰ってきたぞ! 皆、陣形を組め!」


 何度も訓練したのだろう。それぞれの動きに無駄がない。リーダーの一声からものの数舜の内には戦闘体制が整っていた。


 目の前にドラゴンが着地し、私達の事をじっと見つめた。まるで時が止まったと錯覚する程に緊張した空間に、冷や汗が顎から垂れるのを感じた。


 実際には3秒にも満たなかったその時間は、数時間にも感じられるものだった。


 そのままかっちりあっていたドラゴンの目はフェードアウトし、自らの巣を見た。見てしまった。巣の中で力なく横たわる人間の子供。中には首が無いものまである。


 ドラゴンは吠えた。


 その咆哮は内臓が押しつぶされるかと思う程激しいものだった。


 しかし、不思議とその咆哮からはドラゴンの怒りを感じなかった。


 ドラゴンは涙を流さない。それでも私の目には、ドラゴンが泣いているように映った。


 私以外の者達は恐れた。圧倒的な実力差を鳴き声一つで感じ取ってしまったからだ。人外な咆哮を受け、全員が硬直して動く事すら出来ない中で1人だけ気力で話せる者がいた。


「み……皆んな、落ち着け! 奴が恐ろしく強い事は知っていた事だ! 何年も訓練した事を忘れるな! 私達は勝てる!!」


 発破を掛けたのはリーダーだ。伊達にこの集団のリーダーを張ってない。


 そのまま自らに続けとばかりにドラゴンに斬りかかっていく。


 長年の冒険者の勘からしても……いや、もはや本能のレベルで、彼は死んだ。そう思った。


 しかし彼が死ぬ事は無かった。


「な、なんだアイツ……抵抗、しねぇ」


 ドラゴンは、リーダーの攻撃を受けるだけでなんの抵抗もせずに身体を丸めるように地面に突っ伏してしまった。


「や、やれるぞ……何だか知らねぇが、奴は抵抗しねぇ!!」


 それを見た私達は一斉に攻撃を仕掛けた。


 その後もドラゴンが攻撃を仕掛けてくる事は無かった。


 ドラゴンは少しずつ鱗が禿げ、肉が裂け、目玉を潰され、本当にこのまま全てが終わるのか……そう思った時、ドラゴンは動き出した。


 息も絶え絶えに起き上がり、後一太刀でも加えたら死ぬ。そんなタイミングでドラゴンは吠えた。


「ゴアアアアアアアアッ」


 空間が痺れる。もはや音では無かった。これは、そう……重力。そう例えるのが一番だった。先程の咆哮より数倍は強いであろうそれは、その場に居た全員の動きを完璧に止めた。


 そしてドラゴンの頭から一筋の光が伸びて私の額とリンクした。ふと横を見ると私以外の全員にも光は伸びていた。


 それを確認した次の瞬間景色が変わった。


 私は空を飛んでいた。場所は先程まで見ていた景色だった為、すぐに分かった。龍の谷だ。横を見るとドラゴンが居た。


「くっ、こんな所でっ」


 でもちょっと待って、なんで飛んでるんだろう。こんな時こそ冷静に。これは私が冒険者となって最初に学んだ事だった。どんな時も冷静に判断する事。これがなかなか難しい。


 一度まとめよう。さっきまでドラゴンと戦っていたはず。もしかして、ドラゴンの記憶? 


 予想は的中。私達はドラゴンの記憶を見せられているようだ。人の言葉は話すことができないが、ドラゴンは知性が高いらしい。あのドラゴンは何かを伝えたいのかも知れない。


 その肝心な記憶は、自らの巣に帰る所から始まったようだ。これはその者の記憶を第三者目線で観る事ができる魔法だった様だ。


 龍の谷にある横穴へ着地。そのままのしのしと巣穴へと入っていく。


なかなか酷いシーンですがお許しを。


記憶の中の記憶……難しい。

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