12アルディside2
「帰っだか?」
「はい。ライラーヌさん」
「お婆ちゃん! アルってば凄いの! ビューンって飛んだり跳ねたり、ズガーンて魔物を倒しちゃうの!」
「おぉおぉ、そぉかえそぉかえ。よかっだな」
「アルぅ! また明日も行こう!」
ライラーヌさんに頭を撫でられ、俺の胸へと飛び込むテトラ。純粋で可愛い子だ。村の人達がテトラを可愛がるのは子供だからってだけじゃないな、こりゃあ。
「テトラ、もう肉は1ヶ月近く要らないだろう? 今日だけでどれだけ肉が獲れたか」
「むぅ……じゃあ木の実!」
どうしても行きたいんだな。ピクニックみたいなつもりなんだろう。
「アルディ。肉は村の者に配ればええ、明日も行ってやりなぁ」
「分かりました」
物凄く馴染んでしまっているが、そもそも何故こうなってしまったのか、いまいち覚えていない。
確かあの時……
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ちょっと言い過ぎただろうか。
「くそ、どーすればよかったんだ」
エリーの姿が木々の中へ消え、見えなくなった。
〝ギギギィ〟
「なんだ?」
音のする方を見ると暗い渦が空中に生まれていた。まるで闇、深く、深く、ただ何かを飲み込む為だけの闇。
「何だこれ……」
空間の歪みだろうか、特に中を覗いても何も見えないが……問題はそこじゃない。
【危機感知】自身に迫る危険を知る。コイツが頭が割れるほどに主張してくるんだ。
『これはやばい』と。
どうするっ、逃げるか。しかし、こんなものを放置して逃げられるわけが……
「ちくしょうっ!」
歪みの淵を何者かの手が掴む。
何か、来るっ!
即座に戦闘態勢を取る。
〝ギシッギシギシッ〟
手が歪みを拡げていく。その度に自分の鼓動が速くなっていくのを感じる。
ものの数秒で歪みは1メートル を超え、ぬっと何かが頭を出す。
「何が出るか。魔王か神か」
今の俺には守るべきものはない、そう言い聞かせてみても死ぬのは怖い。気がつくと足は震え、冷や汗が垂れるのを感じる。呼吸が苦しい。
つい先程までダンジョンで魔王や神の力を目の当たりにし、死にかけたばかりだ。無理もない。
「誰ざんすか? 神の力を持つ者は」
ふざけた口調とは裏腹に、放たれる威圧感。一瞬で分かる、コイツは普通じゃない。マモンと同格……いや、上かも知れない。
歪みから現れたのは黒い悪魔だった。
鱗の様な肌、4本の腕に薄い羽、2つの巨大な目は赤い複眼だ。恐らく昆虫系の魔物だ。
「誰だっお前は!」
間違い無く魔王クラスの魔物だ。少しでも会話を引き延ばし、情報を集めるんだ。
パラメータを発動。
【ベルゼブブ】
ベルゼブブ……聞いたことがある。確か、ハエの王。暴食の魔王か!!
魔王相手にどこまでやれるか。俺の脳内ではいくつもの戦闘シュミレーションを行っていた。ダメだ勝てるイメージが湧かない……何とか戦闘を回避できないだろうか。
「聞いてるのは私ざんすよ? まさか貴様ざんすか?」
神の力……多分【神炎】の事だろう。
「まさか、少し前にマモンの気配が消えたんざんすが、ヤッたのは貴様ざんすか?」
「……」
ダメだ。何を答えても戦闘を避けられるイメージが湧かない。
「だんまりざんすか。少し、貴様の置かれた状況を教えてやる必要があるざんすね」
のっそりと此方へ進んで来る。
戦うしかないのか。
〝シュ〟
「なっ消えた?」
ベルゼブブは一瞬の残像を残し、視界から消えた。それと同時に背部に鈍痛が走る。
「ぐっ」
「ほぉ、やはり普通の人間では無いざんすね。今ので普通の人間は死ぬざんす」
速い。一瞬で背後に回り込み、攻撃をした。認識するより前に攻撃するなんて、どう対処すればっ。マモンより強い。僅か一撃で俺はそれを悟った。
「ん〜……でもお前ではマモンは倒せないざんす。なにをした?」
「はんっ俺が本気を出せばこんなもんじゃない。アイツは俺が倒した!」
エリーやコア、クロの存在を知られるわけにはいかない。それだけは何としてでも死守する!
「本気ねぇ……見せて欲しいざんすねぇ」
ベルゼブブはまた視界から消えた。が、くる場所が分かっていれば、怖くない!
〝ヴォン〟
圧倒的な実力差を前に【逆境】でステータスが3倍になっている事もあり、膝を曲げ地面にしゃがみこむ事でベルゼブブの攻撃を躱す。
「ほぅ、先程より反応が良くなったざんすね」
くそっ、剣がなければ攻撃を受ける事もできない。マモンとの闘いで剣は既に折られていた為に、今の俺に使える武器は無い。
戦えるとしたら魔法での闘い。それなら先ずは……
「エクスプロージョン!」
効かなくても良い。ただ目くらましになれば、距離を取るんだ。
「何ざんすか? そのお粗末な攻撃は」
っ上!? そうか、奴には羽があった。
しかし、結果オーライだ。距離は取れた!
普通の魔法では魔王には効かない。それはマモンで実証済みだ。どんなに上級魔法を叩き込もうとダメージとしない。
それなら切札を1つ切らせてもらう。原始魔法、これを性質変化で他属性と混ぜ合わせれば……
「サンシャイン・プレィグ!」
太陽の如き灼熱。折角木々を再生したばかりで申し訳ないが、仕方ない。また再生するから今は消し飛んでくれ。
〝シュワァ〟
あまりの高熱に燃えることを許されず、蒸発していく木々や大地。
「おお!! これは凄いざんすねぇ」
何事も無かったように此方へベルゼブブは歩いて来る。
「な、んだ、と……」
「残念ざんすが、私に魔法は効かないざんすよ」
魔法が効かないだなんてあり得るのか。
「暴食の魔王。私の前には全てが私の糧となるざんす。つまりお前が魔法を使えば使うほど私は力を得るという訳ざんす」
滅茶苦茶だ。魔法が効かないなんて。
ベルゼブブは勝ち誇った様に笑みを浮かべ、目の前に仁王立ちする。
物理攻撃しか効かないって言うのか。
「マグネット!」
土魔法で地中の鉄を集める。地面に手をかざすと次々に鉄粉が浮かび上がり、手の平の上に球状を作り出す。
そのまま性質変化で棒状に固める。
「クリエイション!」
出来上がった鉄の棒に土魔法と原始魔法で剣を作り出す。
「器用な事をするざんすね」
「これならどうだ。魔法じゃないっ!」
〝ガスッ〟
即席の剣はベルゼブブの身体に当たり、一撃で折れる。
「くっ、くくく。何をやってるざんすか?」
やっぱりダメか。ドヴァーリさんの鍛えてくれた剣の方が数百倍丈夫だった。
仕方ない。これはできるだけ使いたく無かったけど……
【神炎】魔力消費が激しく、一度で精一杯な上に、もしこれも魔法で効かないと言われれば魔力も空になり、剣もなく打つ手がない為だ。
「最後にもう一回だけ攻撃を受けてくれないか?」
「ふん、貴様の攻撃なんて効かないざんす」
ベルゼブブは遊んでいる。どんな攻撃も効かないのだと見せつける事で俺の心を折ろうとでもしているんだろう。殺そうと思えばいつでも殺せたはずだが俺はこうして立っている。
もう一度攻撃を受けると言った事。それがお前の運の尽きだ。これで確実に仕留める。
ゆっくりと右腕を正面に突き出し、掌をベルゼブブへ向ける。
「さぁ、次は何を見せてくれるざんすか?」
油断した事を地獄で後悔しやがれ。
「神炎っ!」
発動と同時に掌から光線の様に神炎が発動される。
なんだ? この前と形が違う!?
前回は拡散する様に発動したが、今回は光線の様に真っ直ぐ。まるで虫眼鏡で太陽の光を集めた様な……
「うごぉあああ!」
効いている! このまま……
「くっう……」
不味い。魔力が……保たないっ。
そのまま【神炎】の威力は落ち、自然と消えていく。
「ぐ、ぅきさ、ま……何を、した、ざます」
倒せはしなかったが、半死半生までは追い詰めた! 魔法と同じ様に食われたらどうしようかと思ったが、これは別の様だ。
ここまで弱らせれば、俺の体術でもトドメをさせる!
「形成逆転だな、ベルゼブブ!」
「くぅっ貴様如きに簡単にやられはせんざます!」
ベルゼブブは現れた時と同じ様に空間の歪みを作り出して逃げる。
「貴様は必ず私が殺すざます。傷が癒えるまで待っているざます」
捨て台詞を吐いて歪みごとベルゼブブが消えた。
「……今はこれ、で、いい」
ガス欠だ。初めて【神炎】を使った時の様に魔力切れを起こした様で、意識が遠のいていく。
とりあえずなんとかなったな。これが無かったら危なかった……
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それで、気が付いたらここに居た。
3ヶ月も眠っていたのは恐らく連続で魔力切れを起こした事か【神炎】の副作用、もしくはあの辺な夢が原因だろう。
最近村の外へ出て分かった事だが、この村から俺が倒れて居た場所は結構遠い。偶然通りかかったテトラ達に助けられたんだろうが……
テトラがあんな所にまで用があるとは思えないし、ライラーヌさんかな? どちらにせよ何かあるのは間違いない。
「アルぅ明日は何する?」
「そうだなぁ……」
肉も木の実も、資材も全て村中に余る程配り、もはややる事がなかった。
「そう言えば、ハビィさん所が家を建て替えるとか言ってなかったかな?」
「あぁ、言ってた!」
ハビィさんはこの村の住人だ。最近家が古くなって来て、先日ついに床が抜けてしまったそうだ。そこで家を建て替えたいらしいのだが、この村に大工が居ないのだ。
この村には新しく家を建てる様な者は居ない。家を建てると言えば新婚さんだろう。この村に若い衆は居ないので大工の需要が無いのだ。家を建てる時は別の村か街から派遣して貰うんだとか。
ここで問題なのが魔物の異常発生だ。何処の地域でも最近は魔物のがよく出るらしい。それによって村から依頼を出すのも、出したとしても来てくれるのも難しいのだ。
仮に両方できたとして、普段の5倍以上の出費になるのだそうだ。
故にハビィさんの家の床は抜けたままなのだ。
という事で、直してあげようと思う。




