11アルディside1
……ここは……何処だ。
俺は、何をしてた? いや、何もしてない。俺はここに来てから、何もしていない。
上を見ても下を見ても、キョロキョロと辺りを見渡しても何も無い。只々真っ暗な闇が続くだけだ。やれる事はやった。それでもここから出る事は許されないらしい。
まぁ出られないのであれば仕方ない。最早悟りを開けるレベルだ。騒いだりする時期はとうに過ぎ去った。
兎に角、此処は考え事をするには最適な空間だろう。何の雑念もないのだから。
こっちの世界へ来てからは強くなる為にかなりの時間を使って、ここ最近では連戦に次ぐ連戦。ゆっくり考える時間などなかった。
丁度いい機会だ。整理しておこう。
とは言え何から考えれば良いか、改めて考えるとそれすら難しい。こんな時は初めから考えてみるのがセオリーだろう。
前世で奈々を死なせてしまった俺は、奈々の輪廻を追ってこの世界へやって来た……まどろっこしいな。簡単に考えよう。どうせ俺の脳内での話だ。
俺は奈々の生まれ変わりに会う為にこの世界に来た。それと同時に強くなりたいと願った。今度は奈々を守る為に。
赤ん坊から生まれた俺は、先ず強くなる事を考えた。同時期にエリーも生まれて、俺達は幼馴染としてシーネ村で育った。
エリーが居なければ俺はまるで人間味のない戦闘マシーンにでもなって居たかもしれない。
他にもクロやコアに出会い、俺はあいつらも守りたいと思うようになった。もう俺にとっても家族なんだ。以前にも増して力を求めるようになったが、それでも心まで失う事はなかった。それは一重に仲間達のおかげだ。
俺にはまだやる事がある。
俺の仲間は誰一人傷付けさせない。それでいて奈々を見つけ出し、また一緒に……そう言えば転生者だって事まだ謝ってなかったな。それも追加だ。
魔神を倒さねば奈々に会えない筈だったが……奴は敵じゃないと本能が訴えてくる。これからどうすれば良いか、今の俺にはよく分からなくなっていた。
そうか。俺はどうして良いのか分からないのか。魔神と言う目的を失った為に、目的がはっきりしていない。
魔神は戦い続ければいずれ奈々と会えると言っていた。では戦いとはなんだ? 俺が戦うべき相手は魔神はだった。では誰と戦えば良いんだ。魔王? そう言えば偽の魔神が黒幕だったな。
あぁ、そうか。そいつを倒せば良いんだ。少なからず魔王を作れる程の存在だ。神に等しい力を持つ筈。今の俺じゃあ勝てないな。
やっぱり力が欲しい。誰にも負けない。魔王も神も倒せるくらい。例え神が相手でも守りたいものを守れるだけの力を……
「それはどんな力だ?」
俺の声……何処からともなく。いや、何処でもない、頭の中か、声すら無く幻聴なのか兎に角わかる事は俺に話し掛けているだろう事だ。
「全てを砕く力だ」
「自分の事よりも?」
「守りたいものを守る為に振るう圧倒的な力」
「どんな風に」
「誰も抗うことが許されない」
「守りたいものって?」
「俺が守りたいと願うもの全てだ」
「欲張りだな」
「それが俺だ」
「最後にもう一度。どんな力?」
「圧倒的な力! 何者をも寄せ付けない圧倒的な力だ! 魔王だろうが神だろうか全てをねじ伏せる圧倒的な力!!」
「力に呑まれるなよ」
ーーーーーーーー
「うっ……んー」
「目ぇ覚めたんけぇ?」
長い、とてつもなく長い夢を見た気がする。
「起ぎだんなら、畑でも耕しできんしゃい」
「ちょっとおばあちゃん! まだ起きたばかりなのよ? 3ヶ月も眠ってたんだから!」
小さな家だ。直ぐにそう分かる程壁と天井が近い。小さな家の割に大きな暖炉が特徴的だ。
「言葉、分かるかな?」
「……」
「おーい。やっぱり3ヶ月も意識なかったし頭までやっちゃったのかな?」
3ヶ月? そんなに眠ってたのか。よく放り出さずに面倒見てくれたな。
「すみません、ちょっと状況についていけなくて……助けてくれたんですよね? ありがとうございます」
「おお! 良かった! ちゃんと話せるみたい!」
「私は3ヶ月も眠っていたんですか?」
「そうだぁ? おめぇさんがめぇ覚まさねぇがら、テトラがしんぺぇしてたんだ」
「あ、テトラって私の事だよ! お婆ちゃんはライラーヌって呼んでね」
年は12.3と言った所か、あどけない表情で語りかけてくる少女はテトラと言うらしい。元気な女の子なのだろう。ほんの少し見ただけでもそれが伝わってくる。オレンジの髪が短く切り揃えられていて、一層元気さを際立たせる。
対してお婆ちゃんは真っ白な髪が腰まで伸びていて、腰もしっかり曲がった典型的なお婆ちゃんと言う所だ。口調も古い言葉なので、かなり高齢の人だろう。これでとんがり帽子でも被ってたら魔女だ。
「私はアルディと言います。大したお礼はできませんが良ければ」
アイテムボックスにあった干し肉など食料を出していく。ダンジョン内で殆ど食べてしまっていて本当に大したものではなかった。3ヶ月分のお礼としては足りるはずも無い。
「干し肉!? え、なに? スキルか何か?」
「ほしにぐがぁ。そんなもん期待しでながったけど、ありがだぐもらっでおぐ」
テトラはアイテムボックスが珍しかったのか干し肉よりもスキルの方が気になった様だ。
「えぇ、一応冒険者ですのでこのスキルは大変役に立ってますよ」
「へぇ。凄いね! 見た所同い年っぽいし、敬語みたいなのはやめよう?」
「……そうだね。分かった」
なにを恥ずかしがる事があるのかもじもじとタメ口を求めてきた。
「私は13歳だよ。ちなみにお婆ちゃんは82歳なんだ! 凄い長生きでしょ? アルディ君は?」
確かにこっちの世界でここまで高齢の人を見た事がないな。どう見ても医療は前の方が発達してただろうし、魔法で病気を治すなんてのも聞いた事がないし、きっと平均寿命もこっちの世界の方が低いのだろう。
「俺も12歳だよ」
「同い年!!」
同い年だった事がそんなに嬉しかったのか手を組んで跳び上がる。
「この村にゃあ子供が居らんでなぁ。おんなじ歳の子ぉが嬉しいんじゃ」
テトラにとっては初めての友達みたいなものなのだろう。なるほど、それで敬語は嫌だったのか。
「そうだったんですね。看病をして頂いたお礼もしたいですし、何かお手伝いできることはありませんか? 腕には多少の自信もあります。テトラが案内をしてくれたら食料でも獲ってきますよ」
この村の事も見る事ができそうだし、テトラも喜ぶだろう。
「そりゃあ、やめで置いだ方がぇ」
「どうしてですか?」
「月に一度この村は魔物に狙われるの。今日はその日なんだよね」
「そりゃあ大変だ。それなら尚更……」
「ダメッ絶対ダメだよ!」
月に一度……魔物が何かを狙ってるのか?
「ギルドに依頼とかしてないの?」
「その魔物が来るようになってからは他の魔物が寄り付かなくなったんだよ。月に一度しかこない魔物は毎月1人だけ食べてしまうけど、前より被害は少なくなったんだ」
強い魔物のエサ場には弱い魔物には手が出せないか。合理的に考えれば被害は少ない方がいいのだろうか。
「その魔物はいつでるの?」
「いつもは夜かな?」
窓の外を見てみると茜色の夕日が空を照らしている事から時刻は夕方だと判断できた。
「はらぁ減っでねぇが? 粥こさえてやっだから食え」
「3ヶ月なにも食べてないから、お粥で我慢してね」
3ヶ月なにも食べてないのか。良く生きてたな。
ライラーヌさんが作ってくれたお粥はよく分からない草とよく分からない木の実……全体的に言えばよく分からない緑っぽいドロドロだ。日本のものとは大きく違うお粥だったとだけ言っておこう。
「美味しくなかったでしょ」
「えっいや、そんな事は……」
「でも凄いんだから! そこらのポーションより効くよ?」
「80年も極めだ粥じゃからな」
ふぉっふぉっふぉっとライラーヌは笑った。確かに何だか元気になった気がする。
お腹が満たされると次第に眠たくなってきた。3ヶ月も眠った筈なのにまだ眠くなる事に驚きつつもそのまま眠ってしまった。
ーーーーーーーー
「アルっ……アル起きて!」
「んっおはよう」
「もうお昼前ですよぉだ。また3ヶ月起きないつもりかと思ったよ」
「起きだか?」
「えぇ、すみませんお礼もせずに眠ってしまったみたいで」
「えぇんじゃよ。どうがの、テトラど一緒に狩りでもしで来るか?」
昨日もそのつもりだったし、リハビリも兼ねてそれが良いな。
「そうですね、テトラが良かったら……ですけど」
テトラへ目配せをする。
「いく!! お弁当も用意してあるんだから!」
どうやら相当楽しみにしていたみたいだ。
「あぁ、月に一度現れる魔物は昨日どうだったの?」
「昨日は何故か来なかったみたいだよ?」
「ここ数年ではずめてのこどだな」
良かった。眠って要る間にテトラやライラーヌがやられるなんて事がなくて。何とか早い所手を打たなければ……
「良かったです。誰にも被害が無くて」
「そうだなぁ」
「じゃあテトラ、準備ができたら行こうか? 日が暮れる前に沢山狩ってライラーヌさんに料理して貰わなきゃ」
村の様子を見れば何か分かることがあるかもしれない。俺にはそう言う思いもあった。
「うん!」
そして俺達は家を出たのだ。
「こんにちは。テトラは今日も元気だな」
「こんにちは! うん! 今から狩に行くんだ!」
「そうか、気を付けてな。こっちの男の子は誰だい?」
「アルディって言うの! 3ヶ月前に拾ってきた子だよ」
拾ってきた子って……
「あぁ、そういえば言っていたな。目が覚めたのか。良かったな、坊主」
「アルディだよぉ」
「そうか、すまんなアルディ」
「いえ、テトラやライラーヌさんのお陰で助かりました」
「狩に行くんだってな。テトラを頼んだぞ」
「はい!」
村はそんなに大きい訳では無く、人口200人〜300人ってところだ。見た所子供は本当に居ないな。見る限りでは全員30歳を越えてる様だ。
「テトラ! ライラーヌさんはまだ生きてっか?」
「これ持ってきな! 美味いぞぉ」
「ありがとう!」
テトラは村人全員から愛されている様だ。村に子供はテトラだけなのだからそうなるのも必然だろう。
この世界には子供の居ない村が数多く存在するのだろうか。シーネ村でも俺とエリーの2人しか子供はいなかった。大きな街か国に人は集まるからそれが自然なのかもしれない。日本も同じ様な所があるしな。
「アル?」
「あぁ、ごめんごめん行こうか」
取り敢えずこの辺りの魔物の事も詳しく分からないので今回は近場で狩りをするつもりだ。




