10エリーナside8
チャンバー市。人口4万人越えで、大陸のかなり北西の位置にある、なかなか大きな街。
ネット市から狐人の村まで真っ直ぐ西へ進む事は、大陸を縦断する様に流れる大運河のスパイン運河があってできなかった。私達はスパイン運河を越える為、大陸一の山脈スパイン山脈の洞窟を通って少し大回りする事にした。
そうして抜けた洞窟の先で、チャンバー市で起こった事件を知った。
今はそのチャンバー市の人達を助け出す為、丸太机を囲んで作戦会議をしている。
「先ず地上に居る魔物にバレないように行動しなきゃなんねぇ。そこでジェンシーの認識阻害の効果掛けた結界でダンジョンまで進む。んでできるだけ早くダンジョンを制覇して魔物達の数が増えねぇようにする。完了次第地上へ戻る」
「そこからが問題ですわ。何処で私達が暴れたとしても、チャンバー市の人々を人質にされてしまって動きを封じられてしまったらそれでお終いですわよ」
「そ、そこで分散作戦ですよね!」
「地上に戻り次第ジェンシーの認識阻害を使って領地内に分散して各個魔物の撃破と市民の救助。ですね?」
「そうですわ。でも私の近くに居る時と違ってタイムリミットが発生しますわ」
ジェンシーの近くに居る時はジェンシーが結界を張り続ければ効果が持続するけれど、離れると送った魔力分だけで各結界が消えてしまうらしい。遠隔操作には向いて無いみたい。
「後はそん時の配置だな」
「貴族街は例のバケモノが居ますわ」
「つまりバケモノには」
「バケモノですわ」
「それって私の事かな?」
「いや、冗談だって、な? 怒んなよ」
「まぁいいや。兎に角チャンバー市の中心部程敵も強い。だから中心部には私とジェンシーで固める。後は3人で北がテウラ、西南がシアン東南はケーラに任せるね。クロはその時の状況で動いて貰うね? もし3人が危なかったりしたら助けてあげて」
「うぉん!」
クロを自由にさせるのはこの中で1番機動力があるから。多分本気で走ればチャンバー市の端から端でも5分の掛からない。
「では、これでいきましょう!」
「ぜってぇ助けてやろーぜ」
「も、勿論です!」
「明日から作戦開始にするから、今日はゆっくり休んで準備を整えよう」
「回復魔法を2人も使えますから、ポーション分は荷物を削れますわ。後は食糧だけしっかり用意していきますわよ」
「クロ、みんなの食糧を任せてもいいかな?」
1番体の大きいクロが食糧を持った方が一度に沢山持てるし、敵の攻撃を避ければ食糧も守れる。
「うぉん!」
「本当に、頭が良いのですわね」
「うぉん!」
「よし、じゃあ食糧は俺とジェンシーで買って置くから皆んなは休んでくれ」
「分かった。よろしくお願いするね」
市民救出までの作戦は取り敢えずこんな所かな。話が終るとそれぞれに準備を始める。夕日も差し始めたし、早い所準備を済ませて私も休んで置かなきゃ。
「クロ、またダンジョンに行かなきゃいけなくなっちゃったけど、ごめんね。頑張ろうね」
「うぉん!」
一瞬の躊躇も無く応えてくれたけど、前回のダンジョン制覇の時1番重傷を負ったのはクロだったし、本当は思う所も色々あると思う。それは恐怖だったり責任感だったり、クロは優しいから。アルと別れた時だって私を心配してくれたから……
今思えば小さい頃からずっとそうだったな。お兄ちゃんとかいたらこんな感じなのかな? 明日は絶対みんな無事で全部終わらせるんだ。
気が付くと日も沈み辺りは暗闇。所々弱々しく燃える松明だけが周囲を照らす。ここの住民達も明日の作戦を知っているのか、若干いつもより静かで重々しい空気が漂っている。
「そろそろ寝ようか」
「うぉん」
布しか身体を覆うものが無いここではクロの体温がやけに優しく、頼もしく感じる。
「大丈夫、だよね。またアルやコアと楽しく冒険できるよね」
「うぉん」
この後直ぐに寝てしまった私はあまりこの時の事を憶えていないけど、もしかしたら泣いていたのかもしれない。
ーーーー
「ジェンシー様。足が治られて良かったです。そして皆様、私達の無理な頼みを聞いて下さって本当にありがとうございます。後は……後は、お願いっ致しますっ」
「デルガ。大丈夫ですわ。必ず。必ず助けてみせますわ」
「お願いします!」
「ありがとうございます」
「無理をなさりませんよう、お気を付けてっ」
皆んな、自分達の家族や友人、街を取り戻す為の戦いを私達に託す為、認識阻害の結界の境界線まで見送りに来てくれていた。
「い、行きましょうっ」
「あぁ、んじゃリーダー」
「……」
「え? 私?」
「他に誰がいるんですの?」
「気合い入れる為にもいっちょ出撃の狼煙でも上げようぜ!」
「……じゃあ皆んな手を出して」
皆んな円になって手と手を重ねる様に促す。
「それで? なんだこりゃあ」
全員が私の手の上にそれぞれの手を重ねた後、テウラが疑問を投げ掛ける。
「アルに教えて貰ったの。やれば分かるよ」
円陣? だっけ。
「ーーーっ! 死ぬことは許さない! 何があっても生き抜け! 惨めでも諦めるな! もがいてもがいて勝利を掴み取る! 絶対勝つ!!」
いきなりの大声に全員が静まり返る。そして言葉の意味を理解するとそこに居た全ての人が各々のに咆哮を上げる。
「「おぉ!!」」
「「「ゔぉおおおーーっ!!」」」
見送りに来ていた人達まで気合いが入っちゃったみたい。
「っしゃあ! めちゃめちゃ気合い入ったぜ!」
「流石ですわ」
「良かった。じゃあ行きましょう」
そのまま私達は大歓声を背に浴びながらチャンバー市へ向かった。
言っておいて恥ずかしくなっちゃった事は皆んなには内緒。
チャンバー市は意外と近く、歩いて1時間も掛からない距離だった。ジェンシー曰く灯台下暗しですわ! らしい。認識阻害がある為、無理して離れる必要もないし、寧ろ中には重症な人も居るから遠くへ移動する方が危なかった見たい。
「ここから結界を二重に張りますわ。とは言え流石に目視で見つかればバレますの。その時は……」
「騒がれる前に排除。だな?」
「頼みますわ。確実に」
「任せて」
もう目視でチャンバー市の都市壁が確認できる距離まで来ている。高さ3メートルはあるだろうか。周囲は何も無い雪原が広がっていて、雪原のど真ん中にドンと都市壁が構えてある。
「それにしても……静かだな」
外から見る限りはとても魔物が占拠しているとは思えない程綺麗なままだ。外から責められた訳じゃ無く、街のど真ん中にダンジョンができたのだから外壁は壊れる事が無いにしても……
「綺麗すぎですわね」
やっぱり。幾ら何でも相手は魔物。街を占拠した後何も壊さずに綺麗建造物を使うなんて考え難い。
「兎に角都市壁の中へ入りますわよ。此処からは細心の注意をお願いしますわ」
開かれたままの門をくぐり、チャンバー市へ入る。
「ど、どうなっているんですか!?」
驚くのも無理はない。魔物が占拠している筈の街で普通に人間が生活しているのだから。変わった点があるとすれば至る所に魔物の石像が建てられている事くらいだった。
「もしかして……いや、そんな事あるはずがありませんわ」
「どうする? 話でも聞いてみるか?」
「まだ何がどうなってるのか分からない今、安易に行動するのはやめておこう」
「……そうですわね」
ジェンシーには何か思い当たる事があるのかも知れない。きっと何か分かれば教えてくれると思うから今はそれに頼ろう。何はともあれ予想以上に生き残った人がいて良かった。この様子からすると2.3万人は住んでいそうだ。
今できる事は兎に角ダンジョンへ入る事。そしてできるだけ早くこの人達を自由にしてあげる事。
「ダンジョンを探そう」
「そうだな」
ジェンシーの案内でチャンバー市の中心部へ向かいながら進む。その途中で見た光景からジェンシーは1つの結論を導き出した。
「間違いありませんわ。地上の何処かに精神魔法を使う何かが居ますわね。何者かがチャンバー市の市民を操っていますわ」
そんな気がしていた。予想以上に沢山の人が残っていたのは嬉しかったけど、魔物の石像を崇める様に手を擦り合わせる人や奴隷の様に魔物に虐げられても頭を下げて感謝する人を見かけたからだ。これが普通じゃない事くらい誰にでも分かる。
「せ、精神魔法……」
「最低だぜ。許せねぇ」
「手を出してはダメですわよ? 此処は我慢ですわ」
「分かってるぜ」
「作戦が全て水の泡になってしまいますからね」
ところで、精神魔法ってなにかな?
「精神魔法って?」
1番近くにいたシアンに聞いてみた。
「人の心を操る魔法ですよ。基本的に忌み嫌われる魔法です。使い場所を選ばないと迫害の対象になってしまいますから、もし覚えても人前で使ったりしないで下さい」
確かに心を操れる人が隣に居たら今の自分が操られていない保証なんて何もないもんね。ちょっと嫌かも。
「一応私のプリズンでも精神を操る効果は有りますわ。でも私のはアビリティですの。私の魔法は誰にもバレずに使う事はできませんわ。だから迫害はなんとか免れてますの」
「そっか、確かに奪うものをやる気とか感情にしたらそれは一種の精神魔法みたいなもんだな。けどジェンシーのアビリティは付与するタイプだから結界や理力魔法に付与してたら相手に分かっちまうもんな」
「そ、それにジェンシーのアビリティはあくまで〝奪う〟ですから、精神を操ると言っても限定的です」
確かに、相手に自分を好きにさせるとかできないもんね。もしそんな魔法があったらアルに……って何考えてんだろっ
「ど、どうしましたの?」
「ものすげぇ勢いで首振ってたぞ? 千切れるかと思ったぜ」
「怖い事言わないで下さいます?」
「な、何でもないよ。ジェンシー、まだ着かないの?」
シレッと話題を変えて追求を逃れる。まさか好きな男の子に精神魔法を使う所を想像してました。なんて言えないよ。
「あれですわ」
「え? 何あれ」
「ま、魔法陣ですか?」
ジェンシーが指を指し示した場所には直径3メートル程の魔法陣が地面に描かれていた。
「なんだありゃあ……うおっ!」
思っていたダンジョンと形が違っていて少し戸惑っていた。そこに魔法陣から数体の魔物が出現した事で確信した。あれはダンジョンだ。
「私が制覇したダンジョンは地下へ伸びる洞窟だったから驚いちゃった」
「俺もそんなのをイメージしてたぜ」
「ダンジョンには色んなタイプがあるそうですわよ? 詳しくは私にも分かりませんけど、聞いた話では塔の様なものや森、谷などがあるそうですわ」
「い、一体幾つのダンジョンがあるんでしょうか」
「分かりませんわ。けど今は目の前のダンジョンを制覇するだけですわ」
「そうだな」
「それでは、行きますわよ」
魔法陣を目の前にして、覚悟を問う。
「準備はいい?」
「おう!」
「グルァウ!」
息を合わせて全員同時に魔法陣の中へ足を踏み入れる。
一瞬で景色が変わる。さっきまで居た場所とは明らかに違う事を目の前の風景が教えてくれた。
「これがダンジョン?」
私達は何かの闘技場の様な場所に居た。




