5 シーネ村にて3
「アルはぼうけんしゃになりたいの?」
エリーナの唐突な質問に少し驚く。
「どうしてだい?」
「いつもたたかいごっこしてるから?」
「もう少し大きくなったらそのつもりだよ」
「じゃあわたしもいく!!」
「楽しそうだね、その時はパーティでも組んで一緒に冒険しようか」
「ぱーてぃ?」
「一緒に冒険するって事さ!」
「クロは? クロもいっしょ?」
「あぁ、クロも一緒さ。な? クロ?」
「うぁん!」
「やたぁ!! ぜーったい、たのしい!」
俺の気持ちが伝わったのか、クロの返事に心なしかいつもより弾みがある気がする。
「ぜったい! やくそくだからね!?」
確かに楽しそうだな。クロが魔物や虫なんか狩って来てくれて「そんなの食べれない!」とかエリーがピーピー泣き出したり、そんなエリーナもピンチの時は頼りになったりしてな。助けられるのも偶にはいいかもしれないけど、後から凄い自慢してきそうだ。
5年も毎日一緒に居たら家族みたいなものだ。まだ子供のエリーナに恋愛感情なんて無いが、どうやら俺俺にとって大切なモノがこっちの世界にもできたみたいだ。
勿論奈々のことを忘れたわけではないが、エリーナやクロと一緒に居ると心が安らぐのも事実だ。
最近奈々のことを考えいて最近思った事がある。
魔神以外の神は世界対して不干渉を貫いている。対して魔神は好き放題。
人神の話では順々に他の世界にも手を出そうとしているのだとか。
つまりは魔神をボッコボッコにしばき上げて奈々の事を探させれば見つかるんじゃないか? と言う疑問だ。
他の神は世界に不干渉である故に個人の事は分からないと言っていた。少なくとも人神はそう答えた。好き勝手にやっている魔神ならば、色んな世界の事を知っているはず。禁忌だから……なんて言わないだろう。
もしそんなことをしたら俺まで禁忌を犯したなんて言われないか心配だ。
いつかエリーナや、クロを含めたこっちの世界か奈々のどちらか1つ選ばなきゃならない。なんて事があるかもしれない。いや、ここまで来たらそれは避けては通れない道なのかも知れない。
「アル? こわいかおー・・・」
「あ、あぁ、ごめんよエリー。少し考え事をしてた」
「くぅん」
「クロにまで心配をかけたか? 悪いね」
どん!
急にエリーナが俺の事を抱きしめてきた。
「だいじょうぶ、エリーがついてるよ? こわくない、クロもいるんだから! まもってくれるよ?」
励ましているつもりなんだろう。泣きそうな声だ。クロまで俺に擦り付い来ている。
「あらあら、仲良しね?」
「いいねぇ若いってのは」
「そ、そんなんじゃないもん!」
恥ずかしかったのか軽く突き飛ばされるように離れてしまうエリーナ。なんかちょっと寂しい。
よくよく考えてみれば今いるのは村のど真ん中だ。人目に付いて当然だろう。
「羨ましがってないでおじさん達も帰って奥さんの事抱きしめてあげなよ」
「言うねぇ坊主!」
「おばさん達も、旦那さんが寂しがってるかもよ?」
「やだやだ、やしとくれ」
村に子供は少ない。俺やエリーナにとっては村の大人達全員が親みたいなものなのだ。
良い村だよ。この村は。
ーーーーーーーーーーーー
7歳になった。
「アル! 今日も特訓しよ!」
おはようございます。今日もエリーナお嬢様は元気でございます。僕はまだ眠いよ。
エリーナは母親がそうするように、息子を叩き起こすかの如く扉を開けて入ってきた。
「アル〜起きたの? 朝ご飯できてるから、食べられるわよ〜」
二階建ての家で二階の角部屋。それが俺の部屋だ。
今ディーナは一階の階段から叫んでいる。
最近ディーナもアルフレドも俺の事をアルと呼ぶことが増えた。日本でもそうだろう。親が子の名前を縮めて呼ぶ事は良くある。信長ならのぶ〜とか秀吉ならひで〜とかそんな感じだろう。
「ディーナお母さんが呼んでるよ?」
エリーナは最近かなりディーナと仲が良い。年々仲良し度が増していく。まるで奈々と前世の母さんのように……
もし、初めからこの世界に生まれてたらエリーナを好きになって、農夫でもして一緒に暮らしてただろう。
しかしクロは居なかったかもしれない。前世の知識や、大人な頭脳をフル回転させてやっとアルフレドを説得できたのだから。
何故冒険者や兵士ではないのか。農夫なのか。
才能がないのだ。チートのゴットスキルが3つもあるのにだ。転生でなければもっと弱かっただろう。
最近ではエリーナも魔法を使うようになって来た。種類こそ風と水しか使えないけど、既に俺より強力な魔法となっている。そう、またしても幼馴染に助けられそうな人生。
記憶がなければそれも良しとした人生を送ったのかもしれない。しかし記憶がある以上何かあった時、また助けられて何もできないなんて事は嫌なのだ。
現実は理想どうりにはいかないものだ。
情けないにも程がある。あんなにも前世と同じ轍は踏まないと心に誓って転生した。毎日毎日毎日馬鹿みたいに魔法を使って筋トレばかり。
それでも最近特訓を始めたエリーナに至極あっさりと追い抜かれたのだ。心が折れかけている。もう笑うしかない。
今世は前世より明らかに危険度の高い世界だ。危険な目に会う確率はグンと上がる。だから余計に力が欲しいのだ。
守れる力が欲しい。
もう最強の力をなんて高望みはしない。せめて、せめて今ある幸せだけでも守れるだけの……たったそれだけの力でいい。
どれだけ願っても一向に俺のステータスは不動だ。こんなに筋トレして3歳の頃から成長が見られないのだ。
やけくそになって庭で魔力が切れても魔法を打とうとして気を失って、何度もディーナやアドルフを心配させた事もある。
「余所見したら危ないよ!?」
最近はかなり模擬戦も、派手になって来たので庭ではなく少し離れた空き地で特訓をしている。
今も尚ぐんぐん力を伸ばし続けるエリーナと組み打ちをしているところだ。正直5年間も剣を振って、クロとの模擬戦の経験があって何とかエリーナの剣を凌いでるに過ぎない。
力、スピード。全てにおいてエリーナが上だ。俺が勝っているのは経験だけ。
「最近、エリー、は、ほん、とに、つよ、く、なって来た、ね!」
打ち合いながらは上手く話せない。少しでも手を抜けば終わりだ。
「アルの方が凄いじゃん! こんなに連続で攻めても一回も当たった事ないし!」
そりゃあ5年近くエリーナより長く剣を振ってるからね。嫌でもこれくらいできるようになるさ。
エリーナが特訓する理由は冒険者になる為だ。俺の特訓をゴッコでなく本気なのだと知ったのは最近だ。
それからエリーナも特訓をしたいと言って聞かなかった為に、最近では一緒に特訓をしている。
エリーナは数年前に話した一緒に冒険者になるという話を未だに本気にしているのだ。
俺も数年前までは本気で思っていた。3人で冒険者になって世界を冒険しながら、少しずつ魔神の情報を集めようと。
しかしそれは俺がエリーナを守れるだけの力を手にした事が前提の話なのだ。一向に強くなる気配のない俺は、エリーナを守る自信がまるで無い。寧ろ今のままでは足手まといになるだろう。
できるならエリーナにはこの村にいて欲しい。
「そんな事ないさ」
謙遜でも何でもない。事実だった。
「クロ、エリーの特訓してあげて」
「わぅ!」
流石のエリーナもクロにはまだ勝てない。クロと並ぶにはもう少し時がかかるだろう。剣に慣れたらいい勝負をする様になるかも知れない。
これでもエリーナは魔法師よりのステータスだ。数値化されなくてもそれ位は分かる。
特訓では剣を鍛える為に殆ど魔法は使っていない。つまり剣だけでほぼ一人前の腕なのだ。それでいて何年かしたら中堅並みの剣を使えそうな雰囲気を醸し出しているのだ。将来有望だろう。
もう気長に特訓。なんて言ってられないな。ステータスが伸びない理由があるはずだ。それを探さなければ。
憂鬱な気持ちばかりに囚われちゃいけない。
「やってるなぁ」
不意に現れたのはアルフレドの同僚である兵士だ。今日は非番なのだろう。
水色の髪で短髪。年は30前後くらいだが、歴戦の戦士の様な凄みを感じる人だ。身体も所々戦いの傷が目立ち、ガタイもそこそこいい。
「どれ、俺も剣を教えてやろう」
兵士が木の枝を拾い上げ、俺に向かって構える。
「さぁ、どこからでもかかってこい!」
アルフレドやこの兵士は偶にだがこうして剣の稽古をつけてくれる。現役の兵士なだけあってなかなか参考になる事を教えてくれる。
「アルばっかりずるいよ〜!」
「それなら2人同時にやったっていいぞ〜」
早くしろとだるそうなそぶりを見せる。
実際この兵士は強い。二人掛かりでも一本取れるかどうか……
ーーーーーー
「よし、今日はこのくらいにしてやるかぁ」
結果は50戦49敗1引き分け。引き分けはほぼ同時に有効打を寸止めしたものだ。
「はぁはぁはぁ」
「だぁっ!」
俺は疲労が溜まった体を地面へ投げ出した。
「まだまだ、だな! だがなかなか良くなってきているぞ? 頑張れよ!」
そう言って兵士は行ってしまった。
「ふぅ、疲れたー!! 今日のご飯は何かなぁ〜♩」
何故あんな激しい特訓の後に飯の話なんかできるんだ。
「ん!」
そう言ってエリーナは俺に手を出す。空き地から帰るときは手を繋ぐのが俺達のルールだ。
確かに俺はなかなか強くはならないようだ。だが諦めるわけにはいかない。失いたくないんだ。この手を。
俺はエリーナの手を取りながらそんな事を考えていた。
「ね! 今日は特別! 屋台のおじさんとこ行こ!」
「ああ、構わないよ」
「クロにもお肉あげるからね」
「うぁん!」
尻尾がぶんぶんしている。正直な身体だ。
村のお店は屋台形式の所が多い。その方が低コストで店を構えられるからだろう。
村の屋台では野菜や魔物の肉など大したものは売ってない。
俺達が行くのは飲み屋の屋台だ。と言っても飲みに行くわけではない。このお店のつまみの料理が好きなのだ。
「おじさん! いつもの2つ!」
エリーが頼んだのはパンを薄く潰して焼いて肉を挟んだハンバーガーみたいなものだ。2つも頼んで、よく食べるな。最近の訓練はハードだから仕方ないかな、育ち盛りだしね。
「ん!」
エリーナが1つを俺に渡してくる。
「いいよ、自分の分は自分で買うから、1人で食べな?」
「2つもいらない」
ん? と疑問に思ったが直ぐに答えは出た。
あぁ誕生日か。
「誕生日……」
そう言って顔を背けるエリーナ。
ツンデレですか? コノヤロウ!
思わず頭を撫で回しそうになったがぐっと我慢した。
「ありがとう」
俺はエリーナからの誕生日プレゼントをしっかりと両手で受け取った。
「ほらクロ」
中の肉を少しつまんで手に乗せてクロに食べさせる。エリーナ。
そういやあの日も誕生日だったな。
「いただきます」
あれ? しょっぱいな。
俺は自然と泣いていた。あぁそうか。
クレープじゃないけど、これが見たかったんだ。
「え、アル?? どうした? 嫌いだった? いつも美味しいって言ってたから……お腹痛いの?」
「違うよ」
「くぅ〜ん」
「泣かないで、きっといいことあるから!」
こんな時普通なら何も知らない癖に! なんて言うべきなのかな? 不思議とそんな気にはならなかったし。寧ろお礼を言いたくなった。
「ありがとう」
この時間を守りたい。もう何度目かになる願いをハンバーガーもどきに願った。




