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6エリーナside4


 テウラが纏わせた紅の闘気を爆発させる。


「一撃で終わらせてやる」


 言葉を終えた瞬間テウラの姿が消える。


「グゴ……ッオ?」


「……閃歩」


 テウラはシルバーベアの背後へ移動していた。


「腕がっ!?」


 シルバーベアの左腕が宙を舞っている。


「グゴアアアアアッッ」


 数瞬遅れて痛みに気付くが流石はSランク。痛みに堪えながらとは言え、速度と威力共に十分な殺傷能力で残った右腕をテウラへ叩き込む。


〝ズンッ〟


 周囲に爪と剣がぶつかっただけとは思えない程重い音が鳴り響く。


「俺は戦士だ。敵の攻撃を止められねぇで戦士を名乗れるか! ケーラ! 俺ごとぶち込め!」


「わ、分かった。ドラゴンサンダー!」


 ケーラから龍の形を模した雷が放たれる。あれを受ける側から見たらどんな景色なんだろう。側から見ただけでもその迫力は凄まじく、シルバーベアも蛇に睨まれた蛙の様に固まってしまう。


「ってやり過ぎじゃない!? テウラが居るんだよ!?」


 雷の竜が閃光を発しながら全てを呑み込んでいく。


〝ドゴロガラゴロゴロ〟


 爆発音の様に激しい雷鳴がシルバーベアを中心に全てを押しつぶす様に響いた。全てが終わった後、そこに存在したのは丸焦げのシルバーベアと1人の影。


「……闘鎧」


 紅の闘気が全身を鎧の様に包んでいる。


「嘘、でしょ? あれを無傷で?」


 ケーラが放ったドラゴンサンダーは上位も上位、最早伝説とも言われる程の高位魔法。聞いた事しか無かったけど紛れもなくドラゴンシリーズの魔法だった。それを無傷で受け切るなんてあり得ない。


「「シアンッ」」


 2人が此方に走って来る。


「大丈夫か! すまねぇ」


「は、離れて下さい!」


「何をする気?」


「そうだぜ! 早くどっかの街に連れて行ってやろうぜ!」


「いいから! は、離れて下さい!!」


 いつも大人しいケーラが声を荒げる。何も考えなしにそんな事を言う訳ないし、きっと何かあるんだ。


「お、おう」


「分かったわ」


 テウラと一緒にシアンとの距離を少しだけ取る。


「……ハイヒール」


 ケーラは静かに呪文を唱えた。


「ヒールだと?」


 ヒール。回復魔法の1つ。世界にも数人しか回復魔法の使い手は居ないって聞いてたけど……しかもハイヒールはヒールの上位魔法、そんなものを使える人が聖騎士団にいるなんて考えられない。可能性があるとすればさっきの異変の後に覚えたって事。


「す、すげぇ」


 先程までの傷が嘘の様に修復されていく。刀傷も、焼けた皮膚も、まるで逆再生の様に塞がっていく。


「……優しい光ね」


 全てを包み込むかの様な淡いグリーンな癒しの光。


「も、もう大丈夫です」


 傷も塞がり、今は眠っているだけの様に見える。ケーラの言う通りもう大丈夫そう。


「お前、そんーーー


「いやぁ!! 素晴らしい! まさか誰も欠く事なく、しかもたったの3人でシルバーベアを倒してしまうなんて!」


「わしらは、貴方様方の様な方々を探しておったのじゃあっ」


「すげぇ。Sランクのシルバーベアを……」

「あんなに皆んな殺されてしまったのに」

「もう少し早く……」

「それは言いっこなしだよ!」


 急に現れたのは明らかにこの辺りに住んでいると思われる人達だった。多分近くの茂みにでも潜んでたんだと思う。それにしても私達はともかくクロにすら気付かれないなんて凄い隠密性。


「貴方達は何者? ただの村人が、私達に気付かれる事なくここまで近付けるなんて考えられないんだけど」


「ただの村人じゃよぉ」


「私達は長い間魔物から身を潜めて暮らして居たので隠れるのは得意なんですよ! そこの黒い狼の魔物に気付かれた時は焦りましたけどね! ははははっ」


「……クロ、気付いてたの?」


「グルォウ!」


「言わんかい! もし攻撃が当たってたらどうするの!?」


「グ……グロゥ」


「まぁまぁ、いいじゃねぇか。敵って訳でも無かったんだし。クロだってそう判断したから何も言わなかったんだ。そうだろ?」


「グルォウ!」


「……まぁいいや。それで何か用? 意味もなく接触して来る訳ないよね? なにせSランクを倒してしまう程の力を持つ私達だもん。悪人なら貴方達なんて一瞬で全滅だよ? そんリスクを背負ってでも接触して来るんだから、何か用があるんでしょ?」


「お強いだけでなく頭もキレるんですね。その通りでございます! 貴方方を強さを見込んでお願いがございます! どうか、どうか街を救って下さい!」


「お、おねげぇしますじゃっ」


「お願いします」

「頼みます」

「街を、子供を……」

「どうか、どうかっ」


 各々に頭を下げてお願いをされる。総勢20人程度の人に頭を下げられてそう簡単に断るこのなんてできないよ……


「お、お話だけでも聞いてあげませんか?」


「そうだな、困ってそうだし……どうする? エリー」


「そうだね、話くらい聞こうかな」


「ほ、本当ですか!?」


「聞いてから決めるけど、それでも良いなら」


 こんなに困ってる人を見捨ててまで早くコアを見つけるってのも何か違う気がするし、そんな事コアだって望まない筈……だよね?


「ありがとうございます……ありがとうございます……」


「まぁ、いいから落ち着いて話な」


「申し遅れましたじゃ。儂はチャンバー市の長、アーデルと言うのじゃ」


「私は息子のデルガと申します」


「私はエリーナ」


「テウラだ」


「け、ケーラです」


「それで、今眠っているのはシアンだよ」


「早速本題に入らせて頂きますがよろしいしょうか?」


「うん、大丈夫だよ」


「ダンジョンができてしまったんじゃよ。ダンジョンから次々に凶悪な魔物どもが街に現れて皆……」


「な、成る程。ここでも魔物による被害が……」


「なら、元来の俺達の調査とも無関係とは言えねぇって訳だな」


「以前は人口も4万人強は居たのですが……現在は街ごと破壊され、皆散り散りになってしまって……生き残ったものも1万人か2万人か……我々が確認できる限りでは4千人程しか……」


「思った以上にひでぇな」


「今はどうしてるの?」


「何とか街に残っていた魔物避けの魔法具を逃げる時に掻き集めまして、それを使って集落を作り生き延びております」


「そ、それで私達にお願いと言うのは……」


「まだ街にも生き残りがいる筈なんじゃ。じゃが街は魔物に占拠されてしまっておって、儂らじゃ助けられんのじゃ」


「街の人々を助けて欲しいって事ね?」


 良かった。ダンジョンを制覇して魔物を全滅して欲しいなんて言われたらどうしようかと思ってたけど、流石にそんな事頼まないよね。


「言いにくいのですが……」


「なんだ?」


「ダンジョンが現れた場所なんですが……」


 あぁ、嫌な予感がする。


「街のど真ん中なのじゃ」


「そ、それってつまり?」


「おいおい。そりゃ無理だぜ婆さん」


 ダンジョンがある限り無限に魔物が現れ続ける。つまりこの人達のお願いって言うのは街の人々を助け出すに当たってダンジョンを枯れさせて欲しいって事。


「ダンジョンを枯らして欲しいって事、だよね」


「無理は承知でのお願いなのです! 国に出向いてる時間もなく、辿り着いたとしても受け入れて貰える訳も無い。奇跡が起きて救援が来てくれたとしてもダンジョンの制覇なんてできる訳がない。それでも私どもは街の人々を見捨てる事などできない! 何とかあの手この手と色々試して見ましたが死人が増える一方で、街に入る事すらできなかったのです! もう時間が無い。最後の、貴方方が最後の頼みの綱なのでございますっ」


 ダンジョンでは痛い目に遭ったばかりだ。あの時は魔王って言うイレギュラーがあったとは言え今回は絶対に無いなんて事はあり得ない。アルが居ない今、私には判断ができない。それに前回のダンジョン攻略の時はアイテムボックスに大量の食料と回復薬を持って挑んだんだ。今回はそれが無い。正直辛い。


「か、考えさせて。ごめんなさい」


「そうだな、ダンジョン攻略なんてそうほいほい安請け合いできるもんじゃねぇ。すまねぇが時間をくれねぇか?」


「とんでもない。貴方方の命も掛かっているのですから……とんでも無い事を頼んでしまってすみません」


 今はシアンの回復を早くさせてあげたいのと、生き残っているチャンバー市の人々を守ると言う意味でも一度この人達の隠れ家へ案内して貰うのがいいかな。


「じゃあ、シアンも休ませてあげたいし、貴方達とこのまま会えなくなってしまうのも困るから、一度貴方達の暮らしている所へ案内してくれる?」


「ええ、構いません。しかし……申し訳ないのですが、もてなす程の余裕はありませんのでどうにかお許しください」


「そんなもん望んじゃいねぇし、気にすんな」


「そ、そうですよ!」


 アーデルさんとデルガさんに着いて行き、他の人達の所へ案内して貰った。シアンはクロの背中に寝かせて連れて行くことにして、半日程歩くとそこへ着いた。そう遠くは無かったけど驚いたのは場所だった。


「ここでじゃよ」


「え?」


「何処だ?」


「な、何も無いように見えますけど……」


 目の前にはただ広い雪原が広がっている。てっきり何処かの森の中や洞窟とかを想像して居たけど、地下でもあるのかな?


「目の前にあります。私達はこれで生き残ってきたのです」


「どう言う事?」


 私達以外のチャンバー市の人達がそのまま歩いて行くと、ある所を境に姿が消えていく。


「消えた!? どーなってんだ?」


「こ、これは?」


 魔物除けの魔法具を使ってなんとかって言ってたけど、ただの魔法具にそんな力があるのかな。それだけじゃ無い気がする。


「とりあえず外に居ると目に付きますので中へ」


「分かった」


「お、おう」


 アーデルさんとデルガさんの後に続いて謎の空間へと入っていく。


「私達の仲間に魔法に長けた者がおりまして、視覚での情報を断っております。もちろん魔法具で魔物除けの効果も併用して魔物に見つかる事なく何とか生き延びている状況です」


 4千人もの人々を囲む程の範囲で、何日も持続してそんな結界を張る事ができる人。只者じゃ無いよね。少なくともSランク以上の力があるはず。そんな人が居るなら助けに行けないのかな?


「先ずここに住む者たちに皆様の事を紹介したいと思いますので、中央に来て頂いてもよろしいですか?」


「あぁ構わねぇよ」


 結界を張った人に会えるかもしれない。


「うん、大丈夫だよ」


 私達は中央に辿り着く間、生き残った人々の様子を伺いながら進む。

 本当に暮らしているだけなんだ。そう思った。家と呼ぶには程遠い、ものばかり。中には床に布を敷いてあるだけの人や道端に座り込んでピクリとも動かない人も居る。


「この辺りはまだ比較的軽傷の者や無傷の者を配置しております。中央に近い程重症な者がおります」


 説明された通り奥へ進むに連れて腕や足が折れてる人、包帯ぐるぐる巻きの寝たきりの人が増えていく。


「いやぁ! 死なないで、ヒル!」

「お母さん! 落ち着いて、もうこの子は死んでる。安らかに逝かせてやりな」


「痛ぇ! ゔぁああ!! クソォ!」

「ゔぉえっ」


「マジかよ……えげつねぇぜこりゃあ」


 目の前で息子が亡くなってしまう人。傷口が腐って痛みに耐える人。それに耐えられない人や何かの感染症かで吐き出す人。視界に入る全ての人達が同じ様に家族を亡くし、痛みや病気と闘っていて、見ている私達も正常では居られなくなる程凄惨な風景が広がっていた。


「む、無理かも知れません。私達ももしかしたら死んでしまうかも知れません。で、でもこんなのっ……あんまりです! や、やって見ませんか」


 ケーラは流れ落ちそうな涙を必死で堪えながらそう言った。


「お、俺からも頼むぜ。こんなの放っておけねぇよ。このまま自分が死ぬかも知れねぇなんて理由で、俺は見捨てられねぇ! シアンだって同じことを言うはずだぜ!」


 正直皆んなを守る事も自分が死なない自信も無い。でも。


「皆んな命賭ける覚悟はある?」


 

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