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SS虎君のお仕事

 SSのつもりが1話分の長さになってしまいました。


 個人的に虎君は結構お気に入りなので感情移入して書いてしまいました笑


 我輩は虎である。


 獣人族の中の虎人族、世間的には獣人やエルフなどを纏めて亜人と呼んでいる。


 私は虎人である事に誇りを持っている。獣族の中で最も強者であると自負している。


 そんな私にも名前はある。私の名はディアンだ。

 あの方達は私の事を虎君と呼ぶが虎と呼ばれる事に不満はない。虎人族なのだ、虎と呼ばれる事になんの不満があろうか。


 私があの方達と初めて会ったのは門番勤務をしていた時だった。


 あの時は死にかけの難民が迷い込んできたかと思ったが、まさかSランク並みの力を持った方だとは露知らず無礼な態度を取ってしまった。


 あの方々の強さが本物だと知った時は生きた心地がしなかった。今も思い出せば手が震えてくる。


 それからあの方々はAランクの依頼をあっさりとこなして来た。今では心からアルディ様一行を尊敬している。


 そんな私の目の前に彼の方が現れる。


「虎君!」


 突然の訪問に少し驚きつつもしっかりと挨拶をする。


「おはようございます。アルディ様。どうなさいましたか?」


 こうして会えば話し掛けて頂ける程には贔屓にして頂いていると思いたい。


「いやぁ、しばらくこの街に滞在する事になったんだけど、この街の貴族街を案内してくれないかなぁって。うちの仲間も貴族街には詳しくないみたいで……虎君はネット市の兵士だから詳しいだろ?」


 アルディ様の後ろにはエリーナ様と従魔、あの時のバケモ……ではなく、コア様が連なっていた。


「成る程、そう言う事でしたか。では説明させていただきます。貴族街と言うのはーー


「虎君、説明じゃなくて案内はできないかい?」


「案内ですか?」


「お願い! 私達は観光がしたいの」


「か、観光? ですか?」


 観光とはなんだろうか。


「観光とは何でしょうか?」


「あぁ、観光ってのは文化や特産品なんかを見たり感じたりして楽しむ事だよ」


「成る程……アルディ様方は変わった事をなさるのですね」


 観光。アルディ様の話からすると、貴族様方が行う外交や文化交流の様なものだろう。

 もしくは私達が周辺の村々に行う視察の様なものと考えていいだろう。


 通常この様な行為は仕事に当たるものだが……

 進んで仕事をしようとする人なんて普通はいない。誰かに仕えているわけでもあるまいし……


「ではこのディアンにお任せ下さい!」


「虎君。ディアンって言うのか?」


「虎さんにも名前があったんだね!」


 怒るところなのだろうか。この方々のノリは分からない。

 私にそんなことできるわけがない。


「はい、ですがいつも通り虎と呼んでくださっても構いません。虎人族に誇りを持っておりますので、虎と呼ばれる事は寧ろ喜びです」


「わかった! 名前も聞いてなくてごめんね?」


「いえ、それでは参りましょうか」


 アルディ様方はいずれ貴族の扱いを受けるだろう。そういう意味で貴族の世界を知りたいのかも知れない。


「しゅっぱぁあつ!」


 アルディ様が楽しそうだ。案内し甲斐がある。


「ここから概ね貴族街と呼ばれる辺りです」


 概ねと言ったのはきっちり貴族様と市民が分けられている訳ではないからだ。

 市民でも権力のある者や貴族様でも権力が弱い者がいて、この辺りはその両者が住んであるのだ。


「結構雰囲気違うんだなぁ」


「そうですね、もう少し奥の方に行けばもっと豪華になって行きます」


 ネット市は円形状の形をしており、中心から貴族街、商店街、民家、ギルドや兵舎となっている。外から魔物や敵国などが攻めて来たときに中の方が安全だからだ。


「貴族街に入ったのは初めてです」


 コア様はネット市に滞在していた事があるらしく、この街に詳しい様だが流石に貴族街にまでは足を踏み入れた事がない様だ。


「貴族街の物は高価なものばかりで、我々の様なものが手の出る物はありません」


「お金はもう尽きかけているから買い物は楽しめないか」


「いえ、私のアイテムボックスにまだ魔核が大量に入ってます! これだけでも結構な価値がありますよ?」


「魔核ですか? では一度換金なさってからにしますか?」


「そうだね、そうしようか!」


 その足でギルドまで行き、換金所でアルディ様がコア様のアイテムボックスから次々とコアを取り出していくのでその量に少し驚いたが、今更その程度では驚かない。我慢だ。


 Aランクの依頼をこなしてきたのだから当然の事だ。多分。


「結構な金額になったね〜」


「俺もこんなになるとは思わなかったよ」


「数が数ですし、Aランクの魔物の物も混ざってますからね」


 普通に話しているがかなり大金だ。貴族でも直ぐには動かせない額の。

 驚かないつもりだったがやはり無理だった。


 なんたって金貨3枚だ。1年間の私の給金近くある。

 こう見えて私はネット市の門番を任される兵士長なのだ。これでもかなり高給取りなのだが……


「それじゃあ虎君、もう一度案内よろしく!」


「お任せ下さい!」


 この国の貴族様方は亜人が多い。故にこのネット市の殆どが亜人ばかりなのだ。

 基本的に我々亜人は他の国では好かれない。奴隷といえば亜人と言うイメージが強いからだ。


 世界の人口的にも人種が1番多く、勢力がある為にこの様な形になっている。

 アルディ様やエリーナ様は亜人に対する偏見がまるで無い。そんな所も私がこの方々に信頼を寄せる理由の1つになっているのかも知れない。


「先ずはこれぞ貴族街! みたいなものなんかあるかな?」


「街の中心部に巨大な噴水広場があります」


「噴水!?」


「いいですね! ロマンチックです!」


 噴水広場と聞いてはしゃぐ姿はまるで普通の少女達だ。


 エリーナ様やコア様もまだまだ子供らしい所がある。尊敬もしているが放って置けない可愛らしさがあって、そんな所も私は好ましく思っている。


「今更だけど、貴族街に入る規制とかないの?」


「他の城下町や国は分かりませんが、ネット市ではその様な決まりはありせん」


 逆にアルディ様は年に似合わず落ち着いている。不思議な方だ。


「あ! 噴水!?」


「ほんとです!」


 大きめの煉瓦造のお屋敷を曲がると一際大きな石畳の通路が伸びていて、かなり前方に噴水が見える。いや、見えない。


 確かにこの先に噴水広場はあるが……

 徒歩1時間以上掛かる距離だ。見える筈がない。どんな視力をしているんだ。


「アル! 虎さん! 早く早く!」


 私はエリーナ様に手を引かれて急かされる。


「急がなくても噴水は逃げなーー


「パワー、スピードエンチャント!」


「ナイス! コア! クロ! 2人を押して!」


「うぉん!」


 体が急に軽くなり、続けてエリーナ様が何かの詠唱をし始める。


「そこまでする!?」


「ウィンドラン!」


 次の瞬間従魔に背中を押された後、更に何かに全身を押される。


「うぉ!?」


 気が付いたら体験した事がない程の速度で石畳の上を駆けていた。


「ちょっ……転ぶ! 転びます! あ、ちょっ」


 手を引かれているので止まることも許されず、更に加速していく。


「とうちゃーく!」


 滅茶苦茶だ。ここまで徒歩1時間以上掛かるのだが……僅か数分で着いた。


「し、死ぬかと思いました……」


「あはは! 楽しかったね!」


「スリル満点です!」


 道幅が広いから良いものの……


「やり過ぎだぞ?」


「ごめんなさい」


「すみません」


「よし。気を付けなさい」


 怖かったが何故かもう一回なんて思ってしまう私はおかしいのだろうか。


「虎さん! これが噴水広場!?」


「そうです」


「うわぁ……綺麗ですぅ」


 ここの噴水は大きい。直径約50mの円形で高さ5m程の塔を中心にいくつものアーチを水で作り上げている。


「こりゃあ、すごいな」


「毎日魔力を補充していくつもの魔晶石が使われております」


 この噴水広場は日中子供達や若者達で溢れている。

 突然猛スピードでやって来た私達に皆釘付けだがそんな事はこの方々にとっては大したことではない様だ。


「みて! 出店も出てるよ!」


 貴族街は基本的高価なものしか置いていないがこの広場だけは一般市民もよく来る為に安価な出店が出ているのだ。


 またエリーナ様に手を引かれて出店へと連れて行かれる。


「これは……?」


「ネット市ではよくあるフルーツパイですね」


「ネット市の近くには森や林があるからフルーツはよく採れるんですよ?」


「流石コア様。よくご存知ですね」


「へぇ、すみません。これ5つ下さい」


「はいよ! 1つ大銅貨3枚で全部で15枚だよ!」


「はい。お願いします」


「はいよ! 焼きたてだから美味しいよ!」


「はい、エリー、コア。それとクロも」


「うわぁ。美味しそう!」


「熱々ですねっ」


「うぁん!」


「はい、虎君も」


「え? 私ですか?」


「ほら、冷めちゃうよ」


「あ、ありがとうございます」


 なんて優しい方だ。

 アルディ様方と食べたフルーツパイはいつもより美味しく感じた。


 それから1番大きな屋敷を見に行ったり、変わった形のお屋敷などを回って、今は高級なお店の数々を回っているところだ。


「見てみて! 可愛い?」


「いいんじゃないかな? 俺は前の方が好きだったけどな」


「じゃあ前のにする!」


「アルさん! 私のはどうですか?」


「露出し過ぎだろ」


「それだけですか!?」


 見ての通りファッションショーの開催最中だ。


 おっこのマントなかなか……

 げっ銀貨30枚!? 流石貴族街……


「そのマントが気に入ったのかい?」


「い、いえ! 私にはとても……」


「そっかぁ似合うと思ったけどなぁ」


「おまたせ!」


「お待たせしましたぁ!」


「買って来たのか?」


「うん!」


「はい!」


「よし。じゃあ最後に酒が買える所はあるかな?」


「はい! 御座いますよ!」


 私達は次の店へ向かう為に店を出る。


「あ、ちょっと先に行ってて! 忘れ物しちゃった」


「はい、分かりました。ゆっくり向かっておりますのでご安心を!」


「はーい」


「気をつけて下さいね!」


 と言っても酒屋は目と鼻の先なので店の前で待っていよう。すぐに分かるだろう。


「ここです」


「ちかっ」


「ここならアルさんも直ぐに分かりますね」


「お待たせ!」


「お帰り〜」


「ここではちょっと知り合いにお土産を買いたいだけだから待っててくれていいよ」


「ドヴァーリさん?」


「そうだよ」


 アルディ様は直ぐに酒を買ったようで数分で店から出て来た。


「よし、もう帰ろうか」


「もう夕暮れだね」


「ほんとですねこんなに時間が経っていたなんてびっくりです」


 夕方? いつのまにか陽が傾き空がオレンジ色になっていた。


 私が思っていた観光とはまるで異なり、時がたつのも忘れてしまう程楽しいものだった。


「観光とは楽しいものだったのですね」


「楽しいさ! 虎君にとってはいつもの街だったかも知れないけど、全く知らない土地でこうしてみんなで美味しいものを食べたり飲んだりしながら色々なものを見る。これが観光だよ」


「それは、楽しそうですね」


 纏まった休暇が取れた時にアルディ様に別の街を案内して欲しいと頼んだら、またこうして観光をしてくれるだろうか……


「はい、これ」


「これは?」


 アルディ様が何か布を渡して……

 この深緑色、それにこの生地。


「これはっ」


「お礼だよ。今日1日街を案内してくれたんだ。ほんの気持ちだよ」


「ありがとう! 虎さん」


「ありがとうございます! また案内して下さいね」


「そ、そんな……こんなに高いもの頂けません!」


「もう買ってしまったし、サイズ的にも虎君しか使えないし、もらって欲しいなぁ」


「いんじゃない? アルがあげるっていてるんだから」


「要らないなら私が貰いますよ!?」


「ほら、コアに取られちゃう前にさ」


「分かりました。一生大事に使わせて頂きます!」


「大袈裟だなぁ」


「あはは! よかったね。虎さん」


 今度アルディ様に観光を頼む時までにお金を貯めて私からも何かお返ししよう。

 楽しみだ。


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