15林のダンジョン10
魔王マモンが放った瘴気によって俺達の勝敗はほぼ決してしまった。
【呪】効果はよく分からないが、先ず動けない。それに胸が苦しい。まるで心臓を鷲掴みにされているかの様だ。言葉すら発せない程に。
それがどんどん強くなっていくのが分かる。このままでは数分と持たない。
「おいおい。これで終わりだなんて言わないよねぇ?」
「くっごふっ」
言葉が出せない。
「呆気ない。実に呆気ない。この程度の力では魔神様の脅威となるはずも無い」
俺は少ない可能性に僅かな望みを掛けてホーリーライトを掛けてみる。
辺りに神々しい光が放たれる。
やはり何も起きない。
予想どうり、闇魔法ではない様だ。
「無駄だよ。これは魔王の魔法。本来魔法は魔族が作ったものなのだ。貴様らは知るはずのない原始魔法と呼ばれる部類なのだ」
もしかしたら。そんな気持ちでパラメータを発動して、スキルを確認する。
あった。
【原始魔法初級】【原始魔法耐性】
直ぐに両方ともマスターさせる。
何も起こらない。
掛かってしまった後では意味が無いのだろうか。
脳裏に新しい魔法が浮かぶ。
無詠唱で俺はそれを発動する。
【抑呪】
呪を抑える。
殆ど効果は見られない。多少進行が遅れた気がする程度だ。
「なに!? バカな! 原始魔法だと? ……驚いたな。いつの間に【原始魔法初級】を手に入れたのだ。だが、そんな初級程度でどうにかなるものではない」
俺の目的はそこじゃない。
直ぐにステータスから【原始魔法中級】をアクティベート、マスターさせる。
【減呪】
呪を減らす。
呪いの進行が止まり、緩やかに回復していく。
「ん? 何をした!?」
マモンが此方へ向かってくる。
こんな状態で攻撃をされたら……
急いで【原始魔法上級】をアクティベート、マスター。
【解呪】
呪を完全に解く。
呪いが消失する。
「ーーおのれ!」
マモンから放たれる拳を剣で受け止める。拳は何かに覆われているようで、剣を殴った程度で傷つく様子はない。
〝ガキンッ〟
甲高い音と共に剣はいとも簡単に折れ、俺自身も遥か後方に吹き飛ばされる。
「うぉあ!」
何とかフライの魔法で空中で体勢を整える事に成功する。
直ぐに全員、解呪しなければ全員死んでしまう。
その為か俺は焦っていた。
「はぁああ!」
折れた剣はその場に置いてマモンへ突進。
と見せかけてみんなの元へ!
「分かりやすい奴だ」
マモンは殆ど体動を見せず、少しだけ足を動かす。
〝ズターン〟
足を引っ掛けられて、俺は恥ずかしいくらいに盛大に転んでしまった。
今は恥ずかしがってる場合でも、アイツの相手をしている場合でもない。
兎に角皆んなを解呪しなければ。
解呪は触れていなければ効果がない。皆んなの元へ行かなければ。
今の俺の頭にはそれしか無かった。
「だぁあああ!」
今度は足も掛けられないくらい高く飛んでやる。
マモンの目の前で大きく跳躍する。
「バカなのか?」
「くそ! 本気で跳んだのに!」
足を掴まれ、皆んなと反対方向へ投げ飛ばされる。
時間が、無い。
気持ちはどんどん焦っていく。
「舐めるなぁああ!」
ドラゴンフレア。
炎の上級魔法だ。
連打。連打連打連打連打。
目の前が紅蓮に染まる。肌が痛い程熱い。
「アブソリュートゼロ!」
水魔法を性質変化で氷魔法にし、更に上級魔法だ。
「温度変化で腐ってろ!」
俺がしたかったのは急激な熱疲労だ。
今なら効いていようがいまいが、目くらまし程度にはなる筈だ。
「っしゃああ!」
ウィンドラン全開で走り出す。
「なかなかいい攻撃だった」
「っな」
最初の攻撃の様に顔を剛拳で殴り飛ばされる。
痛い。地面に減り込み、バウンド。
そのまま踵落としで止めだと言わんばかりの威力。
〝ズガァァン!!〟
地面に巨大なクレーターが出来上がる。
「ぐはっあ」
衝撃で内臓が全て口から出そうだ。
【逆境】のスキルでステータス補正がなかったら今頃何度死んでいた事だろう。
それでも俺は諦めない。
「しなせ、ない」
「今ので死ななかった事は褒めてやる。お前には驚かされてばかりだな。原始魔法のスキルを急に覚え、そのステータス以上身体能力」
コイツはスキルの内容までは知らないのか……
そんな事もう関係ないか。
今の俺にできる事は全てやった。
だからって諦めるわけにはいかない!
「絶対に、死なせない!」
もう、闇雲に突っ込む事くらいしか考えられない。
突っ込んでは殴り飛ばされ、突っ込んでは蹴り飛ばされる。
ガリガリ体力ゲージが削られていく。
ここで死んでしまうのか……
エリー……苦しそうにする力すら残っていない様で、ぐったりしている。
コア……エリーよりはまだマシなのか、僅かにもがいている。
クロ……やっぱり男だな。苦しい筈なのに、必死に立ち上がろうとしては崩れ、また立ち上がろうとしている。まだ、闘おうとしているんだ。
約束したんだ。皆んな無事に帰えると、約束したんだ。
くそ、失いたくない。
誰も、死んで欲しくない。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ!
ーーー
「全部自分が守らなきゃとか思ってた?」
「心外です」
「勿論アル程強いとは思ってないしそこまで自惚れてない。でも、私はアルと対等で居たい」
ーーー
こんな時にエリー達との会話を思い出す。
仲間。そうだ。
仲間なんだ。頼っていい。
そう思った瞬間俺は叫んでいた。
「クロ!! 一瞬でいい! 奴の気をそらせ! エリー、コア!1メートルでもいい! 俺に近付け!」
「グル……ァァウ」
「か、ふぅ」
「そ、れ……くらい……」
ふらふらと、今にも倒れそうな程覚束ない足で立ち上がる。
「ふはははっ! 笑わせるな。立つ事すらできん奴らに何ができる。寧ろもう死んでるかもしれんぞ!」
マモンは気付いていない。
背後で3人とも立ち上がっている事に。
ガクガクと痙攣する足を必死に踏み締めてクロが走り出す。
「なに!?」
と同時に俺も走り出す。
「バカが! 死に急ぐとは!」
バカはお前だ。
「しまった!」
マモンが此方に気が付いて跳んで来る。
エリーとコアが殆ど倒れ込む様に此方へ手を伸ばす。
俺も2人へ飛び込む様に両手を伸ばす。
手が……
届いた!
「解呪!」
エリーとコアの呪いが消える。
「ちぃ!」
追ってきたマモンへクロが何とか追撃を阻止しようと飛び掛かる。
〝ズン!〟
「邪魔をするな」
「っ」
「あっ」
「えっ」
2人を解呪した後、クロの援護をしようと振り向いた俺達の目に映ったのは、胴体を拳が貫いたシルエットだった。
「クロォオオ!!」
「そんな!」
「クロ……ちゃん」
速攻でクロの元へ駆け抜ける。
エリーとコアのアシストでマモンの攻撃は俺へ届かない。
「ヒューッヒューッ」
生きてる。
「待ってろ!」
最初に解呪でクロの呪いを解く。
「飲めるか?」
クロの口にポーションを流し込む。
「飲めよ!」
ポーションは一滴も飲み込まれる事なく地面へ流れ落ちる。
「ヒューッヒューッ」
「クロ!」
地面が血に染まっていく。
「何をしたところで手遅れだ」
気がつくとエリーとコアが地面に転がっていた。大丈夫、息はしている。
今、目の前に居るのは当然マモンだ。
「うるさい!」
「救えるものなら救ってみろ。転生者よ」
「クロ、クロ! しっかりしろ」
俺のせいか。でもクロがやってくれなきゃ確実にエリーもコアも死んでいた。
「クロ……」
「クロちゃん……」
のたうち回りながらクロへ声を掛けるエリーとコア。
俺はこの現状を奈々の最後と被らせていた。
「まぁいい。その犬を看取っている間に、あの女どもを殺してやろう」
「うぁああああ!」
どうする!
どうすればいい!?
どちらも救いたい。
「私達は大丈夫」
「クロちゃんを助けるまで、持たせてみせます!」
「お前ら……」
「早くクロを助けてよ!!」
「そうです!!」
今は2人を信じるしかない。
俺はクロを助ける。
どうやって?
俺に何ができる。
スキル……回復魔法なんてない。
攻撃魔法と原始魔法……
原始魔法?
「増殖……」
イメージだ。細胞が増えていくイメージ。
「構築……」
細胞が皮膚っぽくなるイメージ。
良いぞ、なんかできてる。
「連結!」
皮膚の様な、皮のようなものをクロの傷口と連結させる。
「それは……ホムンクルスを作る魔法! 原始魔法を完全に使いこなすか!」
何とかクロの傷は塞ぐことができた。
けど塞いだだけだ。
「まぁいい。その犬を救った所で何も変わらん!」
「きゃあ!」
「きゃっ!」
2人は蹴りの風圧で押し倒される。
「アースグラビレイ。闇の魔法で押し潰されて死ぬが良い」
瞬間、2人の周囲が陥没する。
「ぐっ」
「がふっ」
2人が声にならない声やら鼻血やらを出しながら地面にめり込んで行く。
「何しやがる!」
俺が飛び出そうとした瞬間、マモンが口を開く。
「いいのか? お前がそこを離れたら、その犬も殺すぞ?」
「くっ」
どんどん2人が地面に沈んでいく。
2人とももう気絶してしまっている。
これでは呪いから重力に変わっただけじゃないか!
詰みだ。、クロと言う人質がある以上、さっきよりも不利……
どうするっ!
どうしようもないのかと1人考える。
〝バチン〟
何かが切れる音がした。




