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9林のダンジョン4


 俺達は交代で見張りをしながら結構な時間の睡眠を取った。


「身体が重いな……」


 俺は全員がまだ眠る中で1人呟いた。


 何日も連続で硬い地面で寝て、この部屋には魔物は出ないと言っても安心は出来ず、身体的にも精神的にもかなりの疲労が溜まってきている。

 それはきっとエリーやコアも同じ事だろう。クロは本来そういう世界で生きていくものだから意外と平気なのかもしれないが、人間はそうもいかないのだ。


「いたたたっ背中も腰も痛くてゆっくり眠れないや」


 エリーも長時間眠ることが出来ない位にまでなっている。


 此処の地面が弄れるのならせめて土に変えるくらいの魔法は使えるがそれすら許されない。


「ごめんごめん、俺の独り言で起こしちゃった?」


「うんん?大丈夫だよ」


 コアとクロが眠るなか静かな大部屋に2人の声が木霊する。


 コアはクロと同類なのだろうか、亜人なので動物に近いのかもしれない。それでもだんだん疲れが溜まっているのは分かる。


 早い段階で何か対策を考えなければならないだろう。


「ここに来てもう何日目かな? もしかしたらそろそろこのダンジョンも制覇できたりして」


「どうかな、3、4日くらいだと思うけど、日が登らないところにいると日にち感覚も狂ってくるな。ダンジョンに関しては流石にそんな簡単にはいかないと思うけど……」


 日にち感覚が狂う。実はこれがなかなか精神的にくるものがある。一体どれだけ経っただろう。まだ続くのか。ゴールの見えないマラソン程過酷なものはないのだ。


 とは言え進まなければゴールに辿り着けない。


「そろそろ、行くか?」


「うん、もう寝られそうにないし」


「うぉん」


 クロは目が覚めていた様だ。


「起きてたのか? 起こしたのか。悪かったな」


「うぁん」


「クロ、コアを起こしてくれ」


 クロがコアの頬を舐めて起こす。


「ふふふ、あははは、コアちゃんくすぐったいですよぉ」


「よく眠れたか?」


「アルさん、おはようございます」


「おはよう、コア」


「おはよう。そろそろ行こうかと思うんだが行けそうか?」


「はいっ」


 俺達は休憩に使った物の後始末をして準備を整える。


「よし、忘れ物は無いな」


「大丈夫です」


「ないよ」


「うぉん!」


 この大部屋に入って来た時と反対側の横穴へ入る。


「今の所、何もないけど油断するなよ」


「了解です」


「うん」


「グルォウ」


 暫く歩いてみたが特に何もない。


「あれ? また大部屋?」


「戻って来たの?」


「そんな、一本道でしたよ?」


 俺達はまた大部屋まで戻って来てしまったみたいだ。


「グルルルッ」


「どうした、クロ」


 何かに気付いたのか後傾姿勢で身構える。


「違います! 私達、戻っきてなんかいません!」


「クロ?」


「ガゥォオオオンッ」


 腰が引けてしまう程の雄叫びを浴びせられる。


「くっ……うっ」


「きゃっ……」


 目の前に居たのはクロと瓜二つの魔物。

 体長3メートル程の身体に真っ黒な毛並み。クロと同じ顔をしたそれは、クロと対照的にクールに此方を見ているが、挑発の様にも取れる態度だ。


「あれは……」


「グルルッ」


「知ってるの? クロ!」


 エリーがクロに問いかける。


 もしかしたらクロはダンジョン出身の魔物かも知れないと思った事があった。

 転生者だからと深く考えて居なかったが、あくまで転生。生みの親がいるはず……


「クロ、あそこにいるのは親か?」


「……」


 返事が無い。違うのか?


「じゃあ兄弟?」


「グァウ」


 兄弟だったのか。


 そう言えば魔物の生まれ方を聞いたことがあったな。

 この流れからしてクロはダンジョンによって生まれた魔物なのだろう。その時、先に生まれたのか後に生まれたのか。

 目の前のコイツがいるわけだ。


 じゃあコイツも転生者か?


 確認が必要だな。もし転生者なら魔神を倒す協力をしてくれるかもしれないからね。


 疑問は多いが明らかな臨戦態勢の今、ゆっくり考える時間は無い。


「グルルルルルッ」


 明らかに兄弟との再会を喜んでる感じでは無い。


〝ザシュ〟


 先程までクロに似た魔物がいた場所で地面が軽く抉れて奥へ飛んでいた。


「ギャィンッ」


「クロ!」


「え?」


 一瞬。


 瞬きをする暇もなかった。


 その場に居た全員。


 何が起こったか分かっていない。


 いや、クロだけは微かに反応して致命傷を避けていた。


「大丈夫か!? クロ!」


 フェンリルに左頬を引っ掻かれた様で流血している。


 ここまで大きい魔物だと引っ掻くと言うより斧でも叩きつけたと言った方が正しいのではないかと思う。


「グルォ……」


「ガルルルルッ」


 フェンリルが後傾姿勢を取る。


 来るっ!


 明らかに狙いはクロ。狙う所が分かっていれば!


〝ザシュ〟


〝ギィン!〟


 2度目で先程より多少目が慣れた事と、来る場所さえ分かればやってやれない事はない。


 ここで俺はチャンスとばかりにパラメータで相手のスキル情報を覗き見たが、どのスキルもマスターしていなかったし、変わったスキルも無かった。


 とりあえず転生者でない事だけは分かった。


「グルォウ!」


「クロ!?」


 クロが初めて俺に本気で吠える。


「邪魔するなとでも言っているのか?」


「グルゥ」


「お前1人でやるのか」


「グルゥ」


「そんなのだめだよ!」


「無茶です! あのスピードを見ましたよね!? 異常です!」


「本気、なのか?」


「グルォウ」


「絶対、死ぬな。それだけは許さないからな」


「グルォウ!!」


「アル!」


「アルさん!」


「しょうがない。クロも男だからな」


「意味わかんない」


 やはりどの世界でも男の気持ちは女には分からないのだろうか。


「いいから邪魔するなよ」


「分かった」


「私には分かりますよ」


 雄同士の闘いでもあるのかな?


「グルガゥ」


 一直線にフェンリルへ走り抜けるクロ。


 その速度は相当だがフェンリルには一歩及ばない。


 華麗に跳躍で避ける。


 その勢いを活かして後ろ足でクロの胴体を蹴りつける。


「なんて反射神経してるんだ」


「ギャィンッ」


 直ぐに体勢を立て直す。


 今度は横から攻める。


 地をジグザグに蹴り攻めていく。


 今度は前に避けて胴体を蹴りつける。


「ギャゥン」


 クロは諦めない。


 真っ直ぐに突っ込んで急ブレーキ。


 直前で後ろへ跳ぶ。所謂バク宙だ。


 それをフェイントに使うつもりだったのだろう。


 しかし、クロは空中から地面へ叩きつけられる。


「ギャフッ」


 基礎能力が違い過ぎる。


 何度も蹴られても、叩きつけられてもクロは諦めない。


「ルァアオオオオオオオオオオウ」


 更に雄叫びで自分を奮い立たせる。


 最初に違和感に気付いたのは俺だった。


「なんかアイツ手加減してないか?」


 アイツとはフェンリルの事だ。


「そうですか? 一方的に見えますけど……」


「全然見えない」


「だからだ、あれだけ力の差があればもっと簡単に仕留められるはずだ」


「確かに!」


「そ、そうですね」


 やっと俺の言いたい事に気が付いたようだ。


 そう、フェンリル明らかに手加減している。

 雰囲気からして遊んでいる訳では無い。


「なにか、教えてる?」


「みたいに見えます、ね」


〝ザシュ〟


 なんの小細工もなくクロはフェンリルに向かって行く。


 速いっ!


「ガルォウッ!!」


 クロの胸辺りを噛んで投げる用に吹き飛ばす。


「やっぱりっ」


 今のもそうだ。やろうと思えば首を噛みちぎれば良かったのだ。


〝ザシュ〟


 またクロはフェンリルへ跳ぶ。


「さっきより速いです!」


 だんだんクロの速度が上がっていく。


 これでもまだギリギリフェンリルの方が速いくらいか。


「ガルォウッ」


 またクロは飛ばされてしまう。


「グルァウ!」


〝ザシュ〟


「またっ!」


 まだ速度が上がる。


 スポーツで言う所のフォームとでも言うのか、身体の使い方が初めと違う気がする。


「もしかしてアイツはこれを……」


「ガルォウッ」


 それでもフェンリルには通じない。


 また吹き飛ばされたクロの胸は血だらけだった。


 いくら手加減しているといってもこれだけ攻撃を受けたら流石にそうなる。


「ハッハッハッ」


 息も絶え絶えだ。


「頑張って!!」


「クロちゃん!」


「クロ!」



「グルァウオオオオオオオオウ!!」



 大気に振動が伝わり、肌までピリピリする程激しい。


〝ザシュッ〟


「え、」


「はっ」


「速い!!」


 明らかに初めのフェンリルより速い。


「グルァウ!」


 クロは喉元へ食いついて離さない。


 自分の最速を越えてきたクロを、喉元に食らいつかれても尚、抵抗するどころか優しい顔で見つめていた。


 勿論狼である彼らの表情なんて分からないが、そう見えてしまったのだ。


「今、笑って……」


「そうです。絶対」


 そう感じたのは俺だけでは無いようだ。


「ガルォ」


 そうしてフェンリルはクロの首に優しく噛み付いた。

 側から見たら首を噛み合って何かを誓い合う狼だった。


「うわぁ」


「キレイ、です」


「すげぇな」


 フェンリルとクロを白い光が包み込む。


 それはまるで蛍の光、大粒の雪。白い妖精達に祝福でもされているかのようだ。


「ガルォ……」


「グルォ」


 フェンリルはそのままクロに吸い込まれるように消えた。


「グルォオオオオオウ……」


 何故か悲しい気持ちになったのは俺だけだろうか。


「うぅっクロ……」


「クロさんっ……ずずっ……きっとあれはお兄さんだったんです」


「そうね……生き別れてしまったけど、覚えてた。幸せなクロを見て、本当の野生の力を教えてあげたかったんだっ」


 なんだか勝手な妄想が膨らんでいるようだが、概ねそんな感じだろう。


 細かいところは違うかも知れないけどね。


「グルォウ」


「お疲れ様ですっ」


「頑張ったね!」


「ったく、信じてたぞ」



「グルォウ!」



 クロは確かに笑っていた。


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