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(6)

 地下のバーの扉を開くと、いつもの席に腰掛けたシュウとその前でグラスを磨く悠花の姿があった。シュウは店内に踏み入れた聖に気付くと、その白い顔に笑みを浮かべた。



「急に呼び出して悪いね」



 先ほど佐脇と別れた直後、聖の携帯電話が鳴った。呼び出し音に出ると、掛けてきた張本人であるシュウが、今からバーに顔を出してほしいと言ったのだ。本当はさっさと帰宅して休みたいところだったが、シュウの願いを無下に断ることもできず、聖は七菜を自宅に送り届けてからこのバーにやって来たのだった。


 聖は促されるままシュウの隣に座ると、悠花に出された水に口をつける。喉を潤した聖はシュウへ尋ねた。



「どうされたんですか?」


「ちょっとね」



 言いながら、シュウは自分の傍らに置いていた物を聖に差し出す。



「これを渡そうと思って」


「これは?」


「お守り。悠花さんからのプレゼントだよ」



 聖の掌に置かれたのは、白い生地で作られたお守りだった。聖が思わず悠花の顔を見れば、彼女は穏やかな微笑を浮かべる。



「魔研は色々と危険な場所だと聞きましたから」


「そう、ですかね……?」



 確かに以前聖も魔研は危険な仕事が舞い込むと話を聞いていた。魔術師を相手にする機関だ。それが当然のことかもしれない。しかし聖は今まで一度も危険な仕事に就いたことはなかった。それでも悠花の心遣いに、自然と聖の顔が綻んだ。



「でも嬉しいです。ありがとうございます」


「どういたしまして」



 お守りをポケットに仕舞うと、聖はシュウの横顔を見た。ゆっくりとグラスを煽るその横顔を見つめたまま、聖は口を開く。



「あの、シュウさん」


「なに?」


「三年前の事件ですけど……」


「うん」


「……あの事件の犯人って志賀咲哉だと思いますか?」



 シュウはそっとグラスをテーブルに戻す。彼は心の読めない、やわらかな微笑を聖に向けた。



「何か聞いたのかな?」


「……安道さんが志賀咲哉は犯人ではないと言っていたと聞きました」


「そうだったね」



 その一言から、聖はシュウが小町のことを知っていることを確信した。


 シュウはグラスに視線を落とした。透明のグラスの中の、琥珀色の液体が揺れている。それを眺めたまま、彼が続けた。



「僕には彼女の証明した解析方法はできないから、彼女の訴えが真実かは分からない。なにせ、僕は魔術師ではないからね」


「……」


「でも、僕は志賀咲哉が犯人ではないと思うよ」


「……」


「なにせ、証明したのはあの安道小町だから。それに、」



 顔を上げたシュウが聖を見た。重なった瞳からは彼の感情は分からない。


 だが。



「僕は咲哉を信じているからね」



 そう告げた彼の言葉に嘘はないように、聖は感じた。



「でも……」



 ふと頭を過った疑問。それに聖はグラスを強く握り締める。



「もし志賀さんが犯人ではないのなら……真犯人は誰なんでしょうか?」


「僕には分からない」



 穏やかな声でシュウは首を左右に振る。そして彼は言った。



「それを知るために、城戸君は魔研に入ったんだろう?」



 聖はシュウを見る。その胸に滾る熱を感じながら、彼は強く唇を引き締めた。



「僕も、悠花さんも。君のことを応援しているよ」



 背中を押すようなシュウの言葉に、悠花も首肯する。


 決意を胸に、聖は強く頷いた。


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