プロローグ7:協力しあう兄妹
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9/28加筆、修正しました
「リリィ黒ノ栖。今日よりお前を鷹の位とする。今日の武術の試練での動きは見事だった。お前は勉学の方は元々優れていたからな。この調子で文武共に高みを目指し、最後の昇位式では獅子の位まで登り詰めてみせろ」
「はい!これからも上を見据えて頑張っていきます!」
「そして黒ノ栖真白。今日よりお前を獅子の位とする。遂にここまで来たか。これからの鍛練も今以上に精進し励めよ」
「はい!慎んでお受けします!」
俺とリリィはこの日。昇位式で結果を出し、父さんに獅子の位に昇位した事を告げられ、獅子の姿を象った軍人の人が着けていそうな勲章を授与された。そして勲章を渡した俺に父さんは頬を吊り上げて凶悪な笑みを浮かべながら俺に聞いてきた。
「ところで真白。お前に足りないものは見つかったか?」
そう聞いてきた父さんに対して俺はあいかわらずの父さんの迫力に気圧されながらも、
「いえ.....まだ見つかってません.....」
それを聞いた父さんは何故か上機嫌な様子で笑っていた。
「ククク.....そうかまあ精々励め。私が期待するものを見せてくれるのを心待ちにしているぞ」
それだけ言い残すと父さんは立ち去っていった。
そんな底知れない凄みを感じさせる父さんが立ち上げた計画。
黒ノ栖勇一郎が後継者を自らで育てる為に集め、子供達を鍛える為の学園。
黒ノ栖学園に来て2年と半年程経った昇位式。はっきり言ってここまでくるのは並大抵の事じゃなかった。
正直ここでの生活は異常だった。俺はよく今まで追い出される事なくここにいる事が出来たと思う。
まずは武道だ。武道では剣術、槍術、空手、等言ってはキリがない程の武術、様々な流派の物を毎日日替りで行っていた。武術の種類だけでも多いのにそこに様々な流派の動きまで覚えなくてはいけない。型、体の動き、それを踏まえての相手との試合。毎日汗だくになりながら日々鍛練し、体に徹底的に覚えさせていく。初めの頃はこの日々の武術の鍛練でクタクタになり、帰って泥の様に眠っていた。だけどここでするのは武術の鍛練だけじゃない。
勉学だ。そして俺が1番頭を悩ませていたのもこっちの方だった。
ここでの勉学は大学の様な形式で自分で授業を選んでそれを受講していくもので、最終的に獅子の位まで上り詰める為には、一流大学を主席で卒業する程度の学力が必要になるらしい。俺も最初のうちは必死に夜遅くまで勉強して頑張っていたけど、武術の鍛練でヘトヘトになっていたのに加えて、俺の場合小学校卒業程度の学力しかなかった。それは当たり前の事だった。小学校卒業したばかりだったんだから。そしてそんな俺は覚える事が膨大過ぎて全然ついていけず頭を悩ませていた。そんな俺を助けてくれたのはリリィだった。
◆◆◆◆◆
「ダメだ。全然わからん」
俺がここで生活を始めてすぐの頃。自分の部屋の机の上で勉強しながらその問題の難しさに頭を抱えていた。
俺は一緒に授業を受けている他の兄弟達に教えてもらおうと皆にお願いしてみたけど皆態度が冷たく、誰も教えてくれなかった。俺が、これからどうしよう?ここでやっていけるのか俺は?と先が全く見えない今の状況に不安でいると、部屋の外が騒がしい事に気がついた。
「なんだ?誰か喧嘩でもしてるのか?」
俺は外の様子が気になり扉を開けてみると、そこにはレビィとリリィが取っ組み合いながらケンカをしていた。
「2人とも俺の部屋の前でなにしてんの?」
俺がそう聞くと、リリィが顔を真っ赤にしながら慌て出した。
「真白お兄ちゃんどうしてここに!?」
「どうしてってここ俺の部屋だし.....」
俺は混乱しているリリィに、当たり前の事を答えるとリリィは手で顔を覆ってしゃがみこんだ。そしてしばらくした後、レビィが手を引っ張って無理矢理立たせると何やらリリィの様子がおかしかった。
「リリィ何だかボーッとしてるけどどうしたの?」
「リリィなにニヤニヤしてんだよ気持ち悪い」
俺とレビィがそう話しかけると、リリィは焦点のあっていなかった目に光を取り戻してレビィに言い返していた。
「に、ニヤニヤなんかしてないよ!レビィは武術の鍛練行くんでしょ!?早くいきなよ!」
そう言ってケンカしながらリリィはレビィの背中をグイグイ押して鍛練場に続く階段の方まで押していき、2人の姿が見えなくなった直後にレビィの叫び声が聞こえ、そしてそのすぐ後にリリィが妙にスッキリした顔で俺の方にやって来た。
「リリィ。なんかレビィ物凄い叫んでたけど大丈夫?」
「全然大丈夫です。何も問題ありません」
俺がレビィの事が心配になりリリィに聞いてみたけど満面の笑みでそう答えてくれた。
「ま、まあリリィがそういうならいいけど。ところで俺に何か用かな?」
俺がそう聞くとさっきまであんなに元気にレビィとケンカをしていたリリィが、指をモジモジさせながら何故か申し訳なさそうな顔をしだした。
「えっと.....真白お兄ちゃんに相談したいことがあって.....」
リリィはそう言うと俯いて黙ってしまった。
「まあ立ち話もなんだから入りなよ」
そういって俺はリリィを部屋に入るように促す。
「お、お邪魔します」
そしてリリィは恐る恐る俺の部屋に入ってきた。
「じゃあお茶でも用意するからちょっと待ってて」
「そ、そんな悪いですよぉ!」
「いやいやお茶ぐらい用意させてよ。それくらいしかないんだから」
そう言って俺は台所でお茶を用意して戻ってくると、リリィは顔を赤く染めながら両手で体を抱きしめなんだか幸せそうな顔をしていた。
「リリィどうしたの?そんなに体抱きしめて?もしかして寒い?暖房いれようか?」
「い、いえ大丈夫です!むしろ熱いくらいです!」
そう言ってリリィは顔を更に赤らめてしまった。そして何かを誤魔化すように早口で喋りだした。
「そ、そういえば真白お兄ちゃんは部屋の模様替えはしないんですか?」
「模様替え?」
「はい。他のお兄ちゃん達もあちこちの国からいらしてますからね。やっぱり和室では落ち着かない方もいるみたいですから。私達の部屋も洋室に模様替えしましたし」
「そうなんだ。そんな事もできるんだね」
「はい。父様からもらえるお小遣いでしました」
「なるほど。まあ俺は日本人だし別に和室でも全然問題ないけどね。それに俺まだ鹿の位だから部屋を模様替えする程お小遣いもらえてないしね」
「まあ私も鹿の位でお小遣い少ないですからお金を出したのは殆どレビィなんですけどね.....」
そう言うと俺とリリィの目から光が失われ、ガックリ肩を落とした。
「そっか。でもありがとうリリィ。教えてくれて。もしもう少しお小遣いがたまったら考えてみるよ。所でリリィは俺に相談したい事があるって言ってたけど?」
「あ、はい、実はですね.....真白お兄ちゃんに武術の鍛練を一緒にやって頂けないかと思いまして.....」
「レビィは教えてくれないの?」
「レビィも教えてはくれるんですけど、とにかく人にものを教えるのがヘタで.....」
(あ~そんな事もいってたな。)
「俺でよければ全然いいよ。ちゃんと教えられるか分からないけど。そのかわりといっちゃなんだけど俺からもお願いがあるんだけどいいかな?」
「なんですか?」
「お願い!勉強の方を少し俺に教えてくれないかな?レビィがリリィの事頭いいって言ってたからさ」
俺は年下のリリィにお願いするのはどうかと思ったがそんなことを言ってられなかった。俺は両手を合わしてリリィに必死にお願いした。
「や、やめてください~!そ、そんな事ないですよぉ私でよければお教えしますから頭を上げてください~!」
そう言ってリリィは手を振ってアワアワしていた。
「ホントに!?助かるよリリィ。ホントに1人じゃ全然分からなくて困ってたんだ。ありがとうねリリィ」
そうして俺がリリィに笑顔を向けるとリリィは頬をピンクに染めてこちらこそお願いしますと笑顔を向けてくれた。こうして2人で俺はリリィに武術を、リリィは俺に勉強を教え合う日々が始まった。
「そうそう足運びはそれでいいよ。それで腕の向きは.....そうだねいいよ。リリィすごいよ!全然ダメなんかじゃないよバッチリ出来てるよ!」
俺がそう言ってリリィの頭を撫でてやるとリリィが顔を真っ赤に染めてやっぱり真白お兄ちゃんのナデナデは最高ですぅと小声で呟いていた。
「それにしてもリリィ全然ホントに駄目じゃないよ。俺が教える事がないくらいだよ」
「ありがとうございます。.....でもダメなんです真白お兄ちゃんとなら平気なんですけど他のお兄ちゃん達と手合わせする時になると体が動かなくなるんです.....」
「理由.....聞いてもいいかな?」
「はい.....」
そしてリリィの口から語られたのはここに来る前の両親、リリィの生みの親に虐待されていた事だった。そしてその時の事がトラウマになって男の人を前にすると体が動かなくなり、今までまともに稽古ができなかったらしい。そのリリィの話を聞いて納得はしたのだが、今の現状の矛盾に気がついた。
「あれ?でもだったらどうして俺としてる時は平気なの?俺が女みたいな顔してるからかな。ははは.....」
俺がちょっと気にしてる事を自分で指摘して力なく笑った。
「ち、違います!理由は.....私にも分かりません.....根拠はないんですけど.....初めて真白お兄ちゃんを見た時から何故だかこの人優しそうだな、この人なら大丈夫かなって思えたんです。」
「そっか.....まあ僕はリリィと仲良くする事が出来て嬉しいけどね」
そういってリリィの頭を撫でてやる。
「みゃぁ~!やっぱり真白お兄ちゃんのナデナデは最強ですぅ」
そうやってリリィは猫の鳴き声の様な声を出しながら頬を赤らめて幸せそうな顔をしていて本当にリリィは可愛いなと思った。
「それじゃあこれから少しずつ男の人に慣れていこうか。俺とは.....大丈夫みたいだから他の兄弟達に俺からも話してみるよ。じゃあもう少し頑張ろうか」
「はい!ありがとうございます!」
そうして夕方近くまで俺とリリィは武術の鍛練に励んだ。
◆◆◆◆◆
その日の夜。今度はリリィが勉強を教えてくれると言うので俺はリリィの部屋に来ていた。リリィの部屋は本当に洋室で、きちんと整理されていて、あちこちに可愛らしい動物のヌイグルミが置かれていた。
(ホントに洋室だ。元は同じ部屋なのに全然印象が違うなあ。リリィは可愛らしい物が好きなのかな?今度ヌイグルミでもプレゼントしようかな?)
俺がそんな事を考えながらリリィの部屋をキョロキョロ見回していると飲み物を持ってきてくれたリリィに怒られてしまった。
「もう真白お兄ちゃんあんまりジロジロ見ないで下さい恥ずかしいです」
そう言ってリリィは顔を赤らめていた。リリィは風呂上がりなのか顔と同じように腕や足などもほんのり赤く、仄かにシャンプーのいい匂いがして、不覚にもドキッっとしてしまった。
(俺はなに考えてんだ!?勉強教えてもらいに来てるってのに血が繋がってないとはいえ妹にドキドキしてる場合じゃないだろ!?)
俺はリリィの普段の子供っぽいリリィとは違うほんの少し色気を感じさせるリリィの可愛さに当てられて1人でパニックになっていた。
「真白お兄ちゃんどうしたんですか?目がキラキラしてますけど何かドキドキするような事があったんですか?」
そういってリリィは机越しに俺の顔を近づけて来て、俺の瞳を覗きこんできた。
(リリィ近い!近いよ!それに風呂上がりだからかしんないけどそんな薄着で下から覗きこんできたら色々見えちゃうから!)
リリィは風呂上がりで暑いのか白いワンピースのようなパジャマしかきていなくてそんな姿で覗きこんできたからリリィの慎ましやかな胸が俺の視界に入りそうになり、俺のパニック状態は最高潮に達しつい立ち上がってしまった。
「ど、どうしたんですか!?真白お兄ちゃん!?」
「い、いや急いで来たから興奮してるのかな?ちょっと顔洗ってくるね」
そういって俺は顔を洗いながらさっきの光景を忘れる事だけに全神経を集中させた。
そして顔に冷水を浴びせまくる事10分、平静を取り戻した俺はリリィと勉強を始めた。
「そうです。そこでその式を代入して.....正解です!真白お兄ちゃんすごいです!私が教えなくても大丈夫じゃないですか?」
「いやいやリリィの教え方がめちゃくちゃ上手いからだよ!俺1人だったらこんなの全然解けてないよ。所でリリィは今はどのくらいの所まで進んでるの?中学生卒業程度くらい?」
「一応今は一流大学の入試に出てくる問題をやっている所ですね」
「大学入試!?リリィって俺の二つ下だから今10歳だよね!?10歳で一流大学の入試問題解いてるの!?凄すぎるよ!」
「そ、そんなことないですよぉ。ただ私は自分の知らない事を知る事が好きなだけなんです。」
俺がリリィの事を誉めると顔をリンゴのように真っ赤に染めて縮こまった。
(レビィがリリィは頭だけはいいっていってたからダメもとでお願いしてみたけど想像以上だな.....教え方もめちゃくちゃ分かりやすいし。1度レビィに今一流高校程度の所を勉強してるって言ってたから1度教えてもらったけど全然わからなかったからな。レビィは多分問題を見ただけで頭の中でその答えまでの過程をすっ飛ばして瞬間的に答えを導きだして解いちゃうタイプだから人に教えるのが不向きなんだな.....何でこんな簡単な問題も分からないんですかって言われてちょっとイラっとしたし.....それに引き換えリリィは1つ1つを丁寧に分かりやすく何故こうなるのかを自分で理解した上で教えてくれるからな将来学校の先生とかしたら人気でそうだなリリィは将来美人になるだろうし)
「いやホントにすごいよ俺はこんなにすごい先生に教えてもらえるなんて光栄だよ。リリィに教えてもらったら皆勉強が好きになるんじゃないかな?1人でやってる時は無理矢理頭に詰め込んでいくような感じで苦痛でしかなかったけど、リリィに教えてもらったら言葉の1つ1つが体に吸収されていくような感じがして頭にスッと入っていくもん。それで今まで知らなかった事が分かって勉強もすごく楽しく感じるこんな事が出来るのはどんなに有名な学校や塾の先生でも無理じゃないかな」
「真白お兄ちゃん私を爆発させる気ですか!」
そう言うとリリィはホントに爆発するんじゃないかというくらい真っ赤になっていた。そこで不意に後ろから声が聞こえた。
「仲良くお勉強してる所お邪魔して悪いけどリリィご飯まだ?僕武術の鍛練して帰ってきたからお腹減ってるんだけど?ってゆうか何そのクッキー?まさか!?リリィが作ったの!?僕ですらそんなの作って貰ったことないのに!それからリリィ!チューとかしてないだろうな!?ダメだよまだリリィには早いからね後真白兄さんとリリィは一応兄弟だからね」
後ろを振り向くとドアにもたれ掛かるようにして立っているレビィがこっちを見て不機嫌そうな顔をしながらそんな事を言ってきた。
「チューってレビィなに言って.....」
俺がレビィに言い返す前にリリィが爆発した。
「もぉー!!レビィ!!!何言ってるの!?ちゅ、チューって!?そんな事するわけないでしょ!!あと勝手に部屋に入ってこないでっていつも言ってるじゃない!?」
「何だよ!?兄として優しく見守ってるだけだろ!?」
「余計なお世話だよ!!もうレビィは出てって!あ!真白お兄ちゃんちょっと待ってて下さいね?レビィとお話してきますから」
「あ、はい」
そうして部屋を出ていった2人のケンカする声がこだまする中、その日はほとんど勉強が捗らないまま夜が更けていった。
次回は5/1(日)5/2(月)更新予定です