プロローグ3:黒ノ栖勇一郎
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俺が来年小学校の卒業を迎えるという12月の午後。
俺はばあちゃんに呼び出された。
俺がばあちゃんがの部屋に行くと、そこにはばあちゃんの他に、立派な口髭を生やして、黒い髪を逆立てさせ、相手を睨んだだけで相手を殺せそうな獅子のような鋭い目をした強面のおじさんがばあちゃんの前に座っていた。俺はそのおじさんに軽く会釈すると、ばあちゃんに何故呼ばれたのか聞いた。
「ばあちゃん話って何?」
俺が聞くとばあちゃんは相変わらずシワシワの梅干しみたいな顔を歪ませて嬉しいのか悲しいのかよくわからない顔で俺を隣に座るように促してくる。そして俺がばあちゃんの横に座ると、そのおじさんが口を開いた。
「君が真白君だね?」
「はいそうですけど。あなたは?」
「私は黒ノ栖勇一郎と言う。黒ノ栖カンパニーと言う会社をしているものだ」
それを聞いて俺は目を大きく見開いた。
黒ノ栖カンパニーとは様々な事業を展開し、企業全体の従業員は10万人を超す日本屈指いや世界屈指の大企業だ。
当時の俺はまだ子供だったし、そんな難しい事は分からなかったが、よくテレビのCMとかで流れていたので、名前くらいは知っていた。そんな偉い人が何故こんな所にいるのかと、ただただ驚いていると、唐突に黒ノ栖さんにこう言われた。
「君は何故そう必死に頑張る?」
俺はそう黒ノ栖さんに言われて言葉の意味が分からず首を傾げていると、黒ノ栖さんは指で髭をなぞりがら続きを話始めた。
「色名さんに聞かせてもらったが君は勉強やスポーツを熱心に取り組んでいるそうだね?君くらいの年頃の子供は遊びたい盛りだろうに、何故だ?」
そう。俺は黒ノ栖さんの言う通り、日向のあの涙を見たあの日から勉強やスポーツ、主に剣道や空手、柔道などの格闘系のスポーツをばあちゃんに頼んで近所の道場等に通わせてもらっていた。
そのせいであまり日向達とあまり遊べなくなってぶ~ぶ~文句を言われたが。
俺は黒ノ栖さんの問いに少し考えてから、意を決して答えた。
「えっと.....守りたい奴がいるんです。そいつはいつも自分より周りを優先して自分の事は二の次で、自分自身が辛くて苦しい時には皆に心配かけない様に夜に1人でこっそり泣くような奴なんです。だからせめて俺くらいはそいつの負担にならないように、出来たらそいつが辛くて不安で泣きそうな時は支えてられるように強くなりたいと思ったんです。でも俺馬鹿だから.....こんなやり方しか思いつかなくて.....
すいません。なんか上手く言えなくて」
俺は今まで話した事のなかった自分自身の気持ちを黒ノ栖さんに話した。ばあちゃんにも話した事がなかったから無性に恥ずかしくて顔が熱くなって赤くなってたと思う。そして俺の話を聞いた黒ノ栖さんはその黒いスーツの上からでも分かる大木の様な腕を組みながら「そうか」と短く答えた後、こう言った。
「だが足りないな」
「足りない?」
俺がまた黒ノ栖さんの言葉の意味が分からず首を傾げると黒ノ栖さんは驚く事を俺に言ってきた。
「真白。私の息子になれ」
俺は今日何回この人に驚かせられただろう。俺が唖然としていると、黒ノ栖さんは静かに話始めた。
「私は妻を早くに亡くしてな.....子供はいないんだが、私はこの先新しい妻を迎える気はない。だが私が亡き後、私の会社を継ぐ者は必要だ。だが私は今の会社の中にいる連中から選ぼうとは思ってない。私の会社は大きくなりすぎた.....」
黒ノ栖さんはそう言うと1つ溜め息をついて目線を上に向けて遥か遠くを見透すような顔をした後、続きを話始めた。
「私の家は元々道場をやっていてな、剣術、槍術、柔術その他のありとあらゆる格闘術を極めんとする道場だった。だが時代は移ろい道場にやってくる者が減ってくると当時の道場主、私の祖父なんだがこのままでは家族皆食っていくのも苦しくなると思ったらしい。そこで祖父は道場を売り払い、ある程度まとまった金が手に入ったのをきっかけにそれを元手に小さな会社を起こした。
そして祖父が掲げた会社の理念は『強くあれ』その一言だった。
会社の理念としてはおかしな理念かもしれんが、祖父は肉体的に強くなければ何事も達成できない。精神的に強くなければ目標までの道のりを走りきれない。
そう考えた祖父はその理念の元、会社を動かし始めた。
祖父は元々経営の才があったのだろう。
そして祖父は皆を引っ張っていくだけの強さとカリスマ性を備えていた。
そして会社はみるみる拡大していった。ここまではよかった。
だが会社が父の代に変わってからは今ある事業を維持、そして目先の利益ばかりが優先され、極めつけには己の保身や利益の為に、相手をどう蹴落とせばいいか、そんな事しか考えていない連中ばかりになってしまってな。己自身が強くなる、高めるという意識、理念が忘れられてしまった。
だが私はこのままでは駄目だと思った。だから私は自分の代で祖父の理念の元、会社を昔の様に強くする為に動き始めた。だがその意思を継承していく人間がいなければ意味がない。かといって今の私の会社の中には残念なことに私が認めるだけの強さと器を持った奴は存在しない。そこで私は自らで育てる事にした。祖父の、そして私自身の理念を受け継いでいく者を。まあまだ子供のお前には難しい話かもしれんな」
そう言うと黒ノ栖さんは「ククク」と笑みを残した。
俺は正直この時の話の意味が難しくて殆ど分からなかった。俺の頭のなかでは、
(強い会社?どんなのだろう?)
そう考えながらビルとビルがボクシングしていたくらいだ。
そんなバカな俺でも黒ノ栖さんのここからの話を聞いて胸が高まり、とても興味を引かれたのを覚えている。
「そこで私は世界中の孤児院などの施設を周り、調査し、私が見込みがあると判断した子供達を集めて私の後継者として育てようと思った。
そこで君は私の眼鏡にかなったんだよ真白。どうだ?私の息子になればお前が守りたいというものを守れる力を手に入れられるかもしれない。そういった環境は整えているつもりだからな。
そして.....お前に足りないものが分かるかもしれない」
黒ノ栖さんはそう言った後、あの獅子のような鋭い目で俺をじっと見てきた。そして俺はその目を見つめながら、
「何故.....俺なんですか?」
何故俺が黒ノ栖さんに選ばれたのかと疑問に思いそう口にすると黒ノ栖さんは唐突にこう言い出した。
「お前は面白い目を持っているそうだな」
そう言うと黒ノ栖さんは頬を吊り上げて笑った。
「はい.....感情が昂ったりすると瞳の色が変わるんです。って言うか黒ノ栖さんもう見てますよね?俺今日黒ノ栖さんと話してから驚かせられっぱなしですから絶対変わってますよ」
そういって俺は自分の目を指差す。
「ククク。確かにな。面白い奴だよ。お前は。.....私はな真白。お前のその不可思議な瞳の奥に見たんだよ。その幾重にも変わるお前の瞳の色と同じ様に色んな姿をしたお前を。色んな可能性を秘めたお前をな。俺はそういうお前に興味が出た。ただそれだけだ」
黒ノ栖さんはそう言うと豪快に笑い始めた。俺はそれを見て口を開けて唖然としながらも、
(ライオンて笑ったらこんな感じなのかな?)
とそんな場違いな事を考えていた。
それを見た黒ノ栖さんは俺が何も答えないので悩んでると思ったのか、
「まあ返事は急がなくていい。そうだな.....お前が小学校を卒業する頃にもう1度返事を聞きにこよう。そこでまたお前の返事を聞かせてくれ」
黒ノ栖さんは立ち上がり、「では失礼する」とそう言い残して出ていった。
(まるで嵐のような人だったな。人の心をかき乱すだけ乱して行っちゃったよ)
そして黒ノ栖さんという嵐が過ぎ去り、ポツンと残された俺とばあちゃんの2人は黒ノ栖さんという嵐が過ぎ去ったこの静けさを取り戻したこの場所でしばらくの沈黙があった後、最初にばあちゃんが話しだした。
「まったく.....あんたはいきなりあれやりたいこれやりたいとか言い出したと思ったらそんな事考えてたのかい?」
そう言いながらばあちゃんはハァ~と1つため息をついた。
「まあね。ごめんね。ばあちゃん黙ってて。でもこれは俺自身の問題だから.....今の俺のまんまじゃ日向の事、安心させられない.....守ってやれないって思ったから.....ばあちゃんがよく言ってたじゃん?お前の真白って名前はこれからどんな色にも染まって行けるって.....だから真白って、名前なんでしょ?だから俺自身も確かめたいんだ。俺の色が何色なのか.....俺の世界はどんな色なのか.....だからばあちゃん.....俺黒ノ栖さんの所に行くよ.....正直そんなでっかい会社の後継者とか話が大きすぎて分かんないしそれにあんまり興味もないけど。ここを離れるのも不安だらけだけど.....あの黒ノ栖さんの所に行けば自分がどんな可能性を秘めてるのか.....分かる気がするんだ。それに俺に足りないものってゆうのも気になるし」
俺がそう言うとばあちゃんは白髪混じりの頭をガシガシ掻くと、
「そうかい。まああんたが決めた事だし、ここは孤児院だからね。新しい親が見つかるってゆうのは嬉しい事だからね。だけど日向はどうするんだい?あの娘は絶対反対すると思うよ」
俺はばあちゃんにそう言われて、胸が締め付けられるように感じがして顔を伏せる。
「うん.....日向からは俺から言うよ.....」
「そうかい。まあなんにしてもおめでとう真白。学校卒業と共に孤児院も卒業だね。しっかりやるんだよ。まあ卒業って言ってもここはあんたの家だ。いつでも帰って来ていいんだよ」
「うん。分かった.....ばあちゃん.....いままでそだでで.....ぐれて.....ありがどうございました」
俺は日向と約束した時以来泣かないようにしてたけど、この時はばあちゃんと今まで過ごした時間の事を思い出すと我慢出来なかった。
「あんたの泣き虫は中々治らないねぇ」
そう言いながら俺をここまで育ててくれた梅干し顔のばあちゃんは笑いながら、俺の頭を撫でてくれた。
◆◆◆◆◆
その日の夜、 孤児院の皆で夕食を食べて風呂に入り、各々が宿題やテレビやゲームをして遊んだりし始める頃、俺は日向を呼び出した。
「日向ちょっといいかな?」
「うん.....」
日向は下を向いて何故か元気がなかった。俺はそれが気になったが、とりあえず2人になりたかったので孤児院の庭にあるブランコの所までやって来た。
「日向元気ないけどどうしたの?お腹でも痛い?」
俺が心配になり、そう聞いても日向は下を向いたまま何も答えない。
「日向?」
俺がもう1度日向の名前を呼ぶと日向は顔を勢いよく上げてその瞳に涙を一杯溜めて俺を睨んできた。
「しろちゃんのせいでしょ!」
そう言って日向は俺のことをポカポカ叩き出した。俺は初めはびっくりしたが日向が何故怒っているかすぐに分かった。
「もしかして聞いてたのか?俺と黒ノ栖さんの話.....」
すると俺のことを叩いていた日向の手がピタッと止まってコクッと頷いた。
「うん.....おばあちゃんの部屋に怖い顔した知らないおじさんが入って行ったから誰だろうと思って見に行こうとしたらその後しろちゃんが来て.....」
そう言って日向はまた俯く。
「そっか.....日向.....俺黒ノ栖さんの所に行こうと思う。正直、俺なんかじゃ想像もつかないでっかい会社の後継者になれって言われても、実感も興味もないけど黒ノ栖さんの所に行けば俺自身強くなれる気がするんだ。黒ノ栖さんの所に行って色んな事を学んで、そして強くなって日向を安心させれるように.....日向を色んな事から守れるように.....そしたらまたここに戻って来て日向を迎えに来るよ」
「そっか.....絶対に迎えに来てくれる?」
そう言うと日向は俺の胸に顔を埋めた。そして俺はそんな日向の頭を優しく撫でながら日向に言った。
「必ず迎えに来るよ。それまで待っててくれる?」
「正直しろちゃんが居なくなったら寂しいし、不安で不安でしかたないけど.....しろちゃんが頑張ってるんだって思ったら私も頑張れる.....でも私は弱いから1人だとすぐ泣いちゃうから.....しろちゃんが迎えに来てくれるまで頑張れるようにしろちゃんの元気ちょっとだけ分けて?」
日向はそう言うとその潤んだ瞳を閉じて、ほんのり赤く染まった顔を上に少し上げてその柔らかそうな唇を少し前に突き出し俺に近づけてきて、何かを待っている。
俺はそんな様子の日向を見て、さすがに俺が鈍くて、小学生だったって事を差し引いても日向が何を待っているのか分かった。分かったが、当時の俺はその日向の気持ちに答えてやれる程の度胸はなかった。って言うか日向がマセガキ過ぎた。まぁそうゆうのは女の子の方が興味を持つのが早いっていうけど.....
だがさすがに女の子がここまでしてくれて何もしないという度胸も俺にはなかった。
だから俺は日向のその透き通るほど白い肌の小さな額に触れるか触れないか分からないようなキスをした。
「しろちゃんの意気地無し.....」
そう言って日向にジト目で見られながらも俺は日向に弁解する。
「今の俺にはこれが限界だよ。ってか日向顔真っ赤じゃん!」
「それはしろちゃんも一緒だよ!」
そう言って2人は初めて出会った時の様に、友達になったときのように吹き出して笑いあった。
だがあの時と1つ違うのは俺が日向に対する気持ちだった。
次は日曜日更新予定です