第3話 従者の後悔
私が、いつも通りマギカボックス家の庭を掃除していたとき。王族の使う馬車が到着し、中からアテネお嬢様が出てきたと報告がありました。
急いで駐車場に行くと、確かにアテネ様がおります。
「アテネ様。学園はどうなされたのですか?」
「ごめん。ちょっと用事ができちゃって。すぐに出なきゃいけないんだ」
「用事、ですか?」
「うん。悪いんだけど、私の遠出用のかばんのチェックおねがいしてもいい?」
「わかりました。……ですが、遠出、ですか?」
「遠出だよ。ちょっと長くなるかも」
「そうですか。アテネ様がいないと、ガリア様もカスピ様もさみしがります」
「うん……ごめんね」
おねがい。そう言うと、アテネ様は屋敷の中に入って行きました。
40分後。荷物の最終手入れや魔道具の動作確認をし、着替えを詰めて駐車場で待っていると、アテネ様がやってきました。
「待った?」
「いえ」
「うう。ごめん」
「待ってないですから。それよりアテネ様」
「なあに?」
「顔が青白いですが、大丈夫ですか?」
「そう? たぶん緊張してるんだよ……」
「緊張ですか!?」
「私だって緊張するよ!」
「そう、でしたか……。驚きました」
「むー。ま、でも落ち着いた。ありがとう!」
「それは何よりです」
「あ、そうそう。家族とみんなに手紙書いたんだ。みんながいるときに読んでほしいな」
「わかりました。では、行ってらっしゃいませ」
「行ってきます!」
アテネ様は、元気いっぱいに挨拶して馬車に乗られました。……いつも通りに。
夕暮れ時。血相を変えた旦那様が、ガリア様とカスピ様を連れて帰って参りまして。「アテネは!? アテネはどこだ!」と叫ぶので「用事があると昼頃に屋敷を離れました」と返答すると、旦那様は膝から崩れ落ちました。
屋敷に運び込み、皆を集めアテネ様から預かった手紙を渡すと、旦那様が読み上げます。
『マギカボックス家当主、ウカイ・マギカボックス様へ
私は、今回第1級追放処分を受けました。
風評被害があるかと思いますが、家への処分はないらしいので後始末を宜しくおねがいします。
お父さん。お母さん。親不孝な子供でごめんなさい。
お兄ちゃん。カスピ。ごめんね。私、ダメな子だったよ。
従者のみんな。できれば、みんなを支えてあげてください。
アテネ
苗字がなくなっちゃったから、名前だけでごめんね。』
読み終えたとき、もう旦那様は続きのない手紙を凝視し続け。ガリア様は頭を抱え消沈し。カスピ様は顔を押さえた手から涙がこぼれ落ち続けています。
そして、私は膝をついて床を殴り続けた。
最後に会ったのは私なんだ! あのとき、アテネ様の変化に気づいていれば。何か、何か出来たはずなのに! ちくしょう! ちくしょう!